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三十一話 ロゼマリア

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 謎の麗人からの指摘に対し、アリオス殿下は口を半開きにしたまま固まってしまった。

 私も何を言っていいかわからず気まずい沈黙が流れた。

 しかしそれも少しの間で軽やかな笑い声が空間を満たす。それは沈黙を生み出す原因となった赤髪の彼女のものだった。


「くくっ、ははは」


 心底おかしそうに笑う彼女にアリオス殿下の頬が赤くなる。怒りと羞恥のどちらの感情かはわからない。両方かもしれない。


「そういうところだよ、第二王子殿下。三年も経つのにまだ王太子に任命されない理由」

「貴様……!」

「陛下はあれでいて君に一番甘い。自分に一番似ているからね」

「……何?」


 怒りの形相になった殿下だが相手が続けた言葉に興味を示す。それはどこか幼い子供のような表情だった。

 だが彼女の次の台詞でまた険しいものへと変わる。


「ここまでお膳立てをしておいて、だが任命には踏み切れない。それは君の王としての才覚のなさが原因だ」

「何だと……!!」

「白昼堂々女性に乱暴しようとする間抜けな男を、それを見咎められる男を、自分の後継に据える程陛下の自尊心は低くないだろうよ」


 少なくとも現状なら生前退位はしないだろうね。そう赤髪の麗人は冷静に語った。

 確かにと私は頷く。

 あの国王に子に対する愛があるかは疑問だが、愚かな王を選んだ結果任命者である己の評価が落ちるのは望まないだろう。


「公爵令嬢が今起きたことを公表するなら私も目撃者として加勢するよ。どうする、アリオス殿下」

「くっ、それは……やめろ、ロゼマリア」


 アリオス殿下の言葉は傲慢だったが口調は弱々しいものだった。

 それがおかしかったのかロゼマリアと呼ばれた女性は再び笑い声をあげる。


「馬鹿だな、決めるのは私じゃない。乱暴された令嬢さ」


 この二人の関係は一体何なのだろう。彼女の行動も話し方もとても第二王子に対してのものとは思えない。

 だが今は興味よりも優先すべきことがある。私はアリオス殿下に対し交渉を持ちかけた。

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