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夜が明ければ新しい朝が始まる10
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アレス王子が、なんだか凄く困った表情をしている。
苦悩しているといってもいい深刻具合だ。
私の発言はそんなに彼を苦しませるものだったのか。
確かに場の空気は読めていなかったかもしれない。
そもそも彼は魔法道具を使い変装がしたのであって、意図して女性の姿になりたかったわけではないのだ。
今回部屋を訪れる際には敢えて女性になったようだが、それは男性のままだと私と二人きりという状況に我慢が利かなくなってしまうからという理由だった。
実際は美少女となったアレス王子を前に着飾りたいという欲望に負けたのは私の方なのだが。
彼は私とユピテルの事情も汲んで自制をしてくれたというのに情けないことである。
そう反省する行為さえ、彼に自らの頼みを飲ませた後なのだ。
今でなくていいから女性の姿の時に似合いそうな髪形や衣装を見繕わせて欲しい。
その望みに彼が頷いた時、自分で言うのもなんだがディアナは非常に無邪気に喜んで見せた。
そしてそれが恐らくアレス王子の心を傷つけたのだ。
「ディアナさんは……普段の俺より、こちらの姿の方が好きなんですね」
拗ねているのなら、まだいい。
アレス王子は落ち込んでいるのだ。原因はディアナの対応にある。
別に性別で彼への対応に格差をつけたつもりはない。だが距離感は結構違っていたかもしれない。
でもそれは仕方がないだろう。姿しか違わないとはいえ異性と同性では。
「この姿だとディアナさんの方から接吻してくれたし……」
男の姿の時にこちらから接吻したなら容赦なく雷撃を食らわせてきたのに。
もしかして女性が好きなんですか。めそめそと音が聞こえてきそうな程悲し気な表情で言われディアナは盛大に首を振った。
自分がアレス王子の頬に接吻をしたのは、ある意味覚悟表明のようなものだった。
なんというか、こう、彼と恋愛をする意欲があることを分かり易く伝えてみようとしたのだ。
当然そこに彼の性別は関係ない。男性の姿で訪れていても同じように頬に唇を触れさせていただろう。
そもそも自分は少し前まで人妻だったのだ。男性よりも女性が好きなのかと疑われるのは心外である。
そう、本当に心外であるのだが。
何故か女性の姿になったアレス王子に対して胸の奥から切ない思いが先程からこみ上げて仕方がないのだ。
愛しさとも寂しさとも懐かしさが入り混じったような複雑な切なさがきゅうきゅうと心を締め付けてくる。
着飾らせてその容姿を褒めて、美しい髪を撫でて口付けを落としたい。
ただ当然ディアナにはそうなる心当たりがない。今までの三十七年間で女性相手にこのような心持ちになったことはなかった。
いや男性相手でも同じだ。だってそのような愛で方は自分はしない。
可憐な容姿の少女に可愛らしい恰好をさせたいという嗜好はある。けれどそれは幼い頃の人形遊びの延長のようなものだ。
けれど今落ち込む年下の女性の姿を前にしてこみ上げるものは。
「ごめんなさい、悲しませたい訳ではないの。……どうすれば機嫌を直してくれる?」
そう自分よりも少し下にある頭を撫で、優しく肩を抱く。まるで遠い昔誰かにそうしていたように。
第三者から見たら随分と倒錯した光景だと思う。それとも姉妹や母娘だと勘違いして微笑ましく思ってくれるだろうか。
いっそ己の性別も変えてしまった方がしっくりとくるのかもしれない。
複雑な悩みをディアナが抱き始めた頃、少し気分を持ち直したらしいアレス王子が甘えたように言う。
「……俺が男に戻った時にも、今みたいにしてください。……頬に接吻も、して欲しい」
その可愛らしい願いを聞いて頭に浮かんだのは男性二人が睦まじくしている姿だった。
