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二十話 波乱の学校生活(6)
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人気のない廊下を出会ったばかりの少年に連れられてひたすら歩く。
一度だけ離してと言ったら「静かに」と返された。
それ以上の反論は許されない空気の中、黙って手を引かれ続ける。
アルバートは何者で、私をどこに連れていきたいのだろう。
やはり彼を見ていると何となく前から知っている気がするのだけれど。
でも先程セリス王子と盛大に勘違いしたばかりなので私の記憶なんて当てにならないかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、教室が並んでいた廊下を抜け更に静かな場所へと辿り着いていた。
「此処は……?」
「部活棟だね。流石に今活動している部はないと思うけれど」
そう言いながら一つの部屋の前で立ち止まった。
目立つように『野草茶研究会』というプレートが飾ってある。
私はプレートの文字とアルバートを交互に見た。
彼はやはり無言のまま制服のポケットから取り出した鍵を扉に挿す。
あっさりと開いた扉を彼は開き、そして私を招き入れた。
貴族の屋敷にあるものよりは大分簡素な応接セット。そして薬棚みたいなものが幾つか並んでいる。
薬草茶の香りだろうか、悪臭ではないが独特なスーッとするような匂いがした。
「ここなら暫くは邪魔も入らないし落ち着いて話せる」
そう言って彼は私にソファーを勧めた。
私はそれに従わずアルバートを正面から見つめる。
「貴方は何者なの、そして私をどうしたいの」
先程からずっと聞きたかったことを一気に口に出した。
アルバートは緑の瞳で眼鏡越しにこちらを見つめる。その瞳から感じる静かな熱に私はドキリとした。
「僕はアルバート・エーベル。エーベル辺境伯の次男になる」
「辺境伯……?」
「そう、この学院からも王都からもずっと離れた、竜の谷付近を守護し管理しているのが僕の父親だ」
「竜の谷……」
「そして前世の名前はアルファード・ウェイン。……二百年前に情けなく死んだ聖騎士だ」
久しぶりだねエミヤ。
そう言って彼は今までの態度が嘘のように私を情熱的に抱きしめた。
一度だけ離してと言ったら「静かに」と返された。
それ以上の反論は許されない空気の中、黙って手を引かれ続ける。
アルバートは何者で、私をどこに連れていきたいのだろう。
やはり彼を見ていると何となく前から知っている気がするのだけれど。
でも先程セリス王子と盛大に勘違いしたばかりなので私の記憶なんて当てにならないかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、教室が並んでいた廊下を抜け更に静かな場所へと辿り着いていた。
「此処は……?」
「部活棟だね。流石に今活動している部はないと思うけれど」
そう言いながら一つの部屋の前で立ち止まった。
目立つように『野草茶研究会』というプレートが飾ってある。
私はプレートの文字とアルバートを交互に見た。
彼はやはり無言のまま制服のポケットから取り出した鍵を扉に挿す。
あっさりと開いた扉を彼は開き、そして私を招き入れた。
貴族の屋敷にあるものよりは大分簡素な応接セット。そして薬棚みたいなものが幾つか並んでいる。
薬草茶の香りだろうか、悪臭ではないが独特なスーッとするような匂いがした。
「ここなら暫くは邪魔も入らないし落ち着いて話せる」
そう言って彼は私にソファーを勧めた。
私はそれに従わずアルバートを正面から見つめる。
「貴方は何者なの、そして私をどうしたいの」
先程からずっと聞きたかったことを一気に口に出した。
アルバートは緑の瞳で眼鏡越しにこちらを見つめる。その瞳から感じる静かな熱に私はドキリとした。
「僕はアルバート・エーベル。エーベル辺境伯の次男になる」
「辺境伯……?」
「そう、この学院からも王都からもずっと離れた、竜の谷付近を守護し管理しているのが僕の父親だ」
「竜の谷……」
「そして前世の名前はアルファード・ウェイン。……二百年前に情けなく死んだ聖騎士だ」
久しぶりだねエミヤ。
そう言って彼は今までの態度が嘘のように私を情熱的に抱きしめた。
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