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王妃の裁き21

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 衝立の向こうでシシリーは目を瞑って静かに横たわっていた。気を失っているのだろう。

 その顔に傷一つないことに私は奇妙な安堵感を覚える。

 しかしそれは次の瞬間に打ち消された。

 シシリーの下に敷かれている大きな白い布。

 看護士が持ってきたらしいそれが所々赤く染まっているのが目に入ったのだ。

 シシリーは濃い赤のマタニティドレスを着ている。だから一瞬服から布に色が移ったのだと錯覚した。

 けれど血の匂いがそれを強く否定する。ここまで香るということは、少量の出血でないことは確かだ。

 私はシシリーの傍らに膝をつくと覚悟を決めてその腹部に意識を集中した。

 先程のあの距離でさえ胎児の魔力を認識できたのだ。この位置から見逃すはずはない。

 私はじっくりと探した。落下の衝撃で赤子も弱っているかもしれない。魔力と生命力は連動する。

 微細な気配さえ見落とさぬように時間をかけて探知をする。祈るように生きていてくれと思った。

 幸せな子ではないかもしれない。それでもこの世に存在した命なのだ。

 瞬きを忘れ目の表面が乾く程に母体に埋まっている氷の魔力を探し尽くす。

 そして長い調査の後、それが全く感じ取れなくなっていることを私は認めざるを得なかった。


「……もう、いないわ」


 もうここに、名前も知らないあの子はもういない。

 私の答えに看護士たちは感情を見せない声で残念ですと告げた。

 視認できる程の魔力を有している赤子は、人として扱われる。

 シシリーは産み落とす前に逝ってしまった我が子の墓を建てるのだろうかと思った。

 もしかしたらお人好しのロバートが代わりに建てるのかもしれない。

 自分を騙した女を命がけで庇った彼ならやりかねないと思った。


「これから、どうなるの?」


 私はシシリーの腹を指さして看護士に問う。

 自分は出産補助の経験はないですがと前置きをして看護士の一人がそれに答えた。


「恐らく陣痛を起こす薬を使って出産させると思います、そのままお腹に収めてはおけませんから」

「そう……」

「ですので、こちらの奥様の配偶者や家族の方の付き添いが必要になります。どなたか今お近くにいらっしゃいますか?」

「それは……」


 看護士に問われ、返答に迷う私の腕を誰かがぐっと引っ張った。

 しかもただこちらの腕を引くだけではない、強く強く爪を立てている。

 不快な痛みを感じ雷撃で振り払おうとした私は相手を認めて声を失った。


「っ、貴女……!!」


 先程までの弱々しい表情が嘘のように目をぎらつかせたシシリーがそこにはいた。

「つかまえ、たぁ……」

 唇の端を高く吊り上げて笑むその姿は子供を亡くしたばかりとは思えぬ程禍々しい生命力に満ちていた。


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