55 / 99
王妃の裁き40
しおりを挟む
ユピテルが精霊界に戻った後、マリアのやることは山積みだった。
シシリーの身柄を保護し、重傷者が複数出たことを理由に一時的に集まりは解散させた。
ディアナのケアを彼女の父であるダナンに頼み、ついでに雷女神に関する資料を一時的に貸し出してくれるよう頼んだ。
フラウセス伯爵家の人間は代々氷と雷の魔力を有する。しかしここ数代の当主は全員が氷魔法を得意としていた。
だが一番最初の当主は優れた雷撃魔法の使い手だったと過去にマリアはディアナから聞いていた。
それ故に雷女神ユピテルに関する書籍が家には多く収集されているのだと。
マリアはそのことを思い出し、ついでに氷魔法も得意とする家系ならばと氷妃アイドラデュースに関する情報も求めた。
ダナンは王妃からの突然の依頼に不思議そうな顔をしたが、すぐに快諾し翌日には大量の書物を馬車に積んで城へ運んできてくれた。
王妃としての執務の傍ら、それらに記された膨大な情報に目を通す。
ユピテルから告げられた氷妃からの制裁については夫である国王に報告するのみにした。
確かにアイドラデュースの罰が実行されれば国を揺るがしかねない大事件ではある。
だからといって重臣や貴族たちにそれを広めた所でメリットがあるだろうか。
この国に氷妃の加護を持つ者がいるのならば話は違うが、夫に聞いた所そのような存在は建国神話の時代まで遡らないと見当たらないと言われた。
同じ神であるユピテルが人間嫌いだと評していただけあって筋金入りだ。ならば尚更他の人間たちに知らせることではない。
権力者たちをいたずらに不安にさせた結果、シシリーだけでなくディアナが精霊殺しに関与した者として糾弾される可能性もある。
当然それは言いがかりに過ぎない。胎に宿った精霊の子を殺したのは母親であるシシリーなのだから。
けれどその切っ掛けをつくったということでディアナを責める人間が出ないとは限らない。
シシリーの体内に魔力を感じた時点で出産まで拘束するべきだったと訳知り顔で指摘する者は恐らく一人や二人ではない。
無神経な他人程「もっと上手くやれた筈だ」と言い出すものだ。
そんな連中に親友が責められ追い詰められることを想像するだけでマリアは怒りに体が震えた。
その時に感じる感情はマリア本人さえ戸惑う程に激しく根の深い絶望を伴っていた。
ディアナは伯爵令嬢として生を受け、少し前までは伯爵夫人として栄華を誇っていた。
その彼女が大勢から糾弾されるような光景などマリアは一度も見たことがないのに、なぜか「二度と繰り返したくない」という思いが最後には残った。
ユピテルやアイドラデュース、精霊の神々のことを調べれば調べる程にその感覚は強くなっていく。
現代において殆ど顕現しない精霊神たちについて一番多く記されているのは当然ながら神話の時代だ。
太古、二人の若者が精霊たちの力を借りて広大な土地を支配する邪竜一族を倒しこの国を建てた。
その時代にマリアは当然存在しない。実際学校の授業で建国神話について調べた当時はただのお伽噺だと思っていた。
けれど今はこの神話に記されている逸話のどれが『偽物』でどれが『本物』なのかがわかるようになっていた。
そのことは最愛の夫にさえ何故か告げることが出来ないでいた。
恐らく神話の時代から存在する雷女神の威光を間近に浴びたことで、一時的に精神が影響を受けているのだろう。
そう己に言い聞かし、マリアは慌ただしく日々を過ごした。
シシリーの身柄を保護し、重傷者が複数出たことを理由に一時的に集まりは解散させた。
ディアナのケアを彼女の父であるダナンに頼み、ついでに雷女神に関する資料を一時的に貸し出してくれるよう頼んだ。
フラウセス伯爵家の人間は代々氷と雷の魔力を有する。しかしここ数代の当主は全員が氷魔法を得意としていた。
だが一番最初の当主は優れた雷撃魔法の使い手だったと過去にマリアはディアナから聞いていた。
それ故に雷女神ユピテルに関する書籍が家には多く収集されているのだと。
マリアはそのことを思い出し、ついでに氷魔法も得意とする家系ならばと氷妃アイドラデュースに関する情報も求めた。
ダナンは王妃からの突然の依頼に不思議そうな顔をしたが、すぐに快諾し翌日には大量の書物を馬車に積んで城へ運んできてくれた。
王妃としての執務の傍ら、それらに記された膨大な情報に目を通す。
ユピテルから告げられた氷妃からの制裁については夫である国王に報告するのみにした。
確かにアイドラデュースの罰が実行されれば国を揺るがしかねない大事件ではある。
だからといって重臣や貴族たちにそれを広めた所でメリットがあるだろうか。
この国に氷妃の加護を持つ者がいるのならば話は違うが、夫に聞いた所そのような存在は建国神話の時代まで遡らないと見当たらないと言われた。
同じ神であるユピテルが人間嫌いだと評していただけあって筋金入りだ。ならば尚更他の人間たちに知らせることではない。
権力者たちをいたずらに不安にさせた結果、シシリーだけでなくディアナが精霊殺しに関与した者として糾弾される可能性もある。
当然それは言いがかりに過ぎない。胎に宿った精霊の子を殺したのは母親であるシシリーなのだから。
けれどその切っ掛けをつくったということでディアナを責める人間が出ないとは限らない。
シシリーの体内に魔力を感じた時点で出産まで拘束するべきだったと訳知り顔で指摘する者は恐らく一人や二人ではない。
無神経な他人程「もっと上手くやれた筈だ」と言い出すものだ。
そんな連中に親友が責められ追い詰められることを想像するだけでマリアは怒りに体が震えた。
その時に感じる感情はマリア本人さえ戸惑う程に激しく根の深い絶望を伴っていた。
ディアナは伯爵令嬢として生を受け、少し前までは伯爵夫人として栄華を誇っていた。
その彼女が大勢から糾弾されるような光景などマリアは一度も見たことがないのに、なぜか「二度と繰り返したくない」という思いが最後には残った。
ユピテルやアイドラデュース、精霊の神々のことを調べれば調べる程にその感覚は強くなっていく。
現代において殆ど顕現しない精霊神たちについて一番多く記されているのは当然ながら神話の時代だ。
太古、二人の若者が精霊たちの力を借りて広大な土地を支配する邪竜一族を倒しこの国を建てた。
その時代にマリアは当然存在しない。実際学校の授業で建国神話について調べた当時はただのお伽噺だと思っていた。
けれど今はこの神話に記されている逸話のどれが『偽物』でどれが『本物』なのかがわかるようになっていた。
そのことは最愛の夫にさえ何故か告げることが出来ないでいた。
恐らく神話の時代から存在する雷女神の威光を間近に浴びたことで、一時的に精神が影響を受けているのだろう。
そう己に言い聞かし、マリアは慌ただしく日々を過ごした。
18
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。
結婚5年目のお飾り妻は、空のかなたに消えることにした
三崎こはく
恋愛
ラフィーナはカールトン家のお飾り妻だ。
書類上の夫であるジャンからは大量の仕事を押しつけられ、ジャンの愛人であるリリアからは見下され、つらい毎日を送っていた。
ある日、ラフィーナは森の中で傷ついたドラゴンの子どもを拾った。
屋敷に連れ帰って介抱すると、驚いたことにドラゴンは人の言葉をしゃべった。『俺の名前はギドだ!』
ギドとの出会いにより、ラフィーナの生活は少しずつ変わっていく――
※他サイトにも掲載
※女性向けHOT1位感謝!7/25完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる