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九話 悪意ある王命

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「アリオスよ、どうしても婚約を継続したいならエミア嬢に泣き縋り情けを乞え」


 お前がそこまでするのなら己も親として加勢してやる。

 ハルマン国王の発言に私も殿下も目を丸くする。

 視線を向ければ父であるシュタイト公爵も戸惑いの表情を浮かべていた。

 そんなことを今更されても困る。それが私の正直な気持ちだった。


「……馬鹿にしているのですか、父上。俺はこの国の王子、そんな情けない真似が出来る筈がない!」

「ならこの話はここまでだ。どこまでも中途半端な奴め」


 後でその性根を叩き直してやる。そう冷たい目で息子を見つめた後サルマン陛下は私の方を向いた。


「シュタイト家の令嬢よ。これで君と愚息アリオスの縁は切れた。今まで御苦労だった」

「は、はい……」


 突然話を振られて私は曖昧な返事をした。彼の次の発言が読めない。 

 ハルマン国王の持つ権力と得体の知れなさに比べるとアリオス殿下が小さな子供のように思える。


「暴言への慰謝料を望むなら愚息の財産から償わせよう」

「父上!!」

「黙れ、従順な女一人扱いきれなかった未熟者めが。貴様に余の血が流れていなければすぐ城から放り出してやるところだ」

「……陛下」


 今にも親子喧嘩を始めそうな二人に初めて王妃が口を開く。

 その言葉は小さく非常に短いものだったがハルマン陛下はすぐ息子に対する怒りを収めた。

 許すというよりは無関心になったようだ。

 そして再度私に向き直った。


「エミア・シュタイト公爵令嬢。本日付で我が次男アリオス・ルーンファクトとの婚約解消を認め、長男セリス・ルーンファクトとの新たな婚約を命じる」


 これは王命だ。そう締めくくった後、にやりと笑うハルマン国王に父であるシュタイト公爵の顔が真っ青になった。

 私は言われた内容が理解しきれず一瞬混乱する。

 アリオス殿下との婚約解消は許された。ここまではわかる。

 しかし入れ替わるようにして第一王子であり元王太子であるセリス様と婚約せよと言われた。

 三年前から行方不明のセリス王子とだ。

 もしかしたらこれは王族との婚約解消を望んだ罰として私に一生独身でいろという嫌がらせのつもりなのか。

 だとしたら、なんて悪趣味、いや悪辣な命令なのだろう。

 私は公爵令嬢エミアの仮面を捨てて国王を睨みつけた。
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