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八話 断りの文句

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 意外なことにこの場で婚約解消を明確に嫌がっていたのはアリオス殿下だった。

 私と父は兎も角、彼の両親である王と王妃は婚約関係の維持に積極的な様子ではなかった。

 ただ何故長年暴言に耐えてきたエミアが何故今になって婚約破棄を望んだのかは掘り下げて尋ねられた。

 直接の起因となったアリオス殿下の発言は破廉恥で侮辱的なものだったので私が口にするのは父に止められた。

 しかし氷よりも冷え切った目で元の発言者を睨みながら私の代わりにその台詞を告げる公爵と、呆れた目で息子を見つめる国王夫妻。

 そのような大人たちの視線の矢を受けて固まっているアリオス殿下の様子は滑稽だった。

 人に聞かれてそのようになるのなら最初から口にしなければよかったのにと思った。

 そして平気でそのような暴言を吐かれていたエミアは彼に人間扱いされていなかったのだと改めて切なくなった。

 婚約解消を決意したのは、子供を産む道具扱いされたことで将来を悲観したから。

 自分が愛される未来がこないことだけでなく、自分との子供も彼に愛されないかもしれないと絶望し危惧したからだ。

 そのように私は父に語り、父もそのようにこの場での説明を終えた。


「子供を産むのは役目だと認識しております。しかし愛されないとわかっている子を産むつもりは私にはありません」

「ふむ、公爵家の姫はまるで市井の民のような価値観を持っているな」

「果たして、市井の民だけの価値観でしょうか。聖書にも親子の愛は尊いと書かれておりますが」


 悪気があるのかは不明だがどこか小馬鹿にしたような王の台詞に私は無表情で返す。
 
 こうして少し会話してみるだけでアリオス殿下と親子だと理解できるのはある意味皮肉なものだ。 

 王の隣で人形のように語らず座ったままの王妃が私は少し気になった。感情はある筈だが発言権はないのかもしれない。 

 そんなに辛かったのならもっと早く殿下本人やその両親である自分たちに伝えるべきではなかったかと陛下にチクリと言われる。

 一理はあるかもしれないが傷つけた側の親から言われるのは腹が立つ。


「それは……私がアリオス殿下を盲目にお慕いし、それ故に彼を苛立たせるのは全て己の咎なのだと思い込んでいたからでございます」

「ほう、では今はもう愚息を愛してはいないと?」


 国王に問われ私は一瞬答えに迷う。今も何も私は最初からこの男など愛してはいない。

 だがエミアは違うだろう。しかし下手に気がある素振りをするのも不味い気がする。

 かといって愛していないと断言するのも身分差を考えると気兼ねしてしまう。


「……私の愛はアリオス殿下の為にはなりません。殿下に必要なのは寄り添い頷くだけの女性ではない筈です」


 だから婚約を解消させてください。そう私は深々と頭を下げた。

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