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【13】悪霊令嬢、片付ける
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特に何事もなく馬車はラディアータ伯爵家に無事辿り着いた。
幸か不幸か父である伯爵は留守だった。
そういえば魔法学会へ出席するとか一昨日の夜に行っていた気がする。もしかしたら泊りかもしれない。
ずる休みをするつもりで早退した訳ではないが、なんとなく気が楽になる。
呼ぶまで誰も部屋に近づかないようにと使用人に言い置いて私室に戻る。
「……ハァ」
内側から扉を閉めるなり私はうんざりと溜息を吐き出した。部屋が、臭いのである。
生ゴミ臭とかではない。甘い花の香りをとことん煮詰めたような悪臭がする。
「私、香水とか嫌いだったのに……」
ハンカチで鼻を押さえながら、窓を開く。
ルームフレグランスの類は適当な箱に纏めて入れて蓋を閉じた。
カーテンや寝具に染み付いた匂いは取れないが、これだけで大分マシになる。換気の力が一番大きい。
前世の会社員時代に鼻が曲がる程香水をつけている同僚に良く平気でいられるなと感じたものだった。
それを昨日までの私自身にも言いたい。 寧ろ平気どころかリコリスは好んでこの香害の中にいたのだ。
彼女に対して理解できないと思うことが新たに一つ増えた。
香りだけではない、そもそも部屋の内装だって私の趣味とは全然違う。
装飾こそ豪華だけれど布は全部真っ黒だ。カーテンもベッドシーツも。これは黒魔法の家系だから仕方ないかもしれない。
でも飾られている人形や謎の瓶は片づけたいし、出来れば部屋の外に出してしまいたい。
枕元で笑っている少年のドールは特に念入りに神社でお焚き上げして欲しい。この世界に神社はないだろうけど。
金の髪に青い宝石が両目にはめこまれた人形は誰かさんによく似ている。
実際その腹の中にはルシウスの髪などが入っている。当然彼から貰った物ではない。
更に彼に関わるものは人形一体だけではない。飾られた瓶の中身や、ベッドの下に隠された写真アルバム。
全部リコリスの悪質なストーキング行為で収集されたコレクションだ。意識するだけで鳥肌が立った。
もしかしたらこれらからする臭いを隠す為に過剰に部屋を花の香りで満たしているのかもしれない。
とりあえず先程とは別の箱にこれらも纏め入れる。物が物だけに怖くて少し泣きそうだった。
頭でも打ったのかと思うレベルでリコリスへの態度が変わったあの婚約者を、この部屋に連れてきたら正気に戻るかもしれない。
その場合訴えられる可能性も大いにあるが。この世界にはストーキングを取り締まる法律はあっただろうか。
ないからといってしていいことでもない。前世の価値観に今の私は強く影響されているのだから。
だからこそこれまで通り「悪霊令嬢」として振舞うことが難しいのだ。
今の私はリコリス・ラディアータ本人だ。けれど認めつつも受け入れたくないと反発する気持ちが有る。
前世の記憶が戻ったからといって伯爵令嬢として十七年間生きてきた記憶が消えたということはない。
ただ婚約者を執着で縛り付けてきた悪霊令嬢リコリスと、誰とも付き合うことなく一生を終えた私の人格がどうしても噛み合わないのだ。
変化は周囲に遅かれ早かれ気づかれるだろう。実際ルシウスには既に知られている。
リコリスの家族が彼のように性格の変化を好意的に受け入れてくれれば助かるのだが。
「……いや、ルシウス君には嫌われたままの方が断然良かったけど、なんであんな……」
いっそ、この部屋を見て幻滅して貰うのもいいかもしれない。
本音を言えば部屋のホラーぶりを誰かと共感したい。でもできない。
正直この部屋で寝るのも嫌だ。真夜中に箱の中からカタカタ音がしたら心臓が破裂するかもしれない。
朝、家を出る前の自分なら何とも思わなかっただろうに。
