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夏休み編
夏の日に知る花【3】
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猫とリヒトは良く似ている。
そんなことを餌を食べるムクロを見ながら思う。
こちらが呼んでも、向うにその気が無ければ返事すらしない。
俺は第一皇子なので当然そんな扱いをされたことは無い。
皇帝である父なら可能だが、まず談話の機会がほぼ無い。
そもそもこちらから呼びかけるなんて恐れ多い。
彼の名前を呼んだこと自体無いし、父上という単語を口にすることも滅多に無い。
なので俺はうっかりすると現皇帝の名前をまともに思い出せない羽目になる。今のように。
「うーん……なんか長くて威厳のある御名前だった気がする……」
人に確認すれば簡単に判明するがそもそも俺が質問する時点で不味い。
いや漠然とは浮かんでくるのだ。なんか俺と似たような感じだった気がする。
普段は覚えている。多分昨日まではちゃんと言えていた。暑さで度忘れしただけだ。
でも今のままでは不味い。俺は心を入れ替えてマシな第一皇子として生きるつもりなのだ。
つまり今まで体調不良を理由に出なかった式典にも出るということだ。今回の回帰祭のように。
そして今は子供なので長々と人前で話すこともないが、今後はあるかもしれない。
現皇帝の名前をぼやぼやした感じで濁すのはあってはならないのだ。
カインを次期皇帝として推す連中が現れて、その事実を知られたら追及されるかもしれないし。
そんな訳で俺はこの後図書室に行くことにした。
回帰祭中の数日間は授業は無い。使用人もかなりの数が休暇を取っているという話だった。
どうやら皆、死者を弔うこの期間休みたがるらしい。
白豚皇帝時代の俺は常に休息中みたいな体たらくだったのでそんなことも知らなかった。
季節を感じることも無く、行事についても無関心だったのだ。
良くカインに殺されるまで皇帝でいられたものだ。
しかしこういったことを考えていると、今も働いているトピアや他のメイドや兵士など使用人たちは凄いと思う。
休みたい時に、そして休める時に働いている。
いや使用人全員に休まれては困るから当然なのだが。
でも当然と思わず感謝した方が良い気がする。方法は思いつかないが。
俺なんかに口に出して礼を言われても困るだけだろう。
それも図書室の本に良い案が載っていないだろうか。
俺が考えている間に食事を終え口を前足で拭い始めた猫に呼びかける。やはり返事は無かった。
お前はもうそれでいいよ。
そんなことを餌を食べるムクロを見ながら思う。
こちらが呼んでも、向うにその気が無ければ返事すらしない。
俺は第一皇子なので当然そんな扱いをされたことは無い。
皇帝である父なら可能だが、まず談話の機会がほぼ無い。
そもそもこちらから呼びかけるなんて恐れ多い。
彼の名前を呼んだこと自体無いし、父上という単語を口にすることも滅多に無い。
なので俺はうっかりすると現皇帝の名前をまともに思い出せない羽目になる。今のように。
「うーん……なんか長くて威厳のある御名前だった気がする……」
人に確認すれば簡単に判明するがそもそも俺が質問する時点で不味い。
いや漠然とは浮かんでくるのだ。なんか俺と似たような感じだった気がする。
普段は覚えている。多分昨日まではちゃんと言えていた。暑さで度忘れしただけだ。
でも今のままでは不味い。俺は心を入れ替えてマシな第一皇子として生きるつもりなのだ。
つまり今まで体調不良を理由に出なかった式典にも出るということだ。今回の回帰祭のように。
そして今は子供なので長々と人前で話すこともないが、今後はあるかもしれない。
現皇帝の名前をぼやぼやした感じで濁すのはあってはならないのだ。
カインを次期皇帝として推す連中が現れて、その事実を知られたら追及されるかもしれないし。
そんな訳で俺はこの後図書室に行くことにした。
回帰祭中の数日間は授業は無い。使用人もかなりの数が休暇を取っているという話だった。
どうやら皆、死者を弔うこの期間休みたがるらしい。
白豚皇帝時代の俺は常に休息中みたいな体たらくだったのでそんなことも知らなかった。
季節を感じることも無く、行事についても無関心だったのだ。
良くカインに殺されるまで皇帝でいられたものだ。
しかしこういったことを考えていると、今も働いているトピアや他のメイドや兵士など使用人たちは凄いと思う。
休みたい時に、そして休める時に働いている。
いや使用人全員に休まれては困るから当然なのだが。
でも当然と思わず感謝した方が良い気がする。方法は思いつかないが。
俺なんかに口に出して礼を言われても困るだけだろう。
それも図書室の本に良い案が載っていないだろうか。
俺が考えている間に食事を終え口を前足で拭い始めた猫に呼びかける。やはり返事は無かった。
お前はもうそれでいいよ。
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