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6.雨に濡れた子犬系アラサー登場
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朝から騒がしいと思っていたらマーベラが失踪したらしい。
その影響か朝食時に食堂にフェリクスが現れることは無かった。
私と夫の話に勝手に割り込んできて自爆して首になって家出。
マーベラが何をしたかったのか正直分からない。
そんなことを思いながら朝食を終えて、今日はこれから何をしようか考える。
両親へ手紙を書くのは午前中に終えたい。
フェリクスとも話をしたいが、向こうが忙しそうなら今日は後回しで良い。
離婚について詳しく知りたいから図書室にでも行こうか。
簡単な予定を決めてからシェリアのお茶で一息つく。
そして早速手紙を書こうと思った瞬間、来客を知らされた。
相手はフェリクスの弟のラウルだ。
今年二十七歳になる優男で去年離婚して婿先の男爵家から出戻って来た。
今は伯爵家の離れで悠々自適に暮らしている。つまり敷地内同居という奴だ。
ちなみにフェリクスには絶対彼の住む離れに一人で近づくなと言われた。
理由は説明されていないが記憶が戻った今なら何となく察せる。
だからこそラウルが会いに来たと言われて嫌な予感しかしなかった。
「どうしてフェリクスじゃなく私に会いたがるの?」
「具合が悪いとお伝えしましょうか?」
うんざりとした気持ちで吐き出す。
訪問を伝えてきたシェリアに問いかけられ私は少し考えて首を振った。
「いいわ、花束を持って見舞に来られても面倒だし会います……フェリクスは?」
「伯爵様は外出されたとのことです」
「そう、お忙しいのね」
兄が留守だから代わりに私に会おうとしているのだとは思わなかった。
寧ろ逆でフェリクスが居ない隙を狙って私にちょっかいを出そうとしている気がする。
彼の離婚理由を思い出しながら私は溜息を吐いた。
「そんな性根だから離婚されて叩き出されるのよ」
小声で言いながら人前に出る支度をする。
「あまり華美にならないように。寧ろ地味に見えるぐらいでいいわ。相手が相手だから」
「かしこまりました」
シェリアに指示すると心得たように返事をされ髪と服装を整えられる。
たっぷり三十分ほどかけてから自室を出て広いエントランスまで向かう。
そこでは筆頭執事が苦い顔をして、長身の男性と一緒に私を待っていた。
「奥様、女性の身支度は時間がかかると言いますがもう少し迅速に出来たのでは?」
父と同じくらいの年齢の執事が私を見て早速苦言を呈してくる。
ふわふわ頭だったマリアンお嬢様は伯爵家の人間の大体に軽んじられている。
こうやって叱られるのもいつものことだった。
ただ私は昨日までのマリアンでは無い。
「黙りなさい」
冷たく言い放つと執事の表情が凍った。
「何故約束もしていない訪問に私が焦らなければいけないの」
「で、ですが ラウル坊ちゃまをこんな寒い場所で長々とお待たせして……」
「だとしたら貴方が別室に案内するなり手配すればいいだけでしょう」
普段なら慌てて謝罪してくる相手に冷たく言い返されて執事は目を白黒させていた。
私はもう少しで伯爵夫人で無くなるから良いけど、やっぱりフェリクスにこの態度の悪さは伝えておくべきかしら。
そんなことを考えていると横から悲し気な声が聞こえた。
「マリアンちゃん、アーノルドをあまり怒らないで。勝手に来た僕が悪いんだから……」
雨に濡れた子犬のように落ち込んだ様子で私に言うのはフェリクスの弟のラウル・アンベール。
二十七歳という外見の割に若々しい美男子だ。
兄と同じ黒髪だが華奢で美少年がそのまま大人になったような美青年。確か母親似だと聞いたことがある。
「でも僕、マリアンちゃんが兄さんと喧嘩したって聞いて心配で……」
「ラウル坊ちゃま、なんてお優しい……」
「そんな、マリアンちゃんは僕の妹なんだから心配するのは当たり前だよ、でもっ迷惑だったかな……」
震えながら俯きがちに呟くラウルに執事が感激している。
私、この人苦手だわ。
なんとなくだが絶対苦手だわ。
「そんなことはございません! 奥様もきっと感謝しております!」
「勝手に決めつけないで」
執事とラウルのやり取りにうんざりしながら突っ込みを入れる。
なんだろう。この義弟に感じる苦手感は。
善意の押し付けが強いから?気弱に見せかけて強引だから? それとも執事の持ち上げ方が気持ち悪いから?
