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二話 婚約破棄いたしましょう
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心が壊れる寸前だったエミアから表に出る役割を交代する。
彼女が愛していた男が目の前にいるが私『エミヤ』は何の魅力も感じなかった。
「寧ろ殿下は私にとって正直有害でしかありませんね」
そう考えた事を素直に口に出した。怒るかと思ったが目を見開いて口をぽかりと開けている。
アリオスの小僧、いやアリオス殿下は随分と温室育ちらしい。
誰も自分を傷つけない場所で婚約者虐めばかりをしていたせいで攻められるのに弱いのだ。つまり精神的ザコだ。
私は何の返答もしない男を観察する。顔は良い、髪質も肌もいい、体型もいい、服装もいい。
大事にお金をかけて育てられた苦労知らずのお坊ちゃんだ。つまり私にとっては何一つ魅力のない相手。
確かに美形だが、こちらを得意げな顔で侮辱してくるようなクソガキだ。
そんな馬鹿に何故かベタ惚れした挙句虐め抜かれた私の半身は変わった自殺をした。
公爵令嬢としての自分の人格を消す代わりに、空いたスペースに私が住んでくれというのである。
私は過去の人間だ、正確に言えば何故か持ち込まれた前世の記憶と人格だ。
生前の私は二百年前に竜を倒したら救国の聖女とか言われて、その後独身のまま仕事や戦いばっかりしていたら死んだ。
そのまま時期が来たと天上の神に言われて適当な貴族の家に転生したのだ。
その時に何故か前世の記憶がついてきたので新しい人生に邪魔だと思い自分の人格の一部ごと封じた。それが私だ。
過去の聖女エミヤとしての記憶を持つ私は「いらない」存在なのだ。貴族令嬢エミアの中で静かに眠り続けていればいい。
それなのに内気で気弱でお淑やかな公爵令嬢エミアが私の封印を解くなんてまさか思わなかった。
彼女は今記憶の海の底で泣きながら人魚となり揺蕩っている。人魚なのは現世へ帰りたくないという意思の表れだろう。
そして話は戻るがエミアをそのような状態に追い込んだのは目の前の馬鹿王子だ。
私は再度口を開いた。
「いい加減、婚約破棄しましょう」
「なっ」
もううんざりです。そう私は溜息を吐いた。ここは宮廷内の内庭で周囲に人気はないが誰に見られているかもわからない。
だが別に構わない。私はエミヤではあるがエミアではないのだから。
「殿下は政略結婚だ政略結婚だと繰り返すのがお好きですけとれど、全く意味は理解していらっしゃらない
政略結婚だったら未来の妻を侮辱して辱めることが許されると思ってらっしゃる
オークや蛮族が女を攫った時の価値観と同じでぞっといたしますわ」
きっと結婚した後も女奴隷のような扱いを受けるのでしょうね。そう冷たい瞳で彼を見つめながら私は言う。
アリオス殿下の表情には怒りと困惑と恐怖かがありありと出ていた。それも当然かもしれない。
先程まで自分を慕い愛することだけをしていた女から一方的に婚約破棄を突き付けられているのだから。
「私は結婚するなら蛮族ではなく心ある人間の殿方としたいと思います。そのような訳ですので婚約は解消致しましょう殿下」
貴男だって私との婚約を酷く不本意がっていたでしょう。今から王にお願いしてきましょう。
そう駆けだそうとする私の手を誰かが掴んだ。アリオス殿下だ。
「い、いやだ。婚約破棄なんて勝手に決めるな!」
いつもの厭味ったらしい半笑いが嘘のような必死さだった。親に怒られるのが怖いのだなと私は思った。
エミアとのやりとりを聞いていただけでわかる。この男の内面は傲慢な子供のままなのだと。
子供を虐める趣味はないが、子供を教育する権利はある。
「婚約解消されたくないなら、殿下。どうか私に貴男への愛を思い出させてください」
