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三十四話 疑心暗鬼

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「アル……の双子の、姉……?」

「そう、私の事も気軽にロゼって呼んでね」


 人懐こい表情でロゼマリアは私にリクエストする。私は彼女の整った顔を無遠慮に見つめた。

 賢そうな緑の瞳はアルに似ている気がする。しかし髪の色が全く違う。

 兄弟姉妹なら兎も角双子だと言われると違和感がある。前世で見た双子の巫女は瓜二つだった。

 けれど私が知らないだけで色合いが違う双子は普通に存在するのかもしれない。

 そのようなことを考えていると、まるで心を読んだかのようにロゼマリアは自分の髪を指先でつまんだ。


「ちなみに髪の毛は染めてるよ。元々の色はアルバートと同じ」

「えっ」


 それは校則的に大丈夫なのだろうか。脳内に生徒手帳の中身を浮かべるが是非がスッと出てこない。

 そもそも女子が男子生徒の制服を着ていることも問題ないのだろうか。

 私の混乱を面白そうに眺めながら男装の美女は笑った。


「校内で今更私の外見に驚かれると逆に新鮮だね。……しかも元級友に?」

「……っ」


 意地悪な猫のように笑いながら言う彼女に、私は口元を手で覆った。

 確かにそうだ。こんな目立つ生徒、初対面でなければ記憶に残らない訳がない。

 先日アルに引っ掛けられたことを思い出した。似ている。

 姿形ではなく、こちらを探るやり方が。

 ただアルと違ってロゼマリアは従兄弟だとか嘘を吐いていない。私が不用意過ぎただけだ。

 いや双子の部分が事実なのかはわからないが。でも似ているような気がする。

 なんだか頭が痛くなってきた。元聖女らしく真実を見通す能力がこの体に備わっていれば楽なのだが。

 でもエミヤの時だってそんな便利な力は持っていなかった。だから利用されるだけの使い捨ての道具で終わった。

 竜を倒せる魔法を使えても、頭が良くなければ、人の心に詳しくなければ、人を知らなければ、誰かが振るう武器にしかなれない。

 そして転生した後の私には武器として使う為の力もないのだ。


「あはは。そこまで警戒しないでいいよ。私は敵じゃない。寧ろ味方だ」


 騎士団長様から召集令状が来たのさ。ロゼマリアの言葉に私は目を見開く。

 アルの前世はアルファード・ウェイン、二百年前の騎士団長だ。

 そのことを言っているなら彼女は「私たち」のことを知っている?

 そして彼女の発言が事実ならロゼマリアが私と接近したのはアルの手配なのだろうか。

 信じることも嘘を見抜くことも出来ず私はただ黙っているしかなかった。

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