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王妃の裁き42

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「ねぇ、いつになったら私をこの牢獄から連れ出してくれるの?」


 豚鼻のように唇を突き出しながらシシリーが言う。

 どうやら可愛らしく拗ねているつもりらしいその姿を前にマルス、いやマリアは笑顔のまま固まった。

 お前は何を言っているんだ。

 その言葉を寸でのところで飲み込む。

 三回目である。

 マリアが吟遊詩人のマルスと偽ってシシリーの前に姿を見せてから三回目の会話でこれである。

 当然この段階で愛を囁くなんて全くしていない。適当に挨拶して適当に褒めただけである。

 それだけでこれである。

 シシリーやばいなとマリアは改めて思った。

 別に会って数回目で相手に惚れるのはいい。それこそ一目惚れという言葉もある。

 シシリーが異常なのは男側も自分と同じ気持ちであると思いこんでいるところだ。

 こいつ今までどうやって生きていたんだ。マリアは笑顔を崩さないまま静かに混乱する。

 散々食っちゃ寝しておいて牢獄呼ばわりとはなんだこの豚という憤りも当然存在した。

 取り敢えず完全に自分が惚れられている立場だと勘違いしている相手に適当なことを言ってその場を去る。

 廊下に出た瞬間にマリアは頭を抱えた。

 うん、予想以上にあの女は気持ち悪い。

 太らせる前ならまだましだったのだろうかと考えたが、外見の問題ではないように感じた。

 今は男の外見に化けているがマリアは本来女である。

 同性の見た目にそこまで感情を左右されたりはしない。

 なんというか、会話が繋がらないのだ。

 名前を聞けばシシリーと答える。そこまではいい。

 ではシシリーという名前の由来は?と聞く。

 すると今日の夕食のメニューを聞き返される。

 大袈裟に言うならこのレベルで突然会話が飛ぶのだ。


 階段から落ちた時にシシリーが頭を打ったという報告は受けていない。

 だが、性格の醜さや育ちから来るものだけではない異常性が確かにシシリーの中に存在することをマリアは確信した。

「マルコー殿に相談してみようかしら……」


 当然彼女の身を案じてではない。

 ただ、胸騒ぎのようなものを感じたのだ。

 
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