22 / 74
二十一話 過去との再会
しおりを挟む
「アルファード・ウェイン……? 貴方、もしかして泣き虫アルなの?!」
「……予想通りの正体で嬉しいけど、相変わらず口が悪いなエミーは」
まさか二百年後の世界で再びその名を聞くとは思わなかった。しかも本人から。
騎士団長アルファードとは前世で王にこき使われる者繋がりで仲が良かった。
同僚のような戦友のような関係だった。
まさか再会できるなんて。私は遠慮なしに彼をべたべたと触った。
最後に会った時よりも若いし体が細い。身長も低い。子供だ。
私がそう言うとそれは君も同じだろうと返された。確かにそれはそうだ。
「でもやっぱり顔が違うわね。全く似ていない訳でもないけれど、親戚って感じ」
「転生して別人に生まれ変わったからね。……君と同じように前世の記憶は残っていたけれど」
君にも当然残っているんだよね?
確かめるように言われて私は頷く。アルは疲れた顔をしながら「よかったよ」とだけ言った。
ソファーを勧められて対面に座る。
「そうなると僕の事を何一つ知らないシュタイト令嬢はエミーの双子の妹か姉なのかい?そもそも君を校内で見たのは初めてだけれど」
「ちょっと待ってアル、一から話すから……」
私は彼の推理を止める。
「私別に私は双子として転生したわけじゃないの。ただ一つの体に魂が二つあったというか分けたというか……」
転生した赤子の中に前世の自分が丸々残っていた。だから魂を分離させた。聖女の記憶持ちの魂は厳重に封じて隠した。それが私だ。
そして何も知らない魂はエミアと名付けられて両親に可愛がられながら公爵令嬢として育っていった。
今は色々あってエミアが肉体を放棄しているから自分が動かしている。そう説明するとアルは砂利を噛んだような顔をして考え込んだ。
「何でわざわざそんな面倒くさいことしたんだ?」
ぽつりと聞かれ今度は私が答えに困る。折角生まれ変われたのだから過去の自分なんて邪魔なだけだけろう思ったからそうしたのだが。
前世の記憶を持ちながら生きることを当たり前に選択したらしいアルに話すには気まずい考えではある。
けれど私の態度に察したのはアルは眼鏡を指で直しながら再度自分から話し始めた。
「……そもそも前世の記憶があっても別に良くないか?魂を二つにわけるなんて聖女だから出来ることだからある意味凄いと思うけれど」
「その時の私には不要だと思えたのよ、アル。新しい自分は何も知らず自由な生き方をして欲しかった」
貴族の家に生まれた以上それは難しい願いだったのかもしれないけれど。
私の答えが不満だったのかアルは茶を淹れてくるとソファーから立ち上がった。
「違うねエミー。君は自分の前世にうんざりしていたんだ。また聖女扱いされてこき使われる人生が心底嫌だったのさ」
その為に魂を分離させるまでした。台所へ続くらしい扉に手をかけながらアルファードが言う。
「でも安心していい。僕はアルファードのままだが騎士にはならない。君もエミヤのままで聖女以外になるといいさ」
前世からの縁だ。手助け程度はしてあげるよ。
私のことをよく知る長い付き合いの彼。その言葉に私の涙腺は急激に崩壊した。
「……予想通りの正体で嬉しいけど、相変わらず口が悪いなエミーは」
まさか二百年後の世界で再びその名を聞くとは思わなかった。しかも本人から。
騎士団長アルファードとは前世で王にこき使われる者繋がりで仲が良かった。
同僚のような戦友のような関係だった。
まさか再会できるなんて。私は遠慮なしに彼をべたべたと触った。
最後に会った時よりも若いし体が細い。身長も低い。子供だ。
私がそう言うとそれは君も同じだろうと返された。確かにそれはそうだ。
「でもやっぱり顔が違うわね。全く似ていない訳でもないけれど、親戚って感じ」
「転生して別人に生まれ変わったからね。……君と同じように前世の記憶は残っていたけれど」
君にも当然残っているんだよね?
確かめるように言われて私は頷く。アルは疲れた顔をしながら「よかったよ」とだけ言った。
ソファーを勧められて対面に座る。
「そうなると僕の事を何一つ知らないシュタイト令嬢はエミーの双子の妹か姉なのかい?そもそも君を校内で見たのは初めてだけれど」
「ちょっと待ってアル、一から話すから……」
私は彼の推理を止める。
「私別に私は双子として転生したわけじゃないの。ただ一つの体に魂が二つあったというか分けたというか……」
転生した赤子の中に前世の自分が丸々残っていた。だから魂を分離させた。聖女の記憶持ちの魂は厳重に封じて隠した。それが私だ。
そして何も知らない魂はエミアと名付けられて両親に可愛がられながら公爵令嬢として育っていった。
今は色々あってエミアが肉体を放棄しているから自分が動かしている。そう説明するとアルは砂利を噛んだような顔をして考え込んだ。
「何でわざわざそんな面倒くさいことしたんだ?」
ぽつりと聞かれ今度は私が答えに困る。折角生まれ変われたのだから過去の自分なんて邪魔なだけだけろう思ったからそうしたのだが。
前世の記憶を持ちながら生きることを当たり前に選択したらしいアルに話すには気まずい考えではある。
けれど私の態度に察したのはアルは眼鏡を指で直しながら再度自分から話し始めた。
「……そもそも前世の記憶があっても別に良くないか?魂を二つにわけるなんて聖女だから出来ることだからある意味凄いと思うけれど」
「その時の私には不要だと思えたのよ、アル。新しい自分は何も知らず自由な生き方をして欲しかった」
貴族の家に生まれた以上それは難しい願いだったのかもしれないけれど。
私の答えが不満だったのかアルは茶を淹れてくるとソファーから立ち上がった。
「違うねエミー。君は自分の前世にうんざりしていたんだ。また聖女扱いされてこき使われる人生が心底嫌だったのさ」
その為に魂を分離させるまでした。台所へ続くらしい扉に手をかけながらアルファードが言う。
「でも安心していい。僕はアルファードのままだが騎士にはならない。君もエミヤのままで聖女以外になるといいさ」
前世からの縁だ。手助け程度はしてあげるよ。
私のことをよく知る長い付き合いの彼。その言葉に私の涙腺は急激に崩壊した。
11
お気に入りに追加
4,659
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
もう、あなたを愛することはないでしょう
春野オカリナ
恋愛
第一章 完結番外編更新中
異母妹に嫉妬して修道院で孤独な死を迎えたベアトリーチェは、目覚めたら10才に戻っていた。過去の婚約者だったレイノルドに別れを告げ、新しい人生を歩もうとした矢先、レイノルドとフェリシア王女の身代わりに呪いを受けてしまう。呪い封じの魔術の所為で、ベアトリーチェは銀色翠眼の容姿が黒髪灰眼に変化した。しかも、回帰前の記憶も全て失くしてしまい。記憶に残っているのは数日間の出来事だけだった。
実の両親に愛されている記憶しか持たないベアトリーチェは、これから新しい思い出を作ればいいと両親に言われ、生まれ育ったアルカイドを後にする。
第二章
ベアトリーチェは15才になった。本来なら13才から通える魔法魔術学園の入学を数年遅らせる事になったのは、フロンティアの事を学ぶ必要があるからだった。
フロンティアはアルカイドとは比べ物にならないぐらい、高度な技術が発達していた。街には路面電車が走り、空にはエイが飛んでいる。そして、自動階段やエレベーター、冷蔵庫にエアコンというものまであるのだ。全て魔道具で魔石によって動いている先進技術帝国フロンティア。
護衛騎士デミオン・クレージュと共に新しい学園生活を始めるベアトリーチェ。学園で出会った新しい学友、変わった教授の授業。様々な出来事がベアトリーチェを大きく変えていく。
一方、国王の命でフロンティアの技術を学ぶためにレイノルドやジュリア、ルシーラ達も留学してきて楽しい学園生活は不穏な空気を孕みつつ進んでいく。
第二章は青春恋愛モード全開のシリアス&ラブコメディ風になる予定です。
ベアトリーチェを巡る新しい恋の予感もお楽しみに!
※印は回帰前の物語です。
冷遇された王女は隣国で力を発揮する
高瀬ゆみ
恋愛
セシリアは王女でありながら離宮に隔離されている。
父以外の家族にはいないものとして扱われ、唯一顔を見せる妹には好き放題言われて馬鹿にされている。
そんな中、公爵家の子息から求婚され、幸せになれると思ったのも束の間――それを知った妹に相手を奪われてしまう。
今までの鬱憤が爆発したセシリアは、自国での幸せを諦めて、凶帝と恐れられる隣国の皇帝に嫁ぐことを決意する。
自分に正直に生きることを決めたセシリアは、思いがけず隣国で才能が開花する。
一方、セシリアがいなくなった国では様々な異変が起こり始めて……
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
あなたが捨てた私は、もう二度と拾えませんよ?
AK
恋愛
「お前とはもうやっていけない。婚約を破棄しよう」
私の婚約者は、あっさりと私を捨てて王女殿下と結ばれる道を選んだ。
ありもしない噂を信じ込んで、私を悪女だと勘違いして突き放した。
でもいいの。それがあなたの選んだ道なら、見る目がなかった私のせい。
私が国一番の天才魔導技師でも貴女は王女殿下を望んだのだから。
だからせめて、私と復縁を望むような真似はしないでくださいね?
婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。
和泉鷹央
恋愛
アイリスは国母候補として長年にわたる教育を受けてきた、王太子アズライルの許嫁。
自分を正室として考えてくれるなら、十歳年上の殿下の浮気にも目を瞑ろう。
だって、殿下にはすでに非公式ながら側妃ダイアナがいるのだし。
しかし、素知らぬふりをして見逃せるのも、結婚式前夜までだった。
結婚式前夜には互いに床を共にするという習慣があるのに――彼は深夜になっても戻ってこない。
炎の女神の司祭という側面を持つアイリスの怒りが、静かに爆発する‥‥‥
2021年9月2日。
完結しました。
応援、ありがとうございます。
他の投稿サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる