20 / 24
20・猫ですが激怒しました
しおりを挟む
そういえばこの女の持っている小瓶に見覚えがある。
あの見るからに危険物ですと言いたげな薔薇と髑髏の絵が描かれたラベル。
イケFのゲーム内で悪役令嬢ベアトリスがヒロイン暗殺に使おうとしていた毒薬じゃないか……!
たしか『魔女の鉄槌』という名前だったか。
同居している義理の妹を憎むベアトリスがメイドに命じて屋敷での飲食物に混入させていたものは。
そのまま弱って死んでいくのを待っていれば良かったのに直接ヒロインに小瓶から飲ませようとして悪巧みがバレたシーンはゲームと言えど突っ込みどころ満載だった。
抵抗するヒロインと揉み合いになった結果、瓶の中の液体が自分にかかってベアトリスの顔半分が焼け爛れたことも覚えている。
それを何故この女が持っているのかはわからない。もしかしたら毒薬が簡単に手に入る世界なのかもしれない。
「万が一にも毒殺がバレないよう、すぐ殺したいのを耐えて過ごしてきたわ……」
でも、それも今日で終わり。メイド女が笑う。
「化け猫、あんたアミーラを窒息死させなさい!」
「ンナァ?!」
まるで名案のように言われて私は困惑の鳴き声を上げた。
いや窒息死させなさいって、どうやって私が出来ると言うのか。
メインクーン並みの大型ならともかく、今の私はベアトリスちゃんの膝の上で充分寛げるサイズの子猫なんですけど?
奥さんからマー坊を略奪したすぎて頭が馬鹿になってしまったのだろうか……。
その頭の悪さが逆に怖くなって私は女から後退った。
しかしメイド女は何故かその自信を崩さない。寧ろノリノリだ。子猫相手に悪事を楽し気に話す様子に私の心はますます引いた。
「いい?明日私はアンタをアミーラの部屋に遊び相手として連れて行くわ」
動物好きの彼女は大喜びでベッドに子猫を乗せるだろう。そうメイド女は言う。
ベアトリスちゃんのお母さんに自分が可愛がられることを想像してちょっと楽しそうだなと思ってしまった。
「それでアンタは適当な所で寝たふりをしなさい。体力のないあの女も釣られて寝るわ、そうしたら……」
私が事前に用意した濡れた布をアミーラの顔に被せなさい。そう冷酷に告げる女に私は言葉を失った。
成程。この女が企んでいるのはいわゆる『密室殺人』という奴か。被害者以外人間のいない部屋での殺人。
自分がいない時に彼女が殺されることで殺人に関与していないことにできる。
濡れたハンカチ程度なら私でも持ち運べはするだろう。なるほど一応考えてはいるみたいだ。
……って、それやったらこの女じゃなく私がアミーラさん殺しの罪で捕まるだけじゃないの!
そもそもベアトリスちゃんの母親を私が殺す筈がない。
私は唸ることで拒否の意向を示そうと思った。だが、止める。
私が拒否したらこの女はこの場で私を殺す。ここは従ったふりをした方が良い。
どうせ当日も私が濡れた布をかけなければいいだけの話だ。
「ちなみに拒否したり失敗したら、ベアトリスの方にもこの薬を飲ませるわよ」
母親からの差し入れって言ったら素直に大喜びして飲みそうよねえ?
そう悪魔のような笑顔でメイドが言う。
「ピアノだって、私の嘘をあっさり信じて何時間も弾き続けて怒られて馬鹿みたい」
気づいたら女の足首に私は食らいついていた。
あの見るからに危険物ですと言いたげな薔薇と髑髏の絵が描かれたラベル。
イケFのゲーム内で悪役令嬢ベアトリスがヒロイン暗殺に使おうとしていた毒薬じゃないか……!
