29 / 50
【29】悪霊令嬢、泣かれる
しおりを挟む
数年間の監視付き纏い行為と一回の突き飛ばし。
正直どちらの方が重罪なのか私にはわからない。
私が大怪我をしていれば話は違ったのだろうが、実際はこのようにピンピンしている。
契約していた闇精霊の大部分が家出、記憶には欠落。何より人格が前世に戻っている。
体に傷はないが見えない部分は変化だらけだ。
でも頭を打ったことがきっかけでルシウスへの執着が消えた事は本当に良かったと思っている。
これで彼がヒロインと結ばれても嫉妬で破滅へ走ることはない。
だから、私はルシウスが私を突き飛ばしたことを大事にするつもりはない。
それは慈悲ではなく、リコリスが過去に行った付き纏い行為に後ろめたさを感じるから。
私たちは被害者であり加害者でもある。だからこそ、今この縁を切ってしまいたいのだ。
関係がこれ以上歪む前に。
「貴男が私を愛していないのは知っているわ。無理はしないで」
「え……」
ルシウスの表情が笑顔のまま凍り付く。
「突き飛ばしたくらい嫌いなのよね。その感情は認めるし申し訳ないとさえ思っているわ」
婚約関係にあるとは言え長年ストーキングをされていた彼がリコリスをおぞましく思うのは仕方がない。
そんな相手を保身の為といえ情熱的に口説いたりキスしてきた勇気に感心もする。
ただ、そういった事情を根底に隠しながら媚びられて喜べるほど私はシンプルな女ではなかった。
寧ろルシウスの器用さと覚悟に覚悟を感じる。
一見ラブラブカップルになったと見せかけて計画殺人とかされそうだ。
ただそれでも、突き飛ばした件への謝罪が一切無い辺り若くて正直だとは思う。
それはリコリスを拒絶した事を悪いと認めたくない本心の表出だろう。
謝って欲しいという気持ちはあるが、そこまで嫌ならもういい。無理やり謝罪させて恨まれても面倒だ。
「父に頼んで婚約は解消して貰います。それで私たちの関係は終わり。貴男へ私のしてきたことと、貴男が私にしたこと全部白紙にしましょう」
「リコリス、そんな……」
安堵の表情を見せるかと予想したのに何故かルシウスは悲し気な目をしている。これも演技だろうか。
それとも私の発言を信用していないのかもしれない。喜んだ後で、嘘だと言われるのを恐れているのとか。
やはりこういうのは口約束では駄目か。日を改めて親同伴でちゃんとした方がいい。
ああ、そうだ。これだけは言っておかなければ。
「貴男が誰を愛しても構わないけれど、堂々と睦み合うのは婚約解消してからにして欲しいわ」
「……俺が愛しているのは君だよ、リコリス」
それなのに婚約破棄だなんて、そう傷ついた声で言うルシウスの長い睫毛が閉じられて涙が一筋頬を伝う。
顔の良さと演技力の高さを活かして役者にでもなったらどうだろうか。
加害者意識が皆無なルシウスに若干の不気味さを感じ始める。
そんな私とは正反対に職員室に居る面々からは彼に対する同情的な声が聞こえてきた。
正直どちらの方が重罪なのか私にはわからない。
私が大怪我をしていれば話は違ったのだろうが、実際はこのようにピンピンしている。
契約していた闇精霊の大部分が家出、記憶には欠落。何より人格が前世に戻っている。
体に傷はないが見えない部分は変化だらけだ。
でも頭を打ったことがきっかけでルシウスへの執着が消えた事は本当に良かったと思っている。
これで彼がヒロインと結ばれても嫉妬で破滅へ走ることはない。
だから、私はルシウスが私を突き飛ばしたことを大事にするつもりはない。
それは慈悲ではなく、リコリスが過去に行った付き纏い行為に後ろめたさを感じるから。
私たちは被害者であり加害者でもある。だからこそ、今この縁を切ってしまいたいのだ。
関係がこれ以上歪む前に。
「貴男が私を愛していないのは知っているわ。無理はしないで」
「え……」
ルシウスの表情が笑顔のまま凍り付く。
「突き飛ばしたくらい嫌いなのよね。その感情は認めるし申し訳ないとさえ思っているわ」
婚約関係にあるとは言え長年ストーキングをされていた彼がリコリスをおぞましく思うのは仕方がない。
そんな相手を保身の為といえ情熱的に口説いたりキスしてきた勇気に感心もする。
ただ、そういった事情を根底に隠しながら媚びられて喜べるほど私はシンプルな女ではなかった。
寧ろルシウスの器用さと覚悟に覚悟を感じる。
一見ラブラブカップルになったと見せかけて計画殺人とかされそうだ。
ただそれでも、突き飛ばした件への謝罪が一切無い辺り若くて正直だとは思う。
それはリコリスを拒絶した事を悪いと認めたくない本心の表出だろう。
謝って欲しいという気持ちはあるが、そこまで嫌ならもういい。無理やり謝罪させて恨まれても面倒だ。
「父に頼んで婚約は解消して貰います。それで私たちの関係は終わり。貴男へ私のしてきたことと、貴男が私にしたこと全部白紙にしましょう」
「リコリス、そんな……」
安堵の表情を見せるかと予想したのに何故かルシウスは悲し気な目をしている。これも演技だろうか。
それとも私の発言を信用していないのかもしれない。喜んだ後で、嘘だと言われるのを恐れているのとか。
やはりこういうのは口約束では駄目か。日を改めて親同伴でちゃんとした方がいい。
ああ、そうだ。これだけは言っておかなければ。
「貴男が誰を愛しても構わないけれど、堂々と睦み合うのは婚約解消してからにして欲しいわ」
「……俺が愛しているのは君だよ、リコリス」
それなのに婚約破棄だなんて、そう傷ついた声で言うルシウスの長い睫毛が閉じられて涙が一筋頬を伝う。
顔の良さと演技力の高さを活かして役者にでもなったらどうだろうか。
加害者意識が皆無なルシウスに若干の不気味さを感じ始める。
そんな私とは正反対に職員室に居る面々からは彼に対する同情的な声が聞こえてきた。
12
お気に入りに追加
5,499
あなたにおすすめの小説
猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない
高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。
王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。
最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。
あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……!
積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ!
※王太子の愛が重いです。
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
見た目を変えろと命令したのに婚約破棄ですか。それなら元に戻るだけです
天宮有
恋愛
私テリナは、婚約者のアシェルから見た目を変えろと命令されて魔法薬を飲まされる。
魔法学園に入学する前の出来事で、他の男が私と関わることを阻止したかったようだ。
薬の効力によって、私は魔法の実力はあるけど醜い令嬢と呼ばれるようになってしまう。
それでも構わないと考えていたのに、アシェルは醜いから婚約破棄すると言い出した。
逃がす気は更々ない
棗
恋愛
前世、友人に勧められた小説の世界に転生した。それも、病に苦しむ皇太子を見捨て侯爵家を追放されたリナリア=ヘヴンズゲートに。
リナリアの末路を知っているが故に皇太子の病を癒せる花を手に入れても聖域に留まり、神官であり管理者でもあるユナンと過ごそうと思っていたのだが……。
※なろうさんにも公開中。
ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。
曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」
きっかけは幼い頃の出来事だった。
ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。
その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。
あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。
そしてローズという自分の名前。
よりにもよって悪役令嬢に転生していた。
攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。
婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。
するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる