前世の記憶を取り戻したら貴男が好きじゃなくなりました

砂礫レキ

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三十五話 双子の戯れ

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 あの後私はロゼマリアを信じ切ることが出来ず部室の中に入ることが出来なかった。

 扉の前で二人で立ち尽くしていると少ししてから、若干服を乱したアルがやってきてようやく彼に真実を確認することが出来た。

 ロゼマリアは確かにアルバートの姉だった。

 私は彼女にすぐに信用できなかったことを詫び、改めてアリオス殿下から救ってくれたことに礼を言った。

 そこでアルがその事について詳しく聞いてきたので先程殿下に廊下で襲われたことを話した。

 すると彼は険しい顔になり来た道を戻ろうとして、ロゼマリアに阻止され部室の中に引っ張り込まれた。
 
 赤髪の麗人に室内から手招きされ、私も今度こそ躊躇わず部室の中に入る。

 その後ロゼマリアは扉に内側から鍵をかけた。彼女が行ったせいかどこか艶やかで妖しい行為に私には思えた。


「全員揃った所で……うん、まず愚弟は落ち着け」

「これが落ち着けるかよ!」


 姉に窘められたアルは逆に怒鳴り返す。思わずそれにビクリとしてしまった。

 彼がこんな風に荒々しく感情的になったのを見るのはこの姿では初めてだ。

 私の怯えに気づいたロゼマリアが私の肩を優しく抱きながらアルを責める。


「ほらほら、君の聖女様が怖がってらっしゃるよ。騎士失格でちゅねー」

「ぐっ……」


 赤ちゃん言葉で注意されアルが悔しそうに俯く。その顔は本当に悔しそうだった。こんな顔も初めて見る。

 私がこの世界で有ったアルは少し意地悪だけれど冷静で賢くて親切な優等生だった。

 しかし今目の前でロゼマリアの言葉に屈している彼は……うん、弟だ。


「二人は本当に姉弟なのね……」


 私はしみじみと呟く。ロゼマリアは誇らしそうに肯定し、アルは微妙な顔で「嫌すぎる」とだけ呟いた。

 それを聞き逃すことなく姉は弟に近づいてその首にがしりと自らの腕をかけた。


「双子だけれど昔から手のかかる弟でね。でもそういうところが可愛くて堪らないのさ」


 私は姉だからね。そう力強く言い切ってロゼマリアは太陽のように笑った。

 先程までの妖しい薔薇のような艶やかさは消えているがそれでも魅力的な笑顔だった。

 アルとロゼマリア。双子たちの戯れを見ているとアリオス殿下に襲われかけた恐怖もだんだんと消えていくのを感じた。

 でも彼女は先程アルを騎士扱いしていた。するとやはり彼の前世のことも詳しく知っているのだろう。

 双子の姉としてそれを知ったのはいつ頃だろうか、そして知った時弟に対してどう思ったのだろうか。

 私は彼女に聞きたくなった。私にも、弟がいるのだ。
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