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四十二話 聖女との約束(アリオス視点)

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『変だなあ、大切に残された方のがきっとおいしいと思ったのに。やっと聖女の護りが消えたのに』


 だからこっそり食べにきたのに。がっかりだ。

 そう巨大な蛇は子供のように失望の声を上げた。言っている意味は殆ど理解できない。

 だが自分はここで化け物に殺されなくて済むのかもしれない。そんな希望が芽生えた。


『食べないけれど、玩具にはしちゃおうかな』

「な……」

『殺さなければ約束を破ったことにはならないし。それにお前は痛い思いを覚えた方がいいよ。だってぶよぶよしている割に中は空っぽなんだもの。この前食べたニエとは大違いだ』


 あれは薄味だったけど丁寧に生きてきたから美味しかったなあ。

 うっとりと蛇は言う。


『でも量が少ないから、あれだけじゃ足りない』


 ぎらりと爬虫類特有の目が妖しく輝く。俺の体を拘束する尾の力が強くなった。

 ぎりぎり、ぎちぎちと水を吸った皮鞭のようにきつく締め上げてくる。


「止めろっ、やめ。や、め、あ、あ」


 首から下に巻き付いた尾が、満遍なく丁寧に体を圧縮していく。ゆっくりと肉体が壊される恐怖は激痛を上回る。

 そういえば蛇は獲物を丸飲みにする為に全身の骨を砕くと聞いたことがある。

 畜生、矢張り俺は殺されるのか。何で俺なんだ。他の人間でもいいだろう。


『そりゃ他の人間の方がいいよ、だってお前不味いもん。でも食べていいのは王家の奴だけなんだ』


 そう二百年前に聖女と約束したんだ。

 どこか誇らしげに大蛇が言う。その時には既に呻き声すら上げることが出来ない状態になっていた。

 聖女とやらが俺をこんな地獄に堕としたのか。そうか。絶対許さない。

 今されていることの何倍もの責め苦を味合わせて殺してやる。

 見知らぬ聖女への憎しみで意識を繋いで拷問が終わるまで耐え抜いた。


『お前二百年前に食べた、一番不味かった奴とそっくりだよ』


 最後にそう言って大蛇は消えた。この化け物も絶対に殺してやる。いつかその体を俺の方が食らってやる。

 俺を痛めつけるもの、俺を軽んじる者、俺の妨げになるもの全部。俺の敵だ。そう誓った瞬間気を失った。


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