ヤンデレ悪役令嬢の前世は喪女でした。反省して婚約者へのストーキングを止めたら何故か向こうから近寄ってきます。

砂礫レキ

文字の大きさ
上 下
2 / 50

【2】悪霊令嬢、イメチェンする。

しおりを挟む
 しかしリコリスのこの長過ぎる前髪、今までどうやって生活していたか不思議なくらいに邪魔だ。

 まるで漆黒の暖簾のように視界を塞いでくる。手で掴んで持ち上げれば解決するが、常にそうしている訳にも行かない。

 これから学園を早退するつもりだが保健室は無人だ。職員室に向かうつもりだが、その前に髪をどうにかしたい。

 ポケットにヘアピンがないか探したが残念ながらなかった。購買になら売っているのだろうか。


「……そうだ」


 私は保険室内をうろついて救急箱を見つける。鍵はかかっていなかった。

 開けると頭痛薬の他に消毒薬や絆創膏、そして包帯が収納されている。鋏もセットだ。


「ラッキー」


 目当ての物を発見し浮かれて呟く。包帯と鋏、これさえあれば簡易ヘアバンドが作れる。

 貧乏くさいとか学校の備品を使私用で使うなという心の声は無視する。

 この長い前髪のまま歩いたら確実に怪我をする。私は適度な長さに包帯をカットした。

 そして鏡を見つつ自作したヘアバンドを使い前髪を後ろへ流す。

 少しはみ出てしまった髪は面倒くさいから目にかからない程度に切った。

 前髪を上げる、それだけで鏡の中の自分は別人のようになる。


「これは中々、いいんじゃないですか?」


 目の下に濃い隈があり唇の血色も悪いがリコリスは意外な程整った顔立ちをしていた。

 元々髪で顔を殆ど隠しているキャラだからわざと不細工にデザインする必要がなかったのかもしれない。

 闇属性な印象は拭えないがこれなら悪霊には間違われないだろう。

 後は足首まである後ろ髪と喪服みたいな制服をどうにかしたいところだが保健室で解決できる問題ではない。

 髪自体はここで切ってもいいかもしれないがゴミ箱に大量の黒髪が詰め込まれている光景を生徒や教師が見たら驚くだろう。

 鋏を水道で洗ってタオルで拭いて薬箱に戻す。そして備え付けのペンと紙を使って職員室へ行く旨を書き置きした。

 切った前髪はティッシュで包んでゴミ箱に捨てた。もうこれほぼ現代の学校じゃんと思いながら。

 廊下を目的地へ向かって歩く。視界がクリアで素晴らしい。もう頭も痛くない。

 これは先ほど薬箱から頂戴した頭痛薬の効果かもしれない。

 前世で愛用していた有名な頭痛薬とそっくりのパッケージだったので安心感が凄い。文化的な生活が維持できて助かる。  

 ただこの世界は身分による格差が酷い。

 清潔なベッド、そして水道や頭痛薬などが自由に使えるのはここが貴族学園だから。

 平民たちは毎日井戸で水を汲み、裕福な家庭以外は入浴の習慣もないらしい。

 肉も滅多に食べられないし洗濯にまともな石鹸も使えない。

 それを知っているのは私が前世でこのゲームをプレイしたことがあるから。そしてヒロインの設定が平民だったからだ。

 特待生枠で入学を許された彼女には定期的に貴族の女子生徒による苛めイベントが発生していた。

 その時に好感度の高い男子キャラが助けに来てくれるのだ。


「アナタねえ、特別な魔力を持っているからって生意気なのよ!」

「そうよ、臭いくて汚い平民のくせに!」 


 そうそう、こういう頭の悪そうな台詞を言われるのだ。

 頷きながら角を曲がる。

 その先では数人の女生徒がピンク髪の美少女を取り囲んでいた。頭には元気に花が咲いている。ヒロインちゃんだ。

 つまりこれは、苛めイベント発生中という奴だろうか?

しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

ひとりぼっち令嬢は正しく生きたい~婚約者様、その罪悪感は不要です~

参谷しのぶ
恋愛
十七歳の伯爵令嬢アイシアと、公爵令息で王女の護衛官でもある十九歳のランダルが婚約したのは三年前。月に一度のお茶会は婚約時に交わされた約束事だが、ランダルはエイドリアナ王女の護衛という仕事が忙しいらしく、ドタキャンや遅刻や途中退席は数知れず。先代国王の娘であるエイドリアナ王女は、現国王夫妻から虐げられているらしい。 二人が久しぶりにまともに顔を合わせたお茶会で、ランダルの口から出た言葉は「誰よりも大切なエイドリアナ王女の、十七歳のデビュタントのために君の宝石を貸してほしい」で──。 アイシアはじっとランダル様を見つめる。 「忘れていらっしゃるようなので申し上げますけれど」 「何だ?」 「私も、エイドリアナ王女殿下と同じ十七歳なんです」 「は?」 「ですから、私もデビュタントなんです。フォレット伯爵家のジュエリーセットをお貸しすることは構わないにしても、大舞踏会でランダル様がエスコートしてくださらないと私、ひとりぼっちなんですけど」 婚約者にデビュタントのエスコートをしてもらえないという辛すぎる現実。 傷ついたアイシアは『ランダルと婚約した理由』を思い出した。三年前に両親と弟がいっぺんに亡くなり唯一の相続人となった自分が、国中の『ろくでなし』からロックオンされたことを。領民のことを思えばランダルが一番マシだったことを。 「婚約者として正しく扱ってほしいなんて、欲張りになっていた自分が恥ずかしい!」 初心に返ったアイシアは、立派にひとりぼっちのデビュタントを乗り切ろうと心に誓う。それどころか、エイドリアナ王女のデビュタントを成功させるため、全力でランダルを支援し始めて──。 (あれ? ランダル様が罪悪感に駆られているように見えるのは、私の気のせいよね?) ★小説家になろう様にも投稿しました★

逆ハーエンドを迎えたその後で

橘アカシ
恋愛
悪役令嬢断罪シーンで前世の記憶を取り戻したモブの俺。 乙女ゲームでいう逆ハーエンドを迎えたものの学園生活はその後も続いていくわけで。 ヒロインと攻略対象たちの甘々イチャイチャを見せつけられるのかと思いきや、なんだか不穏な空気が流れていて………

「いなくても困らない」と言われたから、他国の皇帝妃になってやりました

ネコ
恋愛
「お前はいなくても困らない」。そう告げられた瞬間、私の心は凍りついた。王国一の高貴な婚約者を得たはずなのに、彼の裏切りはあまりにも身勝手だった。かくなる上は、誰もが恐れ多いと敬う帝国の皇帝のもとへ嫁ぐまで。失意の底で誓った決意が、私の運命を大きく変えていく。

薔薇の令嬢はやっぱり婚約破棄したい!

蔵崎とら
恋愛
本編完結済み、現在番外編更新中です。 家庭環境の都合で根暗のコミュ障に育ちましたし私に悪役令嬢は無理無理の無理です勘弁してください婚約破棄ならご自由にどうぞ私ちゃんと手に職あるんで大丈夫ですから……! ふとした瞬間に前世を思い出し、己が悪役令嬢に転生していることに気が付いたクレアだったが、時すでに遅し。 己の性格上悪役令嬢のような立ち回りは不可能なので、悪足掻きはせず捨てられる未来を受け入れることにした。 なぜなら今度こそ好きなことをして穏やかに生きていきたいから。 三度の飯より薔薇の品種改良が大好きな令嬢は、無事穏便な婚約破棄が出来るのか――?

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい

麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。 しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。 しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。 第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

処理中です...