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十八話 波乱の学校生活(4)
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「あの、人間違いをしてごめんなさい。 ……貴方のお名前は?」
私がそう切り出すと男子生徒は少し驚いたようだった。
本当は今直接聞くよりも後で調べた方が良かったかもしれない。
学年一位の生徒の名前なら同学年の生徒ならある程度知っている気がする。
だがそれを聞く相手が私にはいない。
目の前の男子生徒だけでなく他の生徒の名前さえ私はわからないのだ。
それ自体は前日の段階でわかっていた。ただ問題があることに気づいたのは登校してからだ。
前世私は学校に通ったことがなかった。
登校して勉強して帰宅すればいいだけだと思っていた。エミアから引き継いだ知識ではそんな感じだった。
空き時間に生徒間の交流というものがあるなんて知らなかった。
朝、教室内に入った時に挨拶してきた相手には挨拶を返した。
しかしその後女生徒たちが仲良く名前で呼び合い会話を楽しんでいる姿を見て飛び出してきたのだ。
うっかりエミアの学友に話しかけられて正体が悟られるのは不味いと思った。
その流れで廊下に出てアリオス殿下の教室を見かけて覗いて見たのだ。
沢山の男子生徒がいたが彼以外の名前は一切わからなかった。エミアの記憶は正直不便過ぎる。
もし彼女とコンタクトが取れるなら情報支援を要請したいが残念ながらそれは出来なかった。
私はエミアに友人がいたのかさえわからないのだ。十七年間同じ体で共存していたというのに。
内心そのように悩んでいる内に男子生徒は落ち着きを取り戻したようだった。
眼鏡に指をかけ自己紹介をしてくれる。
「僕の名前は、アルバート・エーベル。……まさか従兄弟の名前を忘れているなんてね」
「えっ」
まさかの新情報だ。私は思わず声を上げて驚いた。
アルバート・エーベル。エーベル家の人間。エミアの記憶にアクセスしても存在が出てこない。
だが元々家族と婚約者絡みの情報しか彼女は残していかなかった。
自分以外の男性と親しくすると不機嫌になるアリオス殿下を考えてアルバートの存在を脳内で抹消したのかもしれない。
先程はセリス殿下に似ていると思ったが緑色の瞳は父であるフレイ公爵にも似ている気がしてくる。
私は取り合えず無作法を謝ることにした。この場をやり過ごして彼の情報は家で調べることにする。親戚なら可能だろう。
「申し訳ありません、今日は少しぼんやりしていて……」
「いや、嘘だけれど」
「は?」
「従兄弟とか今適当にでっち上げただけだし。……そして、それに引っかかった貴女は何者なのかな」
シュタイト公爵令嬢の双子の姉とか?
そう口元だけで笑いながら言う男子生徒を前に自分の血の気が引くのが分かった。
私がそう切り出すと男子生徒は少し驚いたようだった。
本当は今直接聞くよりも後で調べた方が良かったかもしれない。
学年一位の生徒の名前なら同学年の生徒ならある程度知っている気がする。
だがそれを聞く相手が私にはいない。
目の前の男子生徒だけでなく他の生徒の名前さえ私はわからないのだ。
それ自体は前日の段階でわかっていた。ただ問題があることに気づいたのは登校してからだ。
前世私は学校に通ったことがなかった。
登校して勉強して帰宅すればいいだけだと思っていた。エミアから引き継いだ知識ではそんな感じだった。
空き時間に生徒間の交流というものがあるなんて知らなかった。
朝、教室内に入った時に挨拶してきた相手には挨拶を返した。
しかしその後女生徒たちが仲良く名前で呼び合い会話を楽しんでいる姿を見て飛び出してきたのだ。
うっかりエミアの学友に話しかけられて正体が悟られるのは不味いと思った。
その流れで廊下に出てアリオス殿下の教室を見かけて覗いて見たのだ。
沢山の男子生徒がいたが彼以外の名前は一切わからなかった。エミアの記憶は正直不便過ぎる。
もし彼女とコンタクトが取れるなら情報支援を要請したいが残念ながらそれは出来なかった。
私はエミアに友人がいたのかさえわからないのだ。十七年間同じ体で共存していたというのに。
内心そのように悩んでいる内に男子生徒は落ち着きを取り戻したようだった。
眼鏡に指をかけ自己紹介をしてくれる。
「僕の名前は、アルバート・エーベル。……まさか従兄弟の名前を忘れているなんてね」
「えっ」
まさかの新情報だ。私は思わず声を上げて驚いた。
アルバート・エーベル。エーベル家の人間。エミアの記憶にアクセスしても存在が出てこない。
だが元々家族と婚約者絡みの情報しか彼女は残していかなかった。
自分以外の男性と親しくすると不機嫌になるアリオス殿下を考えてアルバートの存在を脳内で抹消したのかもしれない。
先程はセリス殿下に似ていると思ったが緑色の瞳は父であるフレイ公爵にも似ている気がしてくる。
私は取り合えず無作法を謝ることにした。この場をやり過ごして彼の情報は家で調べることにする。親戚なら可能だろう。
「申し訳ありません、今日は少しぼんやりしていて……」
「いや、嘘だけれど」
「は?」
「従兄弟とか今適当にでっち上げただけだし。……そして、それに引っかかった貴女は何者なのかな」
シュタイト公爵令嬢の双子の姉とか?
そう口元だけで笑いながら言う男子生徒を前に自分の血の気が引くのが分かった。
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