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女神の慈悲は試練と共に2
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本日、王城の歴史ある扉の一つが不幸な最期を迎えた。
そして扉の破壊者はこの城よりも永い時を生きる伝説上の存在。
最高位の精霊、雷女神ユピテルであるのだが……。
「この完璧に美しいわたくしをおカマ扱いなんて、いくらマリアちゃんでも許せないわ~っ!」
偉大な存在である筈の彼女は嵐の後のような荒れた室内で少女のように可愛らしく怒っていた。だがその声は相変わらず低くて渋い。
扉が壊れてしまった今、このように廊下から室内の様子はほぼ丸見えだ。
それは中からも同じ条件で、ユピテルがそのまま振り向けばすぐに私たちを視界に捉えるだろう。
いや彼女は神なのだから既にこちらの気配など察しているのかもしれない。
だとしたら黙って見つめ続けているのは良くないのだろう。
けれど私は彼女に声をかけるタイミングを掴めずにいた。
流石にアレス王子に抱きかかえられたままでは何もできないので床に下ろして貰っている。
もしかしたらそのまま二人同時に突入した方が勢いで場を押し切れたかもしれない。
だがそのような奇策を選ぶような豪胆さが己にないことは自分が一番理解している。どちらかというとそれはマリアの得意分野だ。
マリアの息子であるアレス王子もこの場にいるが彼に母の命知らずさを再現させるわけにはいかない。
というか万が一のことを考えるとアレス王子には遠くに避難して貰いたいぐらいだ。
そういえば王妃がいるこの部屋から爆発音が轟いたというのに城の人間が全く集まってこないのは不思議だ。
精霊の女神相手に城の兵士たちが対抗できるとも思えないが。逆に、癇癪の被害を受けないように近寄らせない方がいいかもしれない。
小声でアレス王子にそう話したところ本日はマリアの命令で事前にこの付近から人払いをしていると告げられた。
しかし貴人のいる場所から爆音が鳴り響いてもそれを徹底しているのは王妃の命令が絶対なのか、それとも王妃の生命力を信頼しているのか。
もしくはこういった騒動に城の人間が慣れきってしまっているのか……。真相を今ここで知ることは出来ない。
アレス王子の身の安全を考えるなら彼もこの場から遠ざけた方がいいのだろう。しかし危険だからと言う理由で彼がそれに頷くとは思えなかった。
ならば、最悪の自体が起きないように努力するしかない。
私は覚悟を決めて上半分が消滅した扉のノブを掴んだ。
ユピテルがゆっくりとこちらを振り向く。と思ったら次の瞬間思いきり体当たりされた。
「うぐっ!?」
ユピテルの身丈と勢いの割に衝撃は少なかった。
立派な体格の猫が全力で鎖骨の辺りに追突してきたレベルである。アレス王子が素早く後ろから支えてくれなければ腰が死んでいた。
「聞いてちょうだいディアナちゃん、マリアちゃんがわたくしのことを男扱いしたの~!」
「ゲホッ、そ、それは、酷いですね……マリアに代わってお詫びいたします」
「そうよねぇ、酷いわよ。元が男でも千年もの間女性として生きてきたなら今更戻れないわ」
「千年?!」
驚きの声を上げた私にユピテルはそうよと拗ねたように呟いた。
その表情が思ったよりも幼く見えて戸惑ってしまう。彼、いや彼女は言葉通り千年以上を生きた存在なのに。
「次生まれ変わったらお嫁さんにしてくれるって言うからわたくしこんなに頑張ったのに」
「え……」
「人間って本当勝手だわ。勝手に死んで、勝手に忘れて、勝手に女性に生まれ変わってしまう」
約束を破られたのだから少しぐらい怒る権利はあるでしょう?
ユピテルにそう泣きそうな目で言われて私は言葉を返せないでいた。
そして扉の破壊者はこの城よりも永い時を生きる伝説上の存在。
最高位の精霊、雷女神ユピテルであるのだが……。
「この完璧に美しいわたくしをおカマ扱いなんて、いくらマリアちゃんでも許せないわ~っ!」
偉大な存在である筈の彼女は嵐の後のような荒れた室内で少女のように可愛らしく怒っていた。だがその声は相変わらず低くて渋い。
扉が壊れてしまった今、このように廊下から室内の様子はほぼ丸見えだ。
それは中からも同じ条件で、ユピテルがそのまま振り向けばすぐに私たちを視界に捉えるだろう。
いや彼女は神なのだから既にこちらの気配など察しているのかもしれない。
だとしたら黙って見つめ続けているのは良くないのだろう。
けれど私は彼女に声をかけるタイミングを掴めずにいた。
流石にアレス王子に抱きかかえられたままでは何もできないので床に下ろして貰っている。
もしかしたらそのまま二人同時に突入した方が勢いで場を押し切れたかもしれない。
だがそのような奇策を選ぶような豪胆さが己にないことは自分が一番理解している。どちらかというとそれはマリアの得意分野だ。
マリアの息子であるアレス王子もこの場にいるが彼に母の命知らずさを再現させるわけにはいかない。
というか万が一のことを考えるとアレス王子には遠くに避難して貰いたいぐらいだ。
そういえば王妃がいるこの部屋から爆発音が轟いたというのに城の人間が全く集まってこないのは不思議だ。
精霊の女神相手に城の兵士たちが対抗できるとも思えないが。逆に、癇癪の被害を受けないように近寄らせない方がいいかもしれない。
小声でアレス王子にそう話したところ本日はマリアの命令で事前にこの付近から人払いをしていると告げられた。
しかし貴人のいる場所から爆音が鳴り響いてもそれを徹底しているのは王妃の命令が絶対なのか、それとも王妃の生命力を信頼しているのか。
もしくはこういった騒動に城の人間が慣れきってしまっているのか……。真相を今ここで知ることは出来ない。
アレス王子の身の安全を考えるなら彼もこの場から遠ざけた方がいいのだろう。しかし危険だからと言う理由で彼がそれに頷くとは思えなかった。
ならば、最悪の自体が起きないように努力するしかない。
私は覚悟を決めて上半分が消滅した扉のノブを掴んだ。
ユピテルがゆっくりとこちらを振り向く。と思ったら次の瞬間思いきり体当たりされた。
「うぐっ!?」
ユピテルの身丈と勢いの割に衝撃は少なかった。
立派な体格の猫が全力で鎖骨の辺りに追突してきたレベルである。アレス王子が素早く後ろから支えてくれなければ腰が死んでいた。
「聞いてちょうだいディアナちゃん、マリアちゃんがわたくしのことを男扱いしたの~!」
「ゲホッ、そ、それは、酷いですね……マリアに代わってお詫びいたします」
「そうよねぇ、酷いわよ。元が男でも千年もの間女性として生きてきたなら今更戻れないわ」
「千年?!」
驚きの声を上げた私にユピテルはそうよと拗ねたように呟いた。
その表情が思ったよりも幼く見えて戸惑ってしまう。彼、いや彼女は言葉通り千年以上を生きた存在なのに。
「次生まれ変わったらお嫁さんにしてくれるって言うからわたくしこんなに頑張ったのに」
「え……」
「人間って本当勝手だわ。勝手に死んで、勝手に忘れて、勝手に女性に生まれ変わってしまう」
約束を破られたのだから少しぐらい怒る権利はあるでしょう?
ユピテルにそう泣きそうな目で言われて私は言葉を返せないでいた。
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