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王妃の裁き30
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私にシシリーが肥大した原因を話し終えるとマリアはロバートを叩き起こした。
目覚めた当初彼は室内にいた雌トロールがシシリーだという事を頑なに認めなかった。
確かに外見は別種族のように変わっているが仮にも己の愛人だった女性だろう。
意地でも彼女がシシリーであると受け入れないロバートに苛立ちマリアが言い放つ。
「いい加減認めなさい、アンタはアレと喜んで子作りしていたのよ!」
「やっ、止めてくれ!それを認めるぐらいなら死んだ方がマシだ!」
「なら今すぐその穴から落ちてくたばりなさいよホラホラホラホラ」
うん、この場にアレス王子がいなくて本当に良かった。
というか矢張りロバートはシシリーだと判らない訳ではないようだ。
なけなしのプライドを守るために事実を受け入れるのを拒んでいるらしい。
見苦しく喚くロバートに焦れたのかマリアが部屋の隅を冷たく指差した。
そこには何やら見覚えのある穴がぽっかりと口を開けていた。
「は?なんで部屋の床に穴なんて開いてるんだよ!」
至極当然の疑問をロバートが口にする。理由は簡単だ。私が自らの拳を叩きつけて床を破壊したのだ。
ただあの出来事から大分経っている今、修復もされず残っていたことが驚きである。
「ディアナが怒りで叩き壊したのよ。次はその貧相な土手っ腹にでけぇ穴が開くわよ」
「ヒッ」
マリアが穴の存在を利用してロバートに脅しをかける。口調が最早王妃でなくチンピラである。
確かに雷女神の鉄槌を発動させた時、私は怒りの感情を原動力にしていた。
しかしその時に対象にしたのは元夫などではなく今楽しそうに彼を脅しているマリアその人である。
今の痩せ衰えたロバートに本気の雷魔法を拳で叩きつけたら大穴どころか五体ばらばらに弾け飛びそうだ。
そのような考察をしながら彼を見ていたせいか、ロバートの表情からはなかなか怯えが消えない。
殺人鬼でも見るような視線に晒されるのも居心地が悪かったので私は優しく彼に告げた。
「そんなに私が怖いなら、奥様の元に戻られては?」
私の台詞にロバートはもげてしまいそうな勢いで首を横に振った。
本当に小心な男である。善良で誠実な頃ならそこに可愛げを見出していた物だが裏切られた今そのような心の余裕はない。
「というか餌代馬鹿にならないから引き取ってよ、貴方の奥さんでしょロバート」
「絶対嫌だ!勘弁してくれマリア王妃!!」
「でも国に対して婚姻届け出したじゃない。扶養義務があるわよ」
マリアの要請に対し泣きそうな顔でロバートが拒否する。いや実際に泣き喚いて足に縋りついていた。
というか隣の部屋でこんな大声で言い争いをしていてそれこそシシリーの耳に届いたりはしないのだろうか。
彼女が境目の壁を破壊しながら怒りの形相で飛び込んでくる姿を想像して身震いする。
あの脂肪の塊と対峙した場合、正直私の雷魔法が役に立つとは思えない。マリアの風刃魔法の切れ味も鈍りそうだ。
そういった意味では私もロバートと同じく今のシシリーには関わりたくなかった。
自らの子供を殺したことに関しては償って欲しいと今でも思う。
けれどこの生き物に人間としての倫理を期待する方が間違いではないか、そう思わせる説得力が今の彼女の外見にはあった。
本当にマリアはシシリーをどうするつもりなのだろう。私は言い争いを続ける二人を見つめた。
そして元夫の口から衝撃的な発言を聞くことになる。
「違うんだ、国に出した婚姻届けも偽造したものなんだ、だから僕と彼女は結婚しなくていいんだ!」
「どういうことよ。国からは離婚を認められたんでしょ。なら婚姻を偽造する必要がないじゃない」
「シ、シシリーには国籍がなかったんだ。いや他国人という訳じゃなく、存在自体が国に認められてないんだ」
彼女に戸籍上の父親はいなかった。母親はそもそも戸籍自体がなかった。けれど生まれた時から娼館にいたシシリーにはそもそも戸籍など必要なかったのだ。
だからロバートと結婚しようとした際に初めてそのことに気づいたのだ。彼女はいつか自分が貴族の父親に娘として認められるまで偽ればいいとロバートを唆した。
だから嘘の戸籍を書いたんだ。そう語るロバートは法律違反を自白したのに何故か得意げな顔をしていた。
国の王妃であるマリアはその顔を思いきり蹴り上げる。
「アンタもシシリーも国外追放よ!要約するとどっかいけってことよ!!」
私の目の届かない所でせいぜい仲良く暮らしなさい。
ある意味駆け落ちを見逃すような恩情に溢れた台詞だがロバートがそれを喜ぶことはなかった。
目覚めた当初彼は室内にいた雌トロールがシシリーだという事を頑なに認めなかった。
確かに外見は別種族のように変わっているが仮にも己の愛人だった女性だろう。
意地でも彼女がシシリーであると受け入れないロバートに苛立ちマリアが言い放つ。
「いい加減認めなさい、アンタはアレと喜んで子作りしていたのよ!」
「やっ、止めてくれ!それを認めるぐらいなら死んだ方がマシだ!」
「なら今すぐその穴から落ちてくたばりなさいよホラホラホラホラ」
うん、この場にアレス王子がいなくて本当に良かった。
というか矢張りロバートはシシリーだと判らない訳ではないようだ。
なけなしのプライドを守るために事実を受け入れるのを拒んでいるらしい。
見苦しく喚くロバートに焦れたのかマリアが部屋の隅を冷たく指差した。
そこには何やら見覚えのある穴がぽっかりと口を開けていた。
「は?なんで部屋の床に穴なんて開いてるんだよ!」
至極当然の疑問をロバートが口にする。理由は簡単だ。私が自らの拳を叩きつけて床を破壊したのだ。
ただあの出来事から大分経っている今、修復もされず残っていたことが驚きである。
「ディアナが怒りで叩き壊したのよ。次はその貧相な土手っ腹にでけぇ穴が開くわよ」
「ヒッ」
マリアが穴の存在を利用してロバートに脅しをかける。口調が最早王妃でなくチンピラである。
確かに雷女神の鉄槌を発動させた時、私は怒りの感情を原動力にしていた。
しかしその時に対象にしたのは元夫などではなく今楽しそうに彼を脅しているマリアその人である。
今の痩せ衰えたロバートに本気の雷魔法を拳で叩きつけたら大穴どころか五体ばらばらに弾け飛びそうだ。
そのような考察をしながら彼を見ていたせいか、ロバートの表情からはなかなか怯えが消えない。
殺人鬼でも見るような視線に晒されるのも居心地が悪かったので私は優しく彼に告げた。
「そんなに私が怖いなら、奥様の元に戻られては?」
私の台詞にロバートはもげてしまいそうな勢いで首を横に振った。
本当に小心な男である。善良で誠実な頃ならそこに可愛げを見出していた物だが裏切られた今そのような心の余裕はない。
「というか餌代馬鹿にならないから引き取ってよ、貴方の奥さんでしょロバート」
「絶対嫌だ!勘弁してくれマリア王妃!!」
「でも国に対して婚姻届け出したじゃない。扶養義務があるわよ」
マリアの要請に対し泣きそうな顔でロバートが拒否する。いや実際に泣き喚いて足に縋りついていた。
というか隣の部屋でこんな大声で言い争いをしていてそれこそシシリーの耳に届いたりはしないのだろうか。
彼女が境目の壁を破壊しながら怒りの形相で飛び込んでくる姿を想像して身震いする。
あの脂肪の塊と対峙した場合、正直私の雷魔法が役に立つとは思えない。マリアの風刃魔法の切れ味も鈍りそうだ。
そういった意味では私もロバートと同じく今のシシリーには関わりたくなかった。
自らの子供を殺したことに関しては償って欲しいと今でも思う。
けれどこの生き物に人間としての倫理を期待する方が間違いではないか、そう思わせる説得力が今の彼女の外見にはあった。
本当にマリアはシシリーをどうするつもりなのだろう。私は言い争いを続ける二人を見つめた。
そして元夫の口から衝撃的な発言を聞くことになる。
「違うんだ、国に出した婚姻届けも偽造したものなんだ、だから僕と彼女は結婚しなくていいんだ!」
「どういうことよ。国からは離婚を認められたんでしょ。なら婚姻を偽造する必要がないじゃない」
「シ、シシリーには国籍がなかったんだ。いや他国人という訳じゃなく、存在自体が国に認められてないんだ」
彼女に戸籍上の父親はいなかった。母親はそもそも戸籍自体がなかった。けれど生まれた時から娼館にいたシシリーにはそもそも戸籍など必要なかったのだ。
だからロバートと結婚しようとした際に初めてそのことに気づいたのだ。彼女はいつか自分が貴族の父親に娘として認められるまで偽ればいいとロバートを唆した。
だから嘘の戸籍を書いたんだ。そう語るロバートは法律違反を自白したのに何故か得意げな顔をしていた。
国の王妃であるマリアはその顔を思いきり蹴り上げる。
「アンタもシシリーも国外追放よ!要約するとどっかいけってことよ!!」
私の目の届かない所でせいぜい仲良く暮らしなさい。
ある意味駆け落ちを見逃すような恩情に溢れた台詞だがロバートがそれを喜ぶことはなかった。
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