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9.権力者の娘ですので
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急いできたのかフェリクスは汗をかいていた。
記憶が戻る前の私なら慌ててタオルや飲み物を手配してたんでしょうね。
それとも汗をかいてるフェリクス様も素敵って見惚れていたかしら。
当然今の私はそのどちらも選ばず値踏みするような目で彼を見た。
ラウルと入れ替わりに来たフェリクスは私に何を言うつもりだろうか。
「……肩を、どうした」
躊躇いがちに言われたのは予想外の言葉だった。
どうやら無意識に自らの肩に手で触れていたらしい。
私が口を開く前に侍女のシェリアが抗議した。
「ラウル様が部屋を出る前に奥様に思い切り体当たりされたのです!」
「ラウルが……?」
「はい、奥様がラウル様に旦那様を侮辱されて抗議したことがお気に召さなかったのかと思います!」
「ちょっ、シェリア?」
シェリアまで私の全く予想してない台詞を言う。
確かにラウルを言い負かしはしたが、別にフェリクスを侮辱されたからではない。
彼があまりにも棚上げ発言ばかりするから突っ込みたくなっただけだ。
「俺の為に……?」
「違います、貴方の為なんかじゃないです」
そう訂正した後、今の台詞っていわゆるツンデレみたいだなと気づく。
相手があのラウルだったら有頂天になって私が自分に惚れてると思い込むに違いない。
しかしフェリクスは浮かれるどころか、どんよりとした眼差しになった。
「そうだな、俺なんかを庇う理由は無い」
やたら卑屈な物言いをされて強面の外見とのギャップに戸惑う。
拗ねてるのかと思ったが、こちらをチラチラ見ることも無い。自らの思考に没頭しているようだ。
この落ち込み具合、自己肯定感の塊のような弟と対照的だ。
「自分の事をなんかって卑下するの止めませんか、一応私は貴方を好きになって嫁いだのですから」
まあ、最初になんかって言ったのは私の方だけれど。
曇っていた瞳が少し輝きを取り戻してこちらを見る。私は慌てて補足した。
「あっ、勘違いしないでくださいね。今はもう愛情とか全くありませんので」
「……そうか」
先程よりも暗い表情になったフェリクスを前に今自分のしたことを考える。
もしかして、持ち上げてから思い切り落とした形になったのだろうか。
そんなつもりは無かったけれど。大体フェリクスがあんな台詞で嬉しそうにするとは思わなかったのだ。
「だって配偶者に毎日愛してないって言われ続けて、愛し続けるのって生き地獄だと思いませんか?」
「それは……」
「そんなに私が嫌なら結婚なんてしなければ良かったのに」
フェリクスにそう言いながら、でも私は公爵家で彼は伯爵家なんだよなとも思った。
「もしかして父が無理やり私と結婚させたりしました?」
「違う、強引であったがそこまで無理やりでは無い」
ある日突然呼び出されてひたすら君の愛らしさと公爵家と繫がる利点を説明され続けただけだ。
フェリクスの言葉に私は今すぐ過去に戻って父の口を塞ぎたくなった。
記憶が戻る前の私なら慌ててタオルや飲み物を手配してたんでしょうね。
それとも汗をかいてるフェリクス様も素敵って見惚れていたかしら。
当然今の私はそのどちらも選ばず値踏みするような目で彼を見た。
ラウルと入れ替わりに来たフェリクスは私に何を言うつもりだろうか。
「……肩を、どうした」
躊躇いがちに言われたのは予想外の言葉だった。
どうやら無意識に自らの肩に手で触れていたらしい。
私が口を開く前に侍女のシェリアが抗議した。
「ラウル様が部屋を出る前に奥様に思い切り体当たりされたのです!」
「ラウルが……?」
「はい、奥様がラウル様に旦那様を侮辱されて抗議したことがお気に召さなかったのかと思います!」
「ちょっ、シェリア?」
シェリアまで私の全く予想してない台詞を言う。
確かにラウルを言い負かしはしたが、別にフェリクスを侮辱されたからではない。
彼があまりにも棚上げ発言ばかりするから突っ込みたくなっただけだ。
「俺の為に……?」
「違います、貴方の為なんかじゃないです」
そう訂正した後、今の台詞っていわゆるツンデレみたいだなと気づく。
相手があのラウルだったら有頂天になって私が自分に惚れてると思い込むに違いない。
しかしフェリクスは浮かれるどころか、どんよりとした眼差しになった。
「そうだな、俺なんかを庇う理由は無い」
やたら卑屈な物言いをされて強面の外見とのギャップに戸惑う。
拗ねてるのかと思ったが、こちらをチラチラ見ることも無い。自らの思考に没頭しているようだ。
この落ち込み具合、自己肯定感の塊のような弟と対照的だ。
「自分の事をなんかって卑下するの止めませんか、一応私は貴方を好きになって嫁いだのですから」
まあ、最初になんかって言ったのは私の方だけれど。
曇っていた瞳が少し輝きを取り戻してこちらを見る。私は慌てて補足した。
「あっ、勘違いしないでくださいね。今はもう愛情とか全くありませんので」
「……そうか」
先程よりも暗い表情になったフェリクスを前に今自分のしたことを考える。
もしかして、持ち上げてから思い切り落とした形になったのだろうか。
そんなつもりは無かったけれど。大体フェリクスがあんな台詞で嬉しそうにするとは思わなかったのだ。
「だって配偶者に毎日愛してないって言われ続けて、愛し続けるのって生き地獄だと思いませんか?」
「それは……」
「そんなに私が嫌なら結婚なんてしなければ良かったのに」
フェリクスにそう言いながら、でも私は公爵家で彼は伯爵家なんだよなとも思った。
「もしかして父が無理やり私と結婚させたりしました?」
「違う、強引であったがそこまで無理やりでは無い」
ある日突然呼び出されてひたすら君の愛らしさと公爵家と繫がる利点を説明され続けただけだ。
フェリクスの言葉に私は今すぐ過去に戻って父の口を塞ぎたくなった。
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