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【4】悪霊令嬢、反論する

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 再び悪霊のような姿になった私はヒロインを虐めている女生徒の背後に立つ。

 そして出来るだけ低くねっとりと囁いた。


「……いつどこで私がそんなこと言ったかしらぁ」

「えっ……ヒッ、リコリス様!」


 後ろを振り返った彼女たちは全員驚いた表情を浮かべる。

 驚きだけではない、恐怖の感情もそこには表れていた。

 まるで夜道で幽霊に遭遇したかのようだ。

 
「ねえ、教えて頂戴。名前も知らない貴女はどこで私の言葉を聞いたの?」

「そ、それは……」

「もしかして……盗み聞きかしらぁ?だとしたら黒魔術の贄は……」

「き、聞いてません!私は何も!」


 だから呪い殺さないでください!

 そう震えながら涙声で叫ばれ呆れる。

 先程までヒロインを相手にしていた時の威勢はなんだったのか。

 そもそも私は過去の記憶を思い出す前から呪殺なんてしたことはない。

 ラディア―タ家は黒魔術の名家。そしてリコリスは強い闇の魔力を持つ。

 だからこそルシウスを魔術で常に監視できていたのが、その力で生徒に怪我を負わせたことはない。 

 良くも悪くもリコリスは婚約者のことしか頭にないのだ。ルシウスにアタックする少女にも基本無関心だった。
 ゲーム内でもそれは同じだった。

 ルシウス本人がヒロインと結ばれる為に婚約解消を望んだ時にだけ彼女は暴走したのだ。 


「呪い殺す?貴女は私がそんなことをすると思っているのね?黒魔術が得意だから?偏見まみれのお馬鹿さぁん」


 会話を聞いていたけれど頭が悪すぎて笑ってしまったわ。そう私は嫌味ったらしく指摘する。


「平民は臭いと言っていたけれど、貴女のつけすぎた香水。薔薇かしらぁ、そちらの方が余程鼻が曲がりそうよぉ」

「なんですって、いや、なんでもありません……」


 怒鳴りかけたのを無理やり止めて悔しそうにこちらを睨む。

 彼女は先程ルシウスだけでなく私のことも様付けで呼んでいた。つまり私の家よりも身分が下なのだ。


「それにそちらの彼女は国中に支店のあるコノハナ商会の一人娘。靴磨きどころか下手な貴族よりも贅沢な暮らしが出来る筈よぉ」

「えっ、あのコノハナ商店の?!」

「そんな、私知らなかった……!」

「それは貴女たちがお馬鹿さんなだけねぇ」


 別にヒロインは身分を隠して学園に通っている訳ではない。

 ただ自分を地味な普通の人間だと勘違いしている。結果傲慢な貴族が態度を鵜呑みにして見下しているのだろう。

 コノハナ商会は儲かっているだけでない。

 魔力電池という超便利で貴重な専売品を扱っている結果有名貴族や王室にもツテがあるのだ。

 だからこそヒロインは王族や貴族ばかりの攻略対象たちと恋をして結ばれることができるのである。

 ルシウスに豪華なお弁当を差し入れることが出来たのも家が裕福だからだ。


「で、でも、だからといって婚約者のいる相手にアプローチをするのははしたないですわ!」

「そうですわ、私たちはリコリス様と学園の風紀を考えて……!」

「集団で弱い者虐めをする人間が風紀を語らないで頂戴」


 それにルシウス様との婚約は解消するから別にいいのよ。

 私が何気なく発した言葉に全員が目を丸くする。ヒロインの娘もだ。

 そして少しの沈黙の後、その場に女生徒たちの大声が響いた。

 
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