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22・来世を考えていたら前世がやってきました
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『うわっ、何このクソゲー。また雑にキャラが死んだんだけど』
懐かしい、声が聞こえる。
『つーかヒロイン死神じゃん。しかも略奪癖ありとかやば過ぎでしょ』
いや、そこまで懐かしくはないかもしれない。
だってこれ私の声だ。人間だった頃の。録音したのを聞かされたような居心地の悪さを感じる。
恐らくゲームをプレイしながらブツブツ言っているのだろう。
一人暮らしが十年続いた辺りから独り言が多くなった自覚はしていた。
幸か不幸か生前の己の姿は見えない。もうどんな顔をしていたかも思い出させない。
服装や髪形なら漠然と記憶があるのに。
真っ暗な闇の中で抑揚の少ない独り言だけが聞こえてくる。女性にしては声が低いし聞き取りづらい。
しっかり口を開いて喋らないからだ。昔教師に注意された。そういえば蓄膿気味だったなと思い出す。
『いや本当ヒロインヤバすぎでしょ、会社にいたら絶対悪口言われまくってるよ。顔は可愛いし』
『つーかまともな性格のキャラがほぼいないんだけど』
『……もう少しなんかさあ、マシな展開にできなかったのかね』
『悲劇的な展開にすれば感動するとか思ってるのまるわかり、あほくさ』
いや本当独り言多いな、人間時代の自分。しかも批判多すぎ。確かにクソゲーだったけれど。
というか今そのクソゲーの中に転生しちゃってるんですよって教えてあげたい。
しかも一番性格が悪くて悲惨なベアトリスの飼い猫として。
まあ、殺されちゃったみたいだけど。やばいメイド女のせいでシナリオから退場させられてしまった。
つまりここは死後の世界なんだろう。
そして人間時代の自分の声はちょっと変わった走馬灯というものだろうか。
どうせならベアトリスちゃんとの楽しい日々を思い出したかった。
彼女以外にもレックスやオーウェンと知り合って、ちょっとワクワクしていたのに。
もしかしたら、みんなで幸せになれるかもなんて、思っていたのに。
『途中にピンチがあってもさ、結局ハッピーエンドが一番なんだよね』
過去の自分のぼやき声に無言で同意する。
『……辛いのはさあ、現実だけで十分でしょ』
こんなゲーム買うんじゃなかった。
そんな呟きを最後に何も聞こえなくなる。
そうだ、こんなゲームだった。イケFは正直不愉快なゲームだった。
けれどそれはつまらないと完全にイコールではなくて、登場人物たちにもちゃんと背景があった。
大半の人物が歪むだけの理由があって、でもヒロインが選んだ一人しか救えなかった。
そしてヒロインが一人を選ぶことで新しく悲劇が生まれることが一番嫌だった。
だから登場人物たちが幸せになれる方法を考えたりもした。文章が書ければ二次創作をしていたかもしれない。
特にベアトリスが気になった。父親に殺されて泣きながら冷たくなった少女。
紛れもない悪役だったけれど愛されたいという願いは酷く胸の一部に突き刺さった。
どのルートでも酷い最期を迎えるベアトリスが次第にどの攻略対象よりも気になりだした。
最初から、悪役だったわけではないだろう。だったら悪役になる前に出会えたなら。
彼女が泣きながら『愛されたい』なんて願わなくなるように。
「……ロア、ベロア!!」
遠くから声が聞こえた。とても小さくて、でもよく聞き慣れた声が。
毎日私の名前を呼んでくれた大切な声が、聞こえる。
「死なないで、ベロア……私を置いていかないで……!」
悲しみが溢れて彼女自身が溺れてしまいそうだ。
人間の私と猫の私の声(おもい)が重なる。
『泣かないで、ベアトリス』
私があなたを幸せにするから。
愛しい飼い主に聞こえるように、私はみゃあと鳴いた。
懐かしい、声が聞こえる。
『つーかヒロイン死神じゃん。しかも略奪癖ありとかやば過ぎでしょ』
いや、そこまで懐かしくはないかもしれない。
だってこれ私の声だ。人間だった頃の。録音したのを聞かされたような居心地の悪さを感じる。
恐らくゲームをプレイしながらブツブツ言っているのだろう。
一人暮らしが十年続いた辺りから独り言が多くなった自覚はしていた。
幸か不幸か生前の己の姿は見えない。もうどんな顔をしていたかも思い出させない。
服装や髪形なら漠然と記憶があるのに。
真っ暗な闇の中で抑揚の少ない独り言だけが聞こえてくる。女性にしては声が低いし聞き取りづらい。
しっかり口を開いて喋らないからだ。昔教師に注意された。そういえば蓄膿気味だったなと思い出す。
『いや本当ヒロインヤバすぎでしょ、会社にいたら絶対悪口言われまくってるよ。顔は可愛いし』
『つーかまともな性格のキャラがほぼいないんだけど』
『……もう少しなんかさあ、マシな展開にできなかったのかね』
『悲劇的な展開にすれば感動するとか思ってるのまるわかり、あほくさ』
いや本当独り言多いな、人間時代の自分。しかも批判多すぎ。確かにクソゲーだったけれど。
というか今そのクソゲーの中に転生しちゃってるんですよって教えてあげたい。
しかも一番性格が悪くて悲惨なベアトリスの飼い猫として。
まあ、殺されちゃったみたいだけど。やばいメイド女のせいでシナリオから退場させられてしまった。
つまりここは死後の世界なんだろう。
そして人間時代の自分の声はちょっと変わった走馬灯というものだろうか。
どうせならベアトリスちゃんとの楽しい日々を思い出したかった。
彼女以外にもレックスやオーウェンと知り合って、ちょっとワクワクしていたのに。
もしかしたら、みんなで幸せになれるかもなんて、思っていたのに。
『途中にピンチがあってもさ、結局ハッピーエンドが一番なんだよね』
過去の自分のぼやき声に無言で同意する。
『……辛いのはさあ、現実だけで十分でしょ』
こんなゲーム買うんじゃなかった。
そんな呟きを最後に何も聞こえなくなる。
そうだ、こんなゲームだった。イケFは正直不愉快なゲームだった。
けれどそれはつまらないと完全にイコールではなくて、登場人物たちにもちゃんと背景があった。
大半の人物が歪むだけの理由があって、でもヒロインが選んだ一人しか救えなかった。
そしてヒロインが一人を選ぶことで新しく悲劇が生まれることが一番嫌だった。
だから登場人物たちが幸せになれる方法を考えたりもした。文章が書ければ二次創作をしていたかもしれない。
特にベアトリスが気になった。父親に殺されて泣きながら冷たくなった少女。
紛れもない悪役だったけれど愛されたいという願いは酷く胸の一部に突き刺さった。
どのルートでも酷い最期を迎えるベアトリスが次第にどの攻略対象よりも気になりだした。
最初から、悪役だったわけではないだろう。だったら悪役になる前に出会えたなら。
彼女が泣きながら『愛されたい』なんて願わなくなるように。
「……ロア、ベロア!!」
遠くから声が聞こえた。とても小さくて、でもよく聞き慣れた声が。
毎日私の名前を呼んでくれた大切な声が、聞こえる。
「死なないで、ベロア……私を置いていかないで……!」
悲しみが溢れて彼女自身が溺れてしまいそうだ。
人間の私と猫の私の声(おもい)が重なる。
『泣かないで、ベアトリス』
私があなたを幸せにするから。
愛しい飼い主に聞こえるように、私はみゃあと鳴いた。
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