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十六話 波乱の学校生活(2)

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 眼鏡の男子生徒もこちらと目が合って驚いた顔をした。彼の顔を近くで見て私は何かひらめくものがあった。

 しかしお互い言葉は交わさなかった。器用に私を避けて彼は廊下に出た。

 当然のように私に教室内の視線は集中する。アリオス殿下の反応を見守ることにした。

 眼鏡の生徒の進行方向など途中からわかっていた。そこから避けることも可能だった。

 それをしなかったのはアリオス殿下が取り巻きに逃がすなと指示をしていたのを見たからだ。

 義憤にかられたという程でもないが一国の王子の余りにも情けない行為の邪魔をしたくなったのだ。

 ついでに校内で彼が婚約者でなくなった私をどう扱うかも興味があった。


「あんたは、アリオス殿下の……」


 取り巻きの一人の台詞に私は呆れる。先程から思っていたが貴族の言葉遣いとは思えない。

 発言内容も行動も幼稚すぎて高等学院の名が泣くだろう。

 しかもその親玉が創立者と同じ王族だというのだから。

 だが流石というべきか、殿下から放たれた言葉は私の予想外のものだった。



「女が顔を出すな、この恥知らずが!!」


「え……?」 


 激高するアリオス殿下に対し私はぽかんした表情を返してしまう。

 いや私だけでない、彼の取り巻きたちもだ。

 だってアリオス殿下は今までは当たり前のようにエミアを学校でも召使のように扱っていたのだ。

 料理や菓子の差し入れの為に婚約者をこのクラスまで毎回来させていた。エミアの記憶の中に残っている。

 そういう扱いをされてきたからこそ公爵令嬢である私を取り巻きが「あんた」呼ばわりしたのだ。

 男子の教室に女生徒は原則入室禁止である。生徒手帳にも書いてある。

 だがそれを今まで平気で破らせていた側がルール違反を指摘し怒るのは。 


「ぷっ、あははっ……」


 滑稽すぎて思わず笑ってしまう。

 アリオス殿下の取り巻きたちは化け物でも見るような目でこちらを見た。

 ようやく笑いをおさめて怒り心頭の元婚約者にしずしずと頭を下げる。


「申し訳ございません、アリオス殿下。二度とこの教室に顔を出すことは致しませんのでお許しくださいませ」


 そっちも私の教室に来たりするなよという願いを暗に込める。

 彼の出方は大体わかった。人が変わったエミアの存在を取り巻きたちに知られたくないのだ。

 エミアではない『私』に対して我儘に振る舞うことも威張り散らすことも彼はできない。

 してもいいが私は絶対に反論するし言い負かすつもりもある。殿下もそのことはわかっている。

 だから取り巻きたちから私を遠ざけようというのだ。自分のプライドを守る為に。

 その子供のような卑小さと懸命さに今度は表情に出さず笑った。
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