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四話 愚かで愛しい私の半身

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 アリオス殿下に対し今すぐ婚約解消を王にお願いすると私は言った。

 慌てる彼は愉快であり見苦しくもあった。

 だが冷静に考えれば息子の婚約者であろうが、今すぐ国王に会わせてくれなんて言って通る筈がない。

 もしかしたら可能かもしれないが、そのような無作法をするよりは一度帰宅し公爵である父親から話を通して貰った方がいいと思えた。

 後からアリオス殿下に嘘つき呼ばわりされるかもしれないが痛くも痒くもない。今考えたことをそのまま説明すればいいだけだ。

 婚約者からの度重なる侮辱行為に堪忍袋の緒が切れたが後から冷静になった。それだけの話だ。

 待たせていたシュタイト公爵家の馬車に乗り込む。一人きりになった途端涙が勝手に出てきた。

 馬車の揺れに合わせて涙がぱたりぱたりとドレスに落ちる。エミアに対する哀れみが目から次々と零れ落ちていく。

 自暴自棄になった彼女が私に体の主導権を明け渡した時、アリオス殿下に対する彼女の想いも『情報』として詳細に流れ込んできた。

 もしかしたら抱え続けることが出来無くて私に投げ渡したのかもしれない。  

 それは特定の人間を深く愛することを禁じられ、実際に誰のことも愛さなかった私には全く理解できないものだった。

 アリオス殿下は身分が高く外見こそ麗しいが中身は冷酷で傲慢で幼い。意外なことにエミアも私と同じ評価を彼に下していた。

 しかしそれでも彼女はそのような酷い相手を心から愛し恋い慕っていた。正直意味が分からない。

 意味が分からないからこそ、聖女だった頃の私が恋愛を禁じられた理由を初めて理解できた。

 婚約を解消した方がいいかもしれないと、エミア自身も悩んでいたのだ。けれど愛していたから言い出せなかった。

 幾ら待ち続けていてもアリオス殿下に優しくされることはないだろうと半ば諦めていた。けれどもしかしたらと願ってしまった。

 エミアは決して鈍感なわけでもなく、楽観的なわけでもなく絶望しながらも恋心を消せないだけだった。

 そして耐え切れず自壊してしまった。恋が判断を狂わせた。

 でも、それでも、きっと世間には幾らでも幸福な恋は転がっているのだろうに。

 どうして私の半身は最悪な男を愛する運命を定められてしまったのか。

 私は泣いた。そしてアリオス殿下への憎しみが深くなるのを感じた。

 あの男からさっさと婚約解消を言い出していればこのような展開は迎えなかった。

 婚約者を愛することもなく会えば酷い言葉を投げつけるだけなのに別れようとだけはしなかった歪んだ男。

 エミアとは違う意味で理解できない、いや理解したくない人間だと思った。

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