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【45】悪霊令嬢、共感する
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「ルシウスから彼女への恋心を消すだけでなく、私を新たに求めるようにした理由は?」
「彼の婚約者に対するサービスかもしれないな」
「ふふっ、命知らずな程無礼な発想だわ」
楽しくて笑った訳ではない、おかしくて笑うしかなかったのだ。
恐らく私の中のリコリスは怒っている。あの彼岸花だらけの場所で全てを焼き尽くすような瞳をしながら。
怒りという感情で己も確かに彼女(リコリス)であると認識できるのは皮肉な気分だった。
「それは、ふふ、コノハナ嬢の食べ残しを唾を吐きかけラッピングして私にプレゼントするようなものよ」
もしその推測が事実なら、サービスどころか宣戦布告だ。
私の台詞を聞いてローレルが深く溜息を吐く。
「だから気づかれたくなかった」
「なら知らせなければ良かったのに」
「話さなければ、納得しないだろう。本当は君にもアヤナにも気づかれない内に処理したかった」
つまりルシウスの件に彼女は関与していないということか。
それもそうだ。アヤナはゲーム内でヒロインの恋愛を無条件で支援する。
ルシウスとの関係を破綻させる手伝いをする筈もなかった。
「つまり貴男がコノハナから仕事を請け負って、そして今日その効果を薬で消したってこと?」
それってマッチポンプというものではないだろうか。なんというか胡散臭い大人たちばかりだ。
しかしどうしてこのタイミングだったのだろう。
ルシウスの心を操るならもっと早くそうしておけば彼がリコリスを突き飛ばすことはなかった筈だ。
私は疑問を素直に口にした。ローレルは僅か呆れたような顔をして首を振る。
「わからない。ただ後手後手になった可能性はある」
「後手に?」
「ルシウスを操る前に彼が君を突き飛ばす事件が発生した。だから慌てて彼の感情を書き換えた」
「そんなの遅すぎないかしら」
「実際そうだ。だがそういう行為を人間はするだろう。締め切りに間に合わない時間になってから課題に手を付け始めたり」
前世、学生時代の記憶を思い出し若干憂鬱な気分になりながら私は頷いた。
つまりルシウスの心を操ることに対して、命じられた人物は迷いを持っていた。
だから何か切っ掛けがないと実行できなかった。それが突き飛ばし事件だった。
自分がその人物だったら騒動を知った瞬間に具合が悪くなるだろう。
更にそれはヒロインの弁当が原因なのだから。
泣きそうな気分で犯人がルシウスに術か薬を使うシーンを思い浮かべる。愚かさと哀れさが同時に感じられた。
「もしかして、ルシウスの心を最初に書き換えたのは貴男ではないってこと?」
「もしかしても何も、そんな厄介なことを請け負う筈が無い」
心を操る術も薬も忌避と迫害の対象だ。そう告げられて私は素直に頷けない。
アヤナも、そしてローレルも何の躊躇いもなく他人の恋心を弄ろうとしたではないか。
私は実際口に出してそう指摘した。
「アヤナは人格異常者だ。だが精霊に愛されている上に天才でもある。だからある程度の暴挙は許されるんだ」
君と同じで。そう告げられて私はゲーム内での悪霊令嬢の扱いに納得した。
コノハナ側の今回の行動もだが、この世界は一部の特別な人間たちの暴挙を許容し過ぎている。
ある意味実力主義というものなのだろうか。それとも一種の選民思想か。
しかしそこに平民貴族の差別主義も絡むから面倒臭い。
「それに私は、おかしくなった生徒を元の正常な状態に戻しただけだ。ただの治療だよ」
君を愛さない婚約者に戻った彼に、会いたいなら好きにするといい。
そう言われて私は、別に会いたくないですと言いたくなった。
会う必要はあるのに、会いたくない。
ルシウスに手遅れな恋心を植え付けた人間もこんな気持ちだったのだろうか。
「彼の婚約者に対するサービスかもしれないな」
「ふふっ、命知らずな程無礼な発想だわ」
楽しくて笑った訳ではない、おかしくて笑うしかなかったのだ。
恐らく私の中のリコリスは怒っている。あの彼岸花だらけの場所で全てを焼き尽くすような瞳をしながら。
怒りという感情で己も確かに彼女(リコリス)であると認識できるのは皮肉な気分だった。
「それは、ふふ、コノハナ嬢の食べ残しを唾を吐きかけラッピングして私にプレゼントするようなものよ」
もしその推測が事実なら、サービスどころか宣戦布告だ。
私の台詞を聞いてローレルが深く溜息を吐く。
「だから気づかれたくなかった」
「なら知らせなければ良かったのに」
「話さなければ、納得しないだろう。本当は君にもアヤナにも気づかれない内に処理したかった」
つまりルシウスの件に彼女は関与していないということか。
それもそうだ。アヤナはゲーム内でヒロインの恋愛を無条件で支援する。
ルシウスとの関係を破綻させる手伝いをする筈もなかった。
「つまり貴男がコノハナから仕事を請け負って、そして今日その効果を薬で消したってこと?」
それってマッチポンプというものではないだろうか。なんというか胡散臭い大人たちばかりだ。
しかしどうしてこのタイミングだったのだろう。
ルシウスの心を操るならもっと早くそうしておけば彼がリコリスを突き飛ばすことはなかった筈だ。
私は疑問を素直に口にした。ローレルは僅か呆れたような顔をして首を振る。
「わからない。ただ後手後手になった可能性はある」
「後手に?」
「ルシウスを操る前に彼が君を突き飛ばす事件が発生した。だから慌てて彼の感情を書き換えた」
「そんなの遅すぎないかしら」
「実際そうだ。だがそういう行為を人間はするだろう。締め切りに間に合わない時間になってから課題に手を付け始めたり」
前世、学生時代の記憶を思い出し若干憂鬱な気分になりながら私は頷いた。
つまりルシウスの心を操ることに対して、命じられた人物は迷いを持っていた。
だから何か切っ掛けがないと実行できなかった。それが突き飛ばし事件だった。
自分がその人物だったら騒動を知った瞬間に具合が悪くなるだろう。
更にそれはヒロインの弁当が原因なのだから。
泣きそうな気分で犯人がルシウスに術か薬を使うシーンを思い浮かべる。愚かさと哀れさが同時に感じられた。
「もしかして、ルシウスの心を最初に書き換えたのは貴男ではないってこと?」
「もしかしても何も、そんな厄介なことを請け負う筈が無い」
心を操る術も薬も忌避と迫害の対象だ。そう告げられて私は素直に頷けない。
アヤナも、そしてローレルも何の躊躇いもなく他人の恋心を弄ろうとしたではないか。
私は実際口に出してそう指摘した。
「アヤナは人格異常者だ。だが精霊に愛されている上に天才でもある。だからある程度の暴挙は許されるんだ」
君と同じで。そう告げられて私はゲーム内での悪霊令嬢の扱いに納得した。
コノハナ側の今回の行動もだが、この世界は一部の特別な人間たちの暴挙を許容し過ぎている。
ある意味実力主義というものなのだろうか。それとも一種の選民思想か。
しかしそこに平民貴族の差別主義も絡むから面倒臭い。
「それに私は、おかしくなった生徒を元の正常な状態に戻しただけだ。ただの治療だよ」
君を愛さない婚約者に戻った彼に、会いたいなら好きにするといい。
そう言われて私は、別に会いたくないですと言いたくなった。
会う必要はあるのに、会いたくない。
ルシウスに手遅れな恋心を植え付けた人間もこんな気持ちだったのだろうか。
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