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【43】悪霊令嬢、犯人を知らされる

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「……確かに、私が彼にしてきたことは婚約関係にあっても異常な行為でした」


 私の言葉に冷たく整った保険医の表情が、驚きで僅かに崩れる。
 
 恐らくここまで素直に非を認めるとは想定してなかったのだろう。

 しかしローレルは立ち直るのも早かった。


「まるで別人のようだな、リコリス・ラディア―タ嬢」


 探るような目で言われヒヤリとする。確かに中身はほぼ別人のようなものだが悟られたくはない。

 アヤナやローレルたちに知られたら、強制的に「元通り」にされかねない。

 今日彼がルシウスに対して行ったように。そうなれば私の人格は消されてしまうだろう。

 彼らの事を信用出来ない。アヤナたちに理不尽に責められ犯人扱いされたことを忘れていない。

 だから事情を話したくない。私をリコリスの「偽者」扱いして騒ぎ立てる可能性だってある。

 そもそもこの世界が前世でプレイしたゲームと酷似していることはハイドラにも伝えてない。 

 まず乙女ゲームというものについて説明することが難しいと感じた。

 そして自分たちが存在している世界が、自分たちが、つくりものかもしれないなんて想像させるのが嫌だった。
 
 何よりゲームキャラであるリコリスとして生きている私自身が、今どういう状態なのか。

 深く考えようとすると怖くて堪らなかった。

 唇を噛んで暗い考えを振り切る。今思考するべきはそれではない。

 
「ルシウス様に突き飛ばされたショックで、色々考えが変わりました」


 私の台詞にローレルは一呼吸置いてから笑う。


「フッ、まるで悪趣味なお伽噺のようだな」

「何が、おかしいのかしら」

「性格だけでない、今の君は彼に全く好意を抱いていないように見えるからだ」

「それは……」  

「ルシウス・ウィローだけが変貌したなら君たちは両想いという形になった筈だ」


 そして恐らくそれが目的だったのだろうに。

 菫色の瞳が疲れたように伏せられる。


「目的?」

「ルシウス・ウィローの感情を操ったのはナズナ・コノハナの関係者だ」


 君がここに来た理由は、これが知りたかっただろう。

 長髪の保険医はそう言うと、話し過ぎて喉が渇いたと言って私から背を向けた。

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