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【2】悪霊令嬢、イメチェンする。
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しかしリコリスのこの長過ぎる前髪、今までどうやって生活していたか不思議なくらいに邪魔だ。
まるで漆黒の暖簾のように視界を塞いでくる。手で掴んで持ち上げれば解決するが、常にそうしている訳にも行かない。
これから学園を早退するつもりだが保健室は無人だ。職員室に向かうつもりだが、その前に髪をどうにかしたい。
ポケットにヘアピンがないか探したが残念ながらなかった。購買になら売っているのだろうか。
「……そうだ」
私は保険室内をうろついて救急箱を見つける。鍵はかかっていなかった。
開けると頭痛薬の他に消毒薬や絆創膏、そして包帯が収納されている。鋏もセットだ。
「ラッキー」
目当ての物を発見し浮かれて呟く。包帯と鋏、これさえあれば簡易ヘアバンドが作れる。
貧乏くさいとか学校の備品を使私用で使うなという心の声は無視する。
この長い前髪のまま歩いたら確実に怪我をする。私は適度な長さに包帯をカットした。
そして鏡を見つつ自作したヘアバンドを使い前髪を後ろへ流す。
少しはみ出てしまった髪は面倒くさいから目にかからない程度に切った。
前髪を上げる、それだけで鏡の中の自分は別人のようになる。
「これは中々、いいんじゃないですか?」
目の下に濃い隈があり唇の血色も悪いがリコリスは意外な程整った顔立ちをしていた。
元々髪で顔を殆ど隠しているキャラだからわざと不細工にデザインする必要がなかったのかもしれない。
闇属性な印象は拭えないがこれなら悪霊には間違われないだろう。
後は足首まである後ろ髪と喪服みたいな制服をどうにかしたいところだが保健室で解決できる問題ではない。
髪自体はここで切ってもいいかもしれないがゴミ箱に大量の黒髪が詰め込まれている光景を生徒や教師が見たら驚くだろう。
鋏を水道で洗ってタオルで拭いて薬箱に戻す。そして備え付けのペンと紙を使って職員室へ行く旨を書き置きした。
切った前髪はティッシュで包んでゴミ箱に捨てた。もうこれほぼ現代の学校じゃんと思いながら。
廊下を目的地へ向かって歩く。視界がクリアで素晴らしい。もう頭も痛くない。
これは先ほど薬箱から頂戴した頭痛薬の効果かもしれない。
前世で愛用していた有名な頭痛薬とそっくりのパッケージだったので安心感が凄い。文化的な生活が維持できて助かる。
ただこの世界は身分による格差が酷い。
清潔なベッド、そして水道や頭痛薬などが自由に使えるのはここが貴族学園だから。
平民たちは毎日井戸で水を汲み、裕福な家庭以外は入浴の習慣もないらしい。
肉も滅多に食べられないし洗濯にまともな石鹸も使えない。
それを知っているのは私が前世でこのゲームをプレイしたことがあるから。そしてヒロインの設定が平民だったからだ。
特待生枠で入学を許された彼女には定期的に貴族の女子生徒による苛めイベントが発生していた。
その時に好感度の高い男子キャラが助けに来てくれるのだ。
「アナタねえ、特別な魔力を持っているからって生意気なのよ!」
「そうよ、臭いくて汚い平民のくせに!」
そうそう、こういう頭の悪そうな台詞を言われるのだ。
頷きながら角を曲がる。
その先では数人の女生徒がピンク髪の美少女を取り囲んでいた。頭には元気に花が咲いている。ヒロインちゃんだ。
つまりこれは、苛めイベント発生中という奴だろうか?
まるで漆黒の暖簾のように視界を塞いでくる。手で掴んで持ち上げれば解決するが、常にそうしている訳にも行かない。
これから学園を早退するつもりだが保健室は無人だ。職員室に向かうつもりだが、その前に髪をどうにかしたい。
ポケットにヘアピンがないか探したが残念ながらなかった。購買になら売っているのだろうか。
「……そうだ」
私は保険室内をうろついて救急箱を見つける。鍵はかかっていなかった。
開けると頭痛薬の他に消毒薬や絆創膏、そして包帯が収納されている。鋏もセットだ。
「ラッキー」
目当ての物を発見し浮かれて呟く。包帯と鋏、これさえあれば簡易ヘアバンドが作れる。
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この長い前髪のまま歩いたら確実に怪我をする。私は適度な長さに包帯をカットした。
そして鏡を見つつ自作したヘアバンドを使い前髪を後ろへ流す。
少しはみ出てしまった髪は面倒くさいから目にかからない程度に切った。
前髪を上げる、それだけで鏡の中の自分は別人のようになる。
「これは中々、いいんじゃないですか?」
目の下に濃い隈があり唇の血色も悪いがリコリスは意外な程整った顔立ちをしていた。
元々髪で顔を殆ど隠しているキャラだからわざと不細工にデザインする必要がなかったのかもしれない。
闇属性な印象は拭えないがこれなら悪霊には間違われないだろう。
後は足首まである後ろ髪と喪服みたいな制服をどうにかしたいところだが保健室で解決できる問題ではない。
髪自体はここで切ってもいいかもしれないがゴミ箱に大量の黒髪が詰め込まれている光景を生徒や教師が見たら驚くだろう。
鋏を水道で洗ってタオルで拭いて薬箱に戻す。そして備え付けのペンと紙を使って職員室へ行く旨を書き置きした。
切った前髪はティッシュで包んでゴミ箱に捨てた。もうこれほぼ現代の学校じゃんと思いながら。
廊下を目的地へ向かって歩く。視界がクリアで素晴らしい。もう頭も痛くない。
これは先ほど薬箱から頂戴した頭痛薬の効果かもしれない。
前世で愛用していた有名な頭痛薬とそっくりのパッケージだったので安心感が凄い。文化的な生活が維持できて助かる。
ただこの世界は身分による格差が酷い。
清潔なベッド、そして水道や頭痛薬などが自由に使えるのはここが貴族学園だから。
平民たちは毎日井戸で水を汲み、裕福な家庭以外は入浴の習慣もないらしい。
肉も滅多に食べられないし洗濯にまともな石鹸も使えない。
それを知っているのは私が前世でこのゲームをプレイしたことがあるから。そしてヒロインの設定が平民だったからだ。
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その時に好感度の高い男子キャラが助けに来てくれるのだ。
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「そうよ、臭いくて汚い平民のくせに!」
そうそう、こういう頭の悪そうな台詞を言われるのだ。
頷きながら角を曲がる。
その先では数人の女生徒がピンク髪の美少女を取り囲んでいた。頭には元気に花が咲いている。ヒロインちゃんだ。
つまりこれは、苛めイベント発生中という奴だろうか?
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