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二十三話 懐かしい似顔絵

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「とりあえず君のこれからの学校生活だけれど」

「ええ」

「エミア嬢は成績がかなり下の方だったから授業については心配しなくていい」


 公爵令嬢に恥をかかせないよう教師も配慮している筈だ。

 その台詞にどういうことだと聞いたら「アリオス殿下と同じで授業で当てられることは無い筈さ」との回答だった。

 アルは私の質問に答えつつ部室に置いてあったノートに何かを書き込んでいる。


「シュタイト公爵令嬢は立場に比べ本人自体はひたすら大人しい、影の薄い生徒だったと思う」

 
 ただ、教師の名前と顔は覚えておいた方が良い。その言葉とともにノートから紙を千切る。

 そこには何人かの名前と年齢、担当している教科、そして似顔絵らしきものが書き込まれていた。

 よく言えば味のある人物画に私は思わず笑みを堪える。

 前世、騎士団長だった頃と変わらない独自の画風が面白くもあり懐かしくもあった。


「……似ているか似ていないかで言えば似ている方だから。似顔絵としての役割は十分な筈だ」


 頬を少し赤くし憮然とした表情でアルは言う。

 その居直り方にも懐かしさを感じつつ有難うと言って私は紙を受け取った。


「それと他にエミアに友人とかがいたらその情報も知りたいのだけれど」

「友人?校内で誰かと親しくしている様子は見たことないけれど」


 元婚約者以外とはね。そうアリオス殿下のことを指してアルは首を傾げた。


「あれを親しくしていると言っていいのかは謎だけれどね」


 主人の機嫌を伺い続けている奴隷のようだったよ。

 そう言われて思わずアルを睨みつけてしまう。しかしその言葉に揶揄の意図がないことに気づき私は視線をそらした。

 エミアを馬鹿にするつもりなどなく、本当にそう見えただけなのだろう。

 アリオス殿下の取り巻きにあんた呼ばわりされたことを思い出した。


「……友人や親しい人がいなかったなら、その方が気が楽だわ」

「そうだね、それに君と第二王子の間には婚約破棄のイベントが起こった。これは変化の理由になる」


 殿下の方はそれを周囲に知られたくないようだけれどね。ニヤリと眼鏡を光らせてアルは笑った。


「まずは学校生活に慣れることから始めるといい。勉強も含めサポートするよ」

「本当に助かるわ、アル」

「構わないよエミー、ただ条件があってね」


 野草茶研究会の部員になってくれるかい?

 輝くような胡散臭い笑顔でアルは私に入部届を差し出してきた。
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