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23・前世の私に頑張ってもらいました
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「んに゛ゃあ……」
現実に聞こえた鳴き声は全く可愛くなかった。
少なくとも子猫の声じゃない。
はっきり言ってしまえば人間が猫の鳴き真似をしたような声。
聞き覚えがある。自 分 の 声 だ。
「な、お前まさか……」
メイド女が驚いたような顔で私を見る。先程こいつに踏まれた腹が痛い。
けれど、動けないレベルじゃない。
だって人間の女が人間の女に踏まれただけだもの。
「お前っ、人間が猫に化けていたのか?!」
「うっせぇにゃん!!」
狼狽して叫ぶ相手の隙を見て私は素早く立ち上がった。
相変わらずお腹は痛い。後で絶対病院行こう。
でもそれはこの女をぶん殴って捕まえて無力してからだ。
「私はねぇ、この世に嫌いなものが山ほどあるけど……」
久しぶりに話し、そして聞く、人間時代の自分の声。姿もその頃に戻っているのだろうか。
手足は確実に人間の女の物だ。どういう奇跡が起きたのかはわからない。
でもそんなことを不思議がっている余裕なんてない。
そもそもゲーム世界に生まれ変わって悪役令嬢の飼い猫になっていた時点で、変だ。
でも私はこの変な世界でベアトリスちゃんを悲劇の悪役令嬢にしたくないのだ。
「子持ち親父と平気で不倫して、しかも略奪までしようとして……」
毒薬で焼けた顔が痛いのかメイド女の動きは本調子ではない。
私も彼女にやられた腹は相変わらず痛い。これは根性勝負だ。
「人様に迷惑かける恋愛脳は死ねって……死ぬ前からずっと思い続けているのよ!!」
「ぐぶっ!」
私は女の腹を膝で思い切り蹴った。効いているのが本気で嬉しい。
子猫の体の時は防戦一方でひたすら逃げ惑うだけだった。
けれど人間の体なら別だ。人間の女同士。
殴り合って大騒ぎしてこの場所に屋敷の人間を呼び込もうじゃないか。
実際に顔を殴るのは毒薬が手についたら嫌だからしないけど。
「っていうかアンタら大人全員いい年して情けないのよ!ベアトリスちゃんを巻き込むな!」
「っ、うっさいわねブス!!あんた本当の恋なんてしたことないんでしょう?!」
「不倫でマウント取るな馬鹿!!人に迷惑かけんなって言ってんのよ、この殺人犯!!」
「まだ殺してないわよ!いや絶対アミーラは殺すけどね!!」
背丈のあまり変わらない女同士でひたすら引っかき合い、殴り合い、蹴り合う。
人対猫だった先程までと比べれば夢のような善戦だが泥仕合だ。
こっちは出来るだけ顔を狙わないようにしているのに、向こうはお構いなしに引っかいてくる。
しかしメイド女は顔の半分が毒薬で焼け爛れているのでかなり迫力がある。しかも憎悪で表情が歪み切っている。
生前の自分以外守るもののいない私なら人間の姿に戻っていても怯えて逃げていただろう。
「だからベアトリスちゃんの母親を殺すのは止めろって言ってんのよ!!」
私は女の鼻に思い切り肘鉄を叩き込んだ。
アミーラさんは絶対に殺させない。
そんなことしたらベアトリスちゃんの人生が狂ってしまう。
続けて相手の腹に渾身の力で膝蹴りを見舞う。女が白目を剥くのが分かった。
ずん、と相手の体重がこちらにかけられる。首のあたりに酸っぱく生臭く温かい何かがパシャリと当たった。
それが女の吐いたものだと気づいたが、不快感よりも安堵感の方が勝った。
「た、倒した……」
私、やったわ。ベアトリスちゃん。
本当に殺ってしまったかもしれないけど。
女を抱きかかえるような姿勢のままずるずると崩れ落ち、そして私の意識は再び闇に沈み込んだ。
現実に聞こえた鳴き声は全く可愛くなかった。
少なくとも子猫の声じゃない。
はっきり言ってしまえば人間が猫の鳴き真似をしたような声。
聞き覚えがある。自 分 の 声 だ。
「な、お前まさか……」
メイド女が驚いたような顔で私を見る。先程こいつに踏まれた腹が痛い。
けれど、動けないレベルじゃない。
だって人間の女が人間の女に踏まれただけだもの。
「お前っ、人間が猫に化けていたのか?!」
「うっせぇにゃん!!」
狼狽して叫ぶ相手の隙を見て私は素早く立ち上がった。
相変わらずお腹は痛い。後で絶対病院行こう。
でもそれはこの女をぶん殴って捕まえて無力してからだ。
「私はねぇ、この世に嫌いなものが山ほどあるけど……」
久しぶりに話し、そして聞く、人間時代の自分の声。姿もその頃に戻っているのだろうか。
手足は確実に人間の女の物だ。どういう奇跡が起きたのかはわからない。
でもそんなことを不思議がっている余裕なんてない。
そもそもゲーム世界に生まれ変わって悪役令嬢の飼い猫になっていた時点で、変だ。
でも私はこの変な世界でベアトリスちゃんを悲劇の悪役令嬢にしたくないのだ。
「子持ち親父と平気で不倫して、しかも略奪までしようとして……」
毒薬で焼けた顔が痛いのかメイド女の動きは本調子ではない。
私も彼女にやられた腹は相変わらず痛い。これは根性勝負だ。
「人様に迷惑かける恋愛脳は死ねって……死ぬ前からずっと思い続けているのよ!!」
「ぐぶっ!」
私は女の腹を膝で思い切り蹴った。効いているのが本気で嬉しい。
子猫の体の時は防戦一方でひたすら逃げ惑うだけだった。
けれど人間の体なら別だ。人間の女同士。
殴り合って大騒ぎしてこの場所に屋敷の人間を呼び込もうじゃないか。
実際に顔を殴るのは毒薬が手についたら嫌だからしないけど。
「っていうかアンタら大人全員いい年して情けないのよ!ベアトリスちゃんを巻き込むな!」
「っ、うっさいわねブス!!あんた本当の恋なんてしたことないんでしょう?!」
「不倫でマウント取るな馬鹿!!人に迷惑かけんなって言ってんのよ、この殺人犯!!」
「まだ殺してないわよ!いや絶対アミーラは殺すけどね!!」
背丈のあまり変わらない女同士でひたすら引っかき合い、殴り合い、蹴り合う。
人対猫だった先程までと比べれば夢のような善戦だが泥仕合だ。
こっちは出来るだけ顔を狙わないようにしているのに、向こうはお構いなしに引っかいてくる。
しかしメイド女は顔の半分が毒薬で焼け爛れているのでかなり迫力がある。しかも憎悪で表情が歪み切っている。
生前の自分以外守るもののいない私なら人間の姿に戻っていても怯えて逃げていただろう。
「だからベアトリスちゃんの母親を殺すのは止めろって言ってんのよ!!」
私は女の鼻に思い切り肘鉄を叩き込んだ。
アミーラさんは絶対に殺させない。
そんなことしたらベアトリスちゃんの人生が狂ってしまう。
続けて相手の腹に渾身の力で膝蹴りを見舞う。女が白目を剥くのが分かった。
ずん、と相手の体重がこちらにかけられる。首のあたりに酸っぱく生臭く温かい何かがパシャリと当たった。
それが女の吐いたものだと気づいたが、不快感よりも安堵感の方が勝った。
「た、倒した……」
私、やったわ。ベアトリスちゃん。
本当に殺ってしまったかもしれないけど。
女を抱きかかえるような姿勢のままずるずると崩れ落ち、そして私の意識は再び闇に沈み込んだ。
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