たしか『魔女の鉄槌』という名前だったか。
同居している義理の妹を憎むベアトリスがメイドに命じて屋敷での飲食物に混入させていたものは。
そのまま弱って死んでいくのを待っていれば良かったのに直接ヒロインに小瓶から飲ませようとして悪巧みがバレたシーンはゲームと言えど突っ込みどころ満載だった。
抵抗するヒロインと揉み合いになった結果、瓶の中の液体が自分にかかってベアトリスの顔半分が焼け爛れたことも覚えている。
それを何故この女が持っているのかはわからない。もしかしたら毒薬が簡単に手に入る世界なのかもしれない。
「万が一にも毒殺がバレないよう、すぐ殺したいのを耐えて過ごしてきたわ……」
でも、それも今日で終わり。メイド女が笑う。
「化け猫、あんたアミーラを窒息死させなさい!」
「ンナァ?!」
まるで名案のように言われて私は困惑の鳴き声を上げた。
いや窒息死させなさいって、どうやって私が出来ると言うのか。
メインクーン並みの大型ならともかく、今の私はベアトリスちゃんの膝の上で充分寛げるサイズの子猫なんですけど?
奥さんからマー坊を略奪したすぎて頭が馬鹿になってしまったのだろうか……。
その頭の悪さが逆に怖くなって私は女から後退った。
しかしメイド女は何故かその自信を崩さない。寧ろノリノリだ。子猫相手に悪事を楽し気に話す様子に私の心はますます引いた。
「いい?明日私はアンタをアミーラの部屋に遊び相手として連れて行くわ」
動物好きの彼女は大喜びでベッドに子猫を乗せるだろう。そうメイド女は言う。
ベアトリスちゃんのお母さんに自分が可愛がられることを想像してちょっと楽しそうだなと思ってしまった。
「それでアンタは適当な所で寝たふりをしなさい。体力のないあの女も釣られて寝るわ、そうしたら……」
私が事前に用意した濡れた布をアミーラの顔に被せなさい。そう冷酷に告げる女に私は言葉を失った。
成程。この女が企んでいるのはいわゆる『密室殺人』という奴か。被害者以外人間のいない部屋での殺人。
自分がいない時に彼女が殺されることで殺人に関与していないことにできる。
濡れたハンカチ程度なら私でも持ち運べはするだろう。なるほど一応考えてはいるみたいだ。
……って、それやったらこの女じゃなく私がアミーラさん殺しの罪で捕まるだけじゃないの!
そもそもベアトリスちゃんの母親を私が殺す筈がない。
私は唸ることで拒否の意向を示そうと思った。だが、止める。
私が拒否したらこの女はこの場で私を殺す。ここは従ったふりをした方が良い。
どうせ当日も私が濡れた布をかけなければいいだけの話だ。
「ちなみに拒否したり失敗したら、ベアトリスの方にもこの薬を飲ませるわよ」
母親からの差し入れって言ったら素直に大喜びして飲みそうよねえ?
そう悪魔のような笑顔でメイドが言う。
「ピアノだって、私の嘘をあっさり信じて何時間も弾き続けて怒られて馬鹿みたい」
気づいたら女の足首に私は食らいついていた。
0
お気に入りに追加
1,416
あなたにおすすめの小説
醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。
髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は…
悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。
そしてこの髪の奥のお顔は…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドで世界を変えますよ?
**********************
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生侍女シリーズ第二弾です。
短編全4話で、投稿予約済みです。
よろしくお願いします。
魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!
蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」
「「……は?」」
どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。
しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。
前世での最期の記憶から、男性が苦手。
初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。
リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。
当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。
おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……?
攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。
ファンタジー要素も多めです。
※なろう様にも掲載中
※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ
藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。
そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした!
どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!?
えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…?
死にたくない!けど乙女ゲームは見たい!
どうしよう!
◯閑話はちょいちょい挟みます
◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください!
◯11/20 名前の表記を少し変更
◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました! でもそこはすでに断罪後の世界でした
ひなクラゲ
恋愛
突然ですが私は転生者…
ここは乙女ゲームの世界
そして私は悪役令嬢でした…
出来ればこんな時に思い出したくなかった
だってここは全てが終わった世界…
悪役令嬢が断罪された後の世界なんですもの……
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
悪役令嬢はヒロインに敵わないのかしら?
こうじゃん
恋愛
わたくし、ローズ・キャンベラは、王宮園遊会で『王子様を巻き込んで池ポチャ』をした。しかも、その衝撃で前世の記憶を思い出した。
甦る膨大な前世の記憶。そうして気づいたのである。
私は今中世を思わせる、魔法有りのダークファンタジー乙女ゲーム『フラワープリンセス~花物語り』の世界に転生した。
――悪名高き黒き華、ローズ・キャンベルとして。
(小説家になろうに投稿済み)
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる