前世の記憶を取り戻したら貴男が好きじゃなくなりました

砂礫レキ

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四十三話 王家の兄弟

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 ロゼが女友達として校内で傍にいてくれるようになった。

 同性で同学年なので同じクラスになれたのが大きい。

 彼女は変わり者だがとても賢くて、そしてさりげない気遣いが上手だった。

 何よりも男装の麗人だ。

 愛想もいいので復学してすぐ女生徒たちの憧れの的になってしまった。

 廊下を歩けば性別関係なく視線を集める。

 もしかしたら男装する前から人気はあったのかもしれない。凄い美人だもの。

 そして彼女が目立てば自然その横にいる私にも視線がくる。


「それが丁度いいんだ」


 部室で笑いながらロゼが説明してくれた。

 多くの生徒が見ている前でならアリオス殿下も変な真似は出来ないだろうと。


「私が万が一目を離した瞬間に聖女様が攫われても小鳥たちが教えてくれるだろう?」


 小鳥というのは女生徒のことだろうか。成程と私は頷いた。
 
 でも聖女様呼ばわりは恥ずかしい。彼女特有の気障な言い回しなのだろうけれど。


「何というか君に振られたせいか、馬鹿殿は随分とタガが外れている気がする」


 だから校内で一人で行動してはいけないよ。教師のように話すロゼに私は首を傾げた。


「ロゼの目から見てアリオス殿下は人が変ったように見えるの?」

「変わったね、女性を見下しはしても手を上げるような男ではなかった」


 そうでなければ、私が男子制服で挑発した時に暴力沙汰になっていた筈だ。

 ロゼは考え込むような表情を浮かべる。

 確かに言葉でなく暴力でアリオス殿下に傷つけられそうになったのは先日の廊下が初めての気がする。

 だとしたら悪い方に変わっているなと思った。


「どちらかと言えば彼には王に相応しい人間として生まれ変わって欲しいのだけれど」

「……君は本当に聖女なんだね」


 そうしみじみと言われて少し恥ずかしくなる。やはり甘い考えなのか。


「セリス王子も弟には甘かったな、自分の方が優秀なのに期待して情けをかけて……」


 どちらが王に向いているのかなんて誰でもわかっていたのに。

 そう唇を噛むロゼの瞳は暗く澱んでいる気がした。彼女はセリス王子と知り合いなのだろうか。

 そしてセリス王子は、やっぱり亡くなってしまっているのだろうか。

 ロゼに尋ねると「生存している可能性は低いと思う」という答えが返ってきた。

 アリオス殿下の「あの世」発言が根拠かと訊くと頷かれた。


「でもセリス王子の状況をあいつが三年前から知っていて、今まで黙っていられたとは思わない。そこが気になる」


 もし知ったばかりなら、自分が次期国王だと浮かれて今まで以上に強引な行動に出るかもしれない。

 だから気を付けるように。そう警告してくる彼女に私はわかったと頷いた。


「でも、実際の生死がどうだろうと、アリオスがセリス王子を死んだと発言したのは間違いだと思うよ」


 不敬で軽率すぎる。下手をすれば弟が兄を謀殺したと思われてもおかしくない。

 父を通してその発言は国王の耳に入れて置こうと思う。ロゼの言葉を私は止めなかった。

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