前世の記憶を取り戻した弊害に私は自暴自棄な笑みを浮かべつつ少し泣いた。
幸か不幸か父である伯爵は留守だった。
そういえば魔法学会へ出席するとか一昨日の夜に行っていた気がする。もしかしたら泊りかもしれない。
ずる休みをするつもりで早退した訳ではないが、なんとなく気が楽になる。
呼ぶまで誰も部屋に近づかないようにと使用人に言い置いて私室に戻る。
「……ハァ」
内側から扉を閉めるなり私はうんざりと溜息を吐き出した。部屋が、臭いのである。
生ゴミ臭とかではない。甘い花の香りをとことん煮詰めたような悪臭がする。
「私、香水とか嫌いだったのに……」
ハンカチで鼻を押さえながら、窓を開く。
ルームフレグランスの類は適当な箱に纏めて入れて蓋を閉じた。
カーテンや寝具に染み付いた匂いは取れないが、これだけで大分マシになる。換気の力が一番大きい。
前世の会社員時代に鼻が曲がる程香水をつけている同僚に良く平気でいられるなと感じたものだった。
それを昨日までの私自身にも言いたい。 寧ろ平気どころかリコリスは好んでこの香害の中にいたのだ。
彼女に対して理解できないと思うことが新たに一つ増えた。
香りだけではない、そもそも部屋の内装だって私の趣味とは全然違う。
装飾こそ豪華だけれど布は全部真っ黒だ。カーテンもベッドシーツも。これは黒魔法の家系だから仕方ないかもしれない。
でも飾られている人形や謎の瓶は片づけたいし、出来れば部屋の外に出してしまいたい。
枕元で笑っている少年のドールは特に念入りに神社でお焚き上げして欲しい。この世界に神社はないだろうけど。
金の髪に青い宝石が両目にはめこまれた人形は誰かさんによく似ている。
実際その腹の中にはルシウスの髪などが入っている。当然彼から貰った物ではない。
更に彼に関わるものは人形一体だけではない。飾られた瓶の中身や、ベッドの下に隠された写真アルバム。
全部リコリスの悪質なストーキング行為で収集されたコレクションだ。意識するだけで鳥肌が立った。
もしかしたらこれらからする臭いを隠す為に過剰に部屋を花の香りで満たしているのかもしれない。
とりあえず先程とは別の箱にこれらも纏め入れる。物が物だけに怖くて少し泣きそうだった。
頭でも打ったのかと思うレベルでリコリスへの態度が変わったあの婚約者を、この部屋に連れてきたら正気に戻るかもしれない。
その場合訴えられる可能性も大いにあるが。この世界にはストーキングを取り締まる法律はあっただろうか。
ないからといってしていいことでもない。前世の価値観に今の私は強く影響されているのだから。
だからこそこれまで通り「悪霊令嬢」として振舞うことが難しいのだ。
今の私はリコリス・ラディアータ本人だ。けれど認めつつも受け入れたくないと反発する気持ちが有る。
前世の記憶が戻ったからといって伯爵令嬢として十七年間生きてきた記憶が消えたということはない。
ただ婚約者を執着で縛り付けてきた悪霊令嬢リコリスと、誰とも付き合うことなく一生を終えた私の人格がどうしても噛み合わないのだ。
変化は周囲に遅かれ早かれ気づかれるだろう。実際ルシウスには既に知られている。
リコリスの家族が彼のように性格の変化を好意的に受け入れてくれれば助かるのだが。
「……いや、ルシウス君には嫌われたままの方が断然良かったけど、なんであんな……」
いっそ、この部屋を見て幻滅して貰うのもいいかもしれない。
本音を言えば部屋のホラーぶりを誰かと共感したい。でもできない。
正直この部屋で寝るのも嫌だ。真夜中に箱の中からカタカタ音がしたら心臓が破裂するかもしれない。
朝、家を出る前の自分なら何とも思わなかっただろうに。
前世の記憶を取り戻した弊害に私は自暴自棄な笑みを浮かべつつ少し泣いた。
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