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三話 政略結婚ですから

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「私? 私はエミア・シュタイト。シュタイト公爵家の不肖の長女ですわ」


 でも自己紹介なら十年前に済ませたと思いますけれど。

 そう厭味ったらしく私は微笑む。こちらが邪悪な表情を浮かべる度にアリオス殿下はわかりやすく狼狽えた。

 まるで臆病な人間がお化けの仮装に怯えるように。

 今まで好き勝手蹴り飛ばしていた子犬が狼に変わっていたことに気づいた愚か者のように。


「違う……お前は、エミアではない……!」


 否定の言葉さえ私は鼻で笑って見せた。


「いいえ、私は紛れもなくエミアですわ。ただ殿下に対して愛情が尽きただけでございます」

「俺への、愛情が……」

「はい、お慕いしても迷惑がられるだけ、想い続けても冷たく詰られるだけ。そんな感情、無駄だと思いませんか?」


 そして感情抜きに考えれば政略結婚だと理解していても、貴男の子供を産むなんて耐えられない。

 私は先程アリオス殿下が傲慢に言い放った台詞を真っ向から否定した。


「婚約者を形だけでも婚約者として扱えない人が我が子の父親になるなんて恐ろしすぎます」


 不幸な子供を増やしたくはありませんので矢張り殿下との婚約は解消致します。

 私はそう一方的に告げその場から去ろうとした。

 その背に大きな声が投げかけられる。この大きさだと兵が駆けつけてもおかしくない。

 私は迷惑そうな表情を隠しもせず振り返った。


「ふざけるな、そんな一方的に……俺との婚約を解消するなど許さんぞ!!」

「それは殿下の決める事ではございません。お忘れになりましたか?」


 散々親が決めた婚約だと嫌そうに 私 あの娘に言い続けていたではありませんか。

 それ以上の返事は聞かず私はヒールを鳴らして宮中の庭を去った。


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