やっぱり自分は女性のままでいるべきだな。ディアナは速攻で考えを改めた。
苦悩しているといってもいい深刻具合だ。
私の発言はそんなに彼を苦しませるものだったのか。
確かに場の空気は読めていなかったかもしれない。
そもそも彼は魔法道具を使い変装がしたのであって、意図して女性の姿になりたかったわけではないのだ。
今回部屋を訪れる際には敢えて女性になったようだが、それは男性のままだと私と二人きりという状況に我慢が利かなくなってしまうからという理由だった。
実際は美少女となったアレス王子を前に着飾りたいという欲望に負けたのは私の方なのだが。
彼は私とユピテルの事情も汲んで自制をしてくれたというのに情けないことである。
そう反省する行為さえ、彼に自らの頼みを飲ませた後なのだ。
今でなくていいから女性の姿の時に似合いそうな髪形や衣装を見繕わせて欲しい。
その望みに彼が頷いた時、自分で言うのもなんだがディアナは非常に無邪気に喜んで見せた。
そしてそれが恐らくアレス王子の心を傷つけたのだ。
「ディアナさんは……普段の俺より、こちらの姿の方が好きなんですね」
拗ねているのなら、まだいい。
アレス王子は落ち込んでいるのだ。原因はディアナの対応にある。
別に性別で彼への対応に格差をつけたつもりはない。だが距離感は結構違っていたかもしれない。
でもそれは仕方がないだろう。姿しか違わないとはいえ異性と同性では。
「この姿だとディアナさんの方から接吻してくれたし……」
男の姿の時にこちらから接吻したなら容赦なく雷撃を食らわせてきたのに。
もしかして女性が好きなんですか。めそめそと音が聞こえてきそうな程悲し気な表情で言われディアナは盛大に首を振った。
自分がアレス王子の頬に接吻をしたのは、ある意味覚悟表明のようなものだった。
なんというか、こう、彼と恋愛をする意欲があることを分かり易く伝えてみようとしたのだ。
当然そこに彼の性別は関係ない。男性の姿で訪れていても同じように頬に唇を触れさせていただろう。
そもそも自分は少し前まで人妻だったのだ。男性よりも女性が好きなのかと疑われるのは心外である。
そう、本当に心外であるのだが。
何故か女性の姿になったアレス王子に対して胸の奥から切ない思いが先程からこみ上げて仕方がないのだ。
愛しさとも寂しさとも懐かしさが入り混じったような複雑な切なさがきゅうきゅうと心を締め付けてくる。
着飾らせてその容姿を褒めて、美しい髪を撫でて口付けを落としたい。
ただ当然ディアナにはそうなる心当たりがない。今までの三十七年間で女性相手にこのような心持ちになったことはなかった。
いや男性相手でも同じだ。だってそのような愛で方は自分はしない。
可憐な容姿の少女に可愛らしい恰好をさせたいという嗜好はある。けれどそれは幼い頃の人形遊びの延長のようなものだ。
けれど今落ち込む年下の女性の姿を前にしてこみ上げるものは。
「ごめんなさい、悲しませたい訳ではないの。……どうすれば機嫌を直してくれる?」
そう自分よりも少し下にある頭を撫で、優しく肩を抱く。まるで遠い昔誰かにそうしていたように。
第三者から見たら随分と倒錯した光景だと思う。それとも姉妹や母娘だと勘違いして微笑ましく思ってくれるだろうか。
いっそ己の性別も変えてしまった方がしっくりとくるのかもしれない。
複雑な悩みをディアナが抱き始めた頃、少し気分を持ち直したらしいアレス王子が甘えたように言う。
「……俺が男に戻った時にも、今みたいにしてください。……頬に接吻も、して欲しい」
その可愛らしい願いを聞いて頭に浮かんだのは男性二人が睦まじくしている姿だった。
やっぱり自分は女性のままでいるべきだな。ディアナは速攻で考えを改めた。
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