今更遅いかもしれないけれど。そう笑う私にアリオス殿下は「お前は誰だ」と小さな声で呟いた。
彼女が愛していた男が目の前にいるが私『エミヤ』は何の魅力も感じなかった。
「寧ろ殿下は私にとって正直有害でしかありませんね」
そう考えた事を素直に口に出した。怒るかと思ったが目を見開いて口をぽかりと開けている。
アリオスの小僧、いやアリオス殿下は随分と温室育ちらしい。
誰も自分を傷つけない場所で婚約者虐めばかりをしていたせいで攻められるのに弱いのだ。つまり精神的ザコだ。
私は何の返答もしない男を観察する。顔は良い、髪質も肌もいい、体型もいい、服装もいい。
大事にお金をかけて育てられた苦労知らずのお坊ちゃんだ。つまり私にとっては何一つ魅力のない相手。
確かに美形だが、こちらを得意げな顔で侮辱してくるようなクソガキだ。
そんな馬鹿に何故かベタ惚れした挙句虐め抜かれた私の半身は変わった自殺をした。
公爵令嬢としての自分の人格を消す代わりに、空いたスペースに私が住んでくれというのである。
私は過去の人間だ、正確に言えば何故か持ち込まれた前世の記憶と人格だ。
生前の私は二百年前に竜を倒したら救国の聖女とか言われて、その後独身のまま仕事や戦いばっかりしていたら死んだ。
そのまま時期が来たと天上の神に言われて適当な貴族の家に転生したのだ。
その時に何故か前世の記憶がついてきたので新しい人生に邪魔だと思い自分の人格の一部ごと封じた。それが私だ。
過去の聖女エミヤとしての記憶を持つ私は「いらない」存在なのだ。貴族令嬢エミアの中で静かに眠り続けていればいい。
それなのに内気で気弱でお淑やかな公爵令嬢エミアが私の封印を解くなんてまさか思わなかった。
彼女は今記憶の海の底で泣きながら人魚となり揺蕩っている。人魚なのは現世へ帰りたくないという意思の表れだろう。
そして話は戻るがエミアをそのような状態に追い込んだのは目の前の馬鹿王子だ。
私は再度口を開いた。
「いい加減、婚約破棄しましょう」
「なっ」
もううんざりです。そう私は溜息を吐いた。ここは宮廷内の内庭で周囲に人気はないが誰に見られているかもわからない。
だが別に構わない。私はエミヤではあるがエミアではないのだから。
「殿下は政略結婚だ政略結婚だと繰り返すのがお好きですけとれど、全く意味は理解していらっしゃらない
政略結婚だったら未来の妻を侮辱して辱めることが許されると思ってらっしゃる
オークや蛮族が女を攫った時の価値観と同じでぞっといたしますわ」
きっと結婚した後も女奴隷のような扱いを受けるのでしょうね。そう冷たい瞳で彼を見つめながら私は言う。
アリオス殿下の表情には怒りと困惑と恐怖かがありありと出ていた。それも当然かもしれない。
先程まで自分を慕い愛することだけをしていた女から一方的に婚約破棄を突き付けられているのだから。
「私は結婚するなら蛮族ではなく心ある人間の殿方としたいと思います。そのような訳ですので婚約は解消致しましょう殿下」
貴男だって私との婚約を酷く不本意がっていたでしょう。今から王にお願いしてきましょう。
そう駆けだそうとする私の手を誰かが掴んだ。アリオス殿下だ。
「い、いやだ。婚約破棄なんて勝手に決めるな!」
いつもの厭味ったらしい半笑いが嘘のような必死さだった。親に怒られるのが怖いのだなと私は思った。
エミアとのやりとりを聞いていただけでわかる。この男の内面は傲慢な子供のままなのだと。
子供を虐める趣味はないが、子供を教育する権利はある。
「婚約解消されたくないなら、殿下。どうか私に貴男への愛を思い出させてください」
今更遅いかもしれないけれど。そう笑う私にアリオス殿下は「お前は誰だ」と小さな声で呟いた。
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