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二十二話 獰猛な協力者
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前世、聖女だった私と騎士団長だったアルは立場こそ違えど戦友のような間柄だった。
王命で戦いに駆り出されるのはどちらも同じで、当時この国は強力な魔物が山ほどいて命など幾らあっても足りなかった。
最初は生存確率を高めるために私たちは協力していたが、いつしか戦いの場でだけ顔を合わせる相棒のような関係になっていった。
エミヤが死んだ後、アルはどれぐらい生きただろうか。
そんなことを考えながら私は止まらない涙に戸惑っていた。
「べ、別にアンタに会えて安心したとかじゃないんだからね」
「口調、昔のものに戻っているけれど」
そうハンカチを差し出しながら彼は言う。私は遠慮なくそれを借りた。
こんなやり取りすら懐かしい。
「仕方ないじゃない、本当はこっちの方が楽なんだもの」
「魂を二つに分けるとかしたせいで、公爵令嬢としての経験が君の方に反映されてないからだよ」
馬鹿な事をしたね。そう冷たい声で言われて内心少し不貞腐れる。
「だって、折角生まれ変わっても私のままじゃ幸せになれないと思ったのだもの」
前世の記憶なんて私には余分なものでしかなかった。
流石にその言葉はアルの前では飲み込んだ。だが察しのいい彼の事だから気づいているのかしもれない。
「それで、聖女エミヤの記憶と人格を完全に封じて生きてきた十七年間は、エミア嬢は幸せだったのかな?」
「……意地悪」
「事実を指摘しているだけだよ。だが過去を悔いていてもどうにもならないのも確かだ」
君はこれからどうしたいんだ、エミー。そう真っ直ぐな目で見つめられ私はアルに答える。
「王冠を被った馬鹿親子と完全に縁を切りたい。特にアリオス殿下とね」
「他には?」
「その為に行方不明のセリス殿下が鍵となる気がする。だから彼がどうなったか知りたい」
私の言葉にアルは真剣な顔でわかったと答えた。
「簡単な願いではないけれど出来る限り協力はするさ。それで君が今後幸せになれるなら」
ついでにアルバートとしてもあの馬鹿王子にはいい加減腹が立っていたからね。少しは悔しい思いをして貰おう。
そう獰猛な顔で笑う姿は騎士団長の面影を強く残していた。
王命で戦いに駆り出されるのはどちらも同じで、当時この国は強力な魔物が山ほどいて命など幾らあっても足りなかった。
最初は生存確率を高めるために私たちは協力していたが、いつしか戦いの場でだけ顔を合わせる相棒のような関係になっていった。
エミヤが死んだ後、アルはどれぐらい生きただろうか。
そんなことを考えながら私は止まらない涙に戸惑っていた。
「べ、別にアンタに会えて安心したとかじゃないんだからね」
「口調、昔のものに戻っているけれど」
そうハンカチを差し出しながら彼は言う。私は遠慮なくそれを借りた。
こんなやり取りすら懐かしい。
「仕方ないじゃない、本当はこっちの方が楽なんだもの」
「魂を二つに分けるとかしたせいで、公爵令嬢としての経験が君の方に反映されてないからだよ」
馬鹿な事をしたね。そう冷たい声で言われて内心少し不貞腐れる。
「だって、折角生まれ変わっても私のままじゃ幸せになれないと思ったのだもの」
前世の記憶なんて私には余分なものでしかなかった。
流石にその言葉はアルの前では飲み込んだ。だが察しのいい彼の事だから気づいているのかしもれない。
「それで、聖女エミヤの記憶と人格を完全に封じて生きてきた十七年間は、エミア嬢は幸せだったのかな?」
「……意地悪」
「事実を指摘しているだけだよ。だが過去を悔いていてもどうにもならないのも確かだ」
君はこれからどうしたいんだ、エミー。そう真っ直ぐな目で見つめられ私はアルに答える。
「王冠を被った馬鹿親子と完全に縁を切りたい。特にアリオス殿下とね」
「他には?」
「その為に行方不明のセリス殿下が鍵となる気がする。だから彼がどうなったか知りたい」
私の言葉にアルは真剣な顔でわかったと答えた。
「簡単な願いではないけれど出来る限り協力はするさ。それで君が今後幸せになれるなら」
ついでにアルバートとしてもあの馬鹿王子にはいい加減腹が立っていたからね。少しは悔しい思いをして貰おう。
そう獰猛な顔で笑う姿は騎士団長の面影を強く残していた。
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