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【25】悪霊令嬢、待ち人来ず

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 翌日私は学校を休んだ。後頭部を強打したことだし一応見て貰おうと思ったのだ。

 往診に来てくれた医師は私の頭に数秒手をかざして問題ないですと言って帰った。

 魔法を使ったのはわかるけど、あっさりし過ぎではないだろうか。

 もう少しちゃんと診て欲しいと思ったけれどクレーマー扱いされる気がして口に出来なかった。

 それでも「今までの記憶とか、性格とか少し変わった気がするんですけど」と説明はしておいた。

 日常生活に困っていないなら別にいいと思います。様子を見ましょうと返答される。

 消極的だなと思ったが、すぐ元に戻しましょうと熱弁されるよりは断然マシだったので了承した。

 一晩後、すっかりラディア―タ家の長男として屋敷の人間に認識されていた美男の闇精霊は私を置いて登校していった。

 ハイドラは己を見た相手に、偽のプロフィールを事実のように即認識させる能力があるという話だった。

 つまり彼が私の弟なんて事実はないが、今の彼を見た人間はハイドラを「リコリスの弟」と認識するのだ。 

 ぬらりひょんの派生かなと思った。
  
 私を知らない人間の場合はどう認識されるのかとか、紙面でのやり取りの場合はどうなのかとか質問してみたが「個人情報になるから」ではぐらかされた。

 そう言われるとそれ以上は突っ込めない。チキンだと言われようが他人に距離なしと思われたくなかった。

 ハイドラは一見優しいし親切だし甘い言葉も平気で口にするが踏み込まれるのは嫌う。 

 相手が本気になったら捨てる宣言といい、タチの悪いホストみたいだなと感じる。

 前世でホストクラブに行ったことは一度も無いし、概念上のイメージでしかない。

 ただホストの優しさや愛想は客から貢いで貰う為の営業努力だろう。

 じゃあハイドラは私から代価として何を貰うつもりなのか。

 そんなことを考えながら色々していたら時間はあっという間に過ぎた。

 部屋を片付けたり、髪の長さを変えずヘアアレンジできないか考えたり、御飯を食べたりした。

 料理は私の好きな味付けで、かつ素材のグレードが良いので満足だった。

 取り合えず顔を合わせた使用人たちには転んで頭を打ったことで性格が少し変わっていることは知らせて置いた。

 医師から様子を見るように言われたこともだ。

 これで多少変なことをしても納得して貰えるだろう。父親は外泊中なので後回しだ。

 執事に確認すると魔法学会への出席とその後他のメンバーと慰安旅行という話だった。

 リコリスの父親にしては活動的な人だ。

 怪我をした件を知らせるか迷ったが、旅行を楽しんで帰宅してからでもいいだろう。私は空気は読めるのだ。

 頭は打ったが命には別状はない。婚約解消の件も絶対今日明日中にしなければいけないことでもない。

 夕方になってハイドラが帰宅した。夕飯を共にして少し話をした。明日は自分も学校に行くことを告げる。

 そして湯浴みをして部屋に戻りベッドに入った。

 結局ルシウスは見舞いにも謝罪にもこなかったなと考えると少しだけ寂しい気持ちになった。

 これが以前のリコリスの感情の残滓なのかは知らない。

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