全部かしら。
そんなことを考えているとシェリアが冷静な声でお茶の準備が出来たようですと告げてきた。
その影響か朝食時に食堂にフェリクスが現れることは無かった。
私と夫の話に勝手に割り込んできて自爆して首になって家出。
マーベラが何をしたかったのか正直分からない。
そんなことを思いながら朝食を終えて、今日はこれから何をしようか考える。
両親へ手紙を書くのは午前中に終えたい。
フェリクスとも話をしたいが、向こうが忙しそうなら今日は後回しで良い。
離婚について詳しく知りたいから図書室にでも行こうか。
簡単な予定を決めてからシェリアのお茶で一息つく。
そして早速手紙を書こうと思った瞬間、来客を知らされた。
相手はフェリクスの弟のラウルだ。
今年二十七歳になる優男で去年離婚して婿先の男爵家から出戻って来た。
今は伯爵家の離れで悠々自適に暮らしている。つまり敷地内同居という奴だ。
ちなみにフェリクスには絶対彼の住む離れに一人で近づくなと言われた。
理由は説明されていないが記憶が戻った今なら何となく察せる。
だからこそラウルが会いに来たと言われて嫌な予感しかしなかった。
「どうしてフェリクスじゃなく私に会いたがるの?」
「具合が悪いとお伝えしましょうか?」
うんざりとした気持ちで吐き出す。
訪問を伝えてきたシェリアに問いかけられ私は少し考えて首を振った。
「いいわ、花束を持って見舞に来られても面倒だし会います……フェリクスは?」
「伯爵様は外出されたとのことです」
「そう、お忙しいのね」
兄が留守だから代わりに私に会おうとしているのだとは思わなかった。
寧ろ逆でフェリクスが居ない隙を狙って私にちょっかいを出そうとしている気がする。
彼の離婚理由を思い出しながら私は溜息を吐いた。
「そんな性根だから離婚されて叩き出されるのよ」
小声で言いながら人前に出る支度をする。
「あまり華美にならないように。寧ろ地味に見えるぐらいでいいわ。相手が相手だから」
「かしこまりました」
シェリアに指示すると心得たように返事をされ髪と服装を整えられる。
たっぷり三十分ほどかけてから自室を出て広いエントランスまで向かう。
そこでは筆頭執事が苦い顔をして、長身の男性と一緒に私を待っていた。
「奥様、女性の身支度は時間がかかると言いますがもう少し迅速に出来たのでは?」
父と同じくらいの年齢の執事が私を見て早速苦言を呈してくる。
ふわふわ頭だったマリアンお嬢様は伯爵家の人間の大体に軽んじられている。
こうやって叱られるのもいつものことだった。
ただ私は昨日までのマリアンでは無い。
「黙りなさい」
冷たく言い放つと執事の表情が凍った。
「何故約束もしていない訪問に私が焦らなければいけないの」
「で、ですが ラウル坊ちゃまをこんな寒い場所で長々とお待たせして……」
「だとしたら貴方が別室に案内するなり手配すればいいだけでしょう」
普段なら慌てて謝罪してくる相手に冷たく言い返されて執事は目を白黒させていた。
私はもう少しで伯爵夫人で無くなるから良いけど、やっぱりフェリクスにこの態度の悪さは伝えておくべきかしら。
そんなことを考えていると横から悲し気な声が聞こえた。
「マリアンちゃん、アーノルドをあまり怒らないで。勝手に来た僕が悪いんだから……」
雨に濡れた子犬のように落ち込んだ様子で私に言うのはフェリクスの弟のラウル・アンベール。
二十七歳という外見の割に若々しい美男子だ。
兄と同じ黒髪だが華奢で美少年がそのまま大人になったような美青年。確か母親似だと聞いたことがある。
「でも僕、マリアンちゃんが兄さんと喧嘩したって聞いて心配で……」
「ラウル坊ちゃま、なんてお優しい……」
「そんな、マリアンちゃんは僕の妹なんだから心配するのは当たり前だよ、でもっ迷惑だったかな……」
震えながら俯きがちに呟くラウルに執事が感激している。
私、この人苦手だわ。
なんとなくだが絶対苦手だわ。
「そんなことはございません! 奥様もきっと感謝しております!」
「勝手に決めつけないで」
執事とラウルのやり取りにうんざりしながら突っ込みを入れる。
なんだろう。この義弟に感じる苦手感は。
善意の押し付けが強いから?気弱に見せかけて強引だから? それとも執事の持ち上げ方が気持ち悪いから?
全部かしら。
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