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第二部
【番外編2】賢者からの呼び名(2024/01/10まで公開)
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「やっぱり子豚ちゃん呼び、止めようかなあ」
部屋でムクロとデメが遊んでいるのを眺めていたら、鏡の向こうから声がした。
視線を移すとすっかり同居人になった盲目の賢者が見えない椅子に座っている。その姿勢を本人は空気椅子とか称していた。
先日、良い運動になると唆され彼の真似をしてみた所無様に尻餅をついてしまった。その時に大いに笑われたことを思い出す。
魔法を使わなくても出来るとリヒトは言っていたが絶対嘘だ。透明な椅子に座っているか、浮いているに違いない。
「何その恨みがましい目」
「……別に」
「もしかして、今更やっとかよとか思ってる?」
嫌だったならさっさとそう言えよな。間延びした声で拗ねる賢者に俺は首を傾げた。
恐らくリヒトは誤解している。別に俺は彼の発言で不機嫌になった訳ではない。
紛らわしい態度を取ってしまった。俺が説明の為に口を開こうとすると黒猫がにゃあと鳴いた。
「何だ?」
「机と壁の隙間に目玉小僧が入ったってよ」
「ええ……またか」
リヒトの言う目玉小僧とはデメのことだ。実際彼の正体はリヒトの眼球である。
黒猫であるムクロと仲が良く、部屋で自由にさせると小さなボールのような感じで部屋を転がったり跳ねたりしている。
自分の意思で動くことが可能なデメだが狭い場所に入り込むと跳躍による移動が難しいらしく、その度俺が救出していた。
今回もムクロに前脚でじゃれつかれた結果すっぽりと隙間に入り込んでしまったのだろう。
俺は立ち上がり、よっこいしょと言いながら机を動かした。
「はは、おっさんくさ」
「重い物を動かす時にはこうやって気合をいれると良いと教えたのはお前だぞ」
「えっマジで?」
「そういうところあるよな、リヒトは」
リズミカルに跳ねながら出てきたデメを見守りながら俺は賢者にそう返す。
机と壁の隙間にクッションか本でも詰めて置いた方がいいだろうかと思いながら。
「ごめんごめん、怒らないでよ子豚ちゃん……あっ」
又子豚ちゃん呼びしちゃった。そう少し落ち込んだように言われて俺は溜息を吐いた。
そういえば誤解を解いてなかった。俺は机を元の位置に戻すと鏡に向き直った。
「別に子豚呼びはそんなに嫌じゃない。どうして急にそんなことを気にし始めたんだ?」
「んー……だって、こう、今のお前ってダイエット成功しまくって全然豚っぽくないし」
そろそろやめようかなとは前から思っていた。そう告げる彼の様子は煮え切らない。
決めていたなら実行すればいいだけなのに、わざわざこちらに伺いを立ててくる。
リヒトは好き勝手しているように見えて臆病で遠慮深いところがある。俺は口を開いた。
「さっきも言ったがお前からの子豚呼びは不快じゃない、子豚でもレオンでも何でも呼びやすい物で呼べばいい」
「ええ……レオンは嫌だなあ、あいつと被るじゃん」
あいつとはディストのことか。リヒトは彼に苦手意識があるようだ。それだけでなく対抗心も持っている。
この世界のディストはリヒトの存在を知らないから、現状一方的に意識している状態だ。
「じゃあ今まで通り子豚と呼べばいい」
俺の言葉にリヒトは、それが一番楽だねと納得したようだった。
「……でも数年もしたら子豚って呼べなくなるんだろうなあ」
「だったらそれまでに新しい呼び名を考えておいてくれ」
リヒトが呼んでくれるなら俺はどんな名前でもいい。
そう告げると彼は口をぽかんと開けた後、誰にでもそういうこと言うんでしょと叫んで姿を消した。
流石に今の発言で怒られた理由は理解できない。
足元のデメに本体の気持ちを問いかけてみたが、彼は無言で黒猫の元に飛び跳ねて行った。
部屋でムクロとデメが遊んでいるのを眺めていたら、鏡の向こうから声がした。
視線を移すとすっかり同居人になった盲目の賢者が見えない椅子に座っている。その姿勢を本人は空気椅子とか称していた。
先日、良い運動になると唆され彼の真似をしてみた所無様に尻餅をついてしまった。その時に大いに笑われたことを思い出す。
魔法を使わなくても出来るとリヒトは言っていたが絶対嘘だ。透明な椅子に座っているか、浮いているに違いない。
「何その恨みがましい目」
「……別に」
「もしかして、今更やっとかよとか思ってる?」
嫌だったならさっさとそう言えよな。間延びした声で拗ねる賢者に俺は首を傾げた。
恐らくリヒトは誤解している。別に俺は彼の発言で不機嫌になった訳ではない。
紛らわしい態度を取ってしまった。俺が説明の為に口を開こうとすると黒猫がにゃあと鳴いた。
「何だ?」
「机と壁の隙間に目玉小僧が入ったってよ」
「ええ……またか」
リヒトの言う目玉小僧とはデメのことだ。実際彼の正体はリヒトの眼球である。
黒猫であるムクロと仲が良く、部屋で自由にさせると小さなボールのような感じで部屋を転がったり跳ねたりしている。
自分の意思で動くことが可能なデメだが狭い場所に入り込むと跳躍による移動が難しいらしく、その度俺が救出していた。
今回もムクロに前脚でじゃれつかれた結果すっぽりと隙間に入り込んでしまったのだろう。
俺は立ち上がり、よっこいしょと言いながら机を動かした。
「はは、おっさんくさ」
「重い物を動かす時にはこうやって気合をいれると良いと教えたのはお前だぞ」
「えっマジで?」
「そういうところあるよな、リヒトは」
リズミカルに跳ねながら出てきたデメを見守りながら俺は賢者にそう返す。
机と壁の隙間にクッションか本でも詰めて置いた方がいいだろうかと思いながら。
「ごめんごめん、怒らないでよ子豚ちゃん……あっ」
又子豚ちゃん呼びしちゃった。そう少し落ち込んだように言われて俺は溜息を吐いた。
そういえば誤解を解いてなかった。俺は机を元の位置に戻すと鏡に向き直った。
「別に子豚呼びはそんなに嫌じゃない。どうして急にそんなことを気にし始めたんだ?」
「んー……だって、こう、今のお前ってダイエット成功しまくって全然豚っぽくないし」
そろそろやめようかなとは前から思っていた。そう告げる彼の様子は煮え切らない。
決めていたなら実行すればいいだけなのに、わざわざこちらに伺いを立ててくる。
リヒトは好き勝手しているように見えて臆病で遠慮深いところがある。俺は口を開いた。
「さっきも言ったがお前からの子豚呼びは不快じゃない、子豚でもレオンでも何でも呼びやすい物で呼べばいい」
「ええ……レオンは嫌だなあ、あいつと被るじゃん」
あいつとはディストのことか。リヒトは彼に苦手意識があるようだ。それだけでなく対抗心も持っている。
この世界のディストはリヒトの存在を知らないから、現状一方的に意識している状態だ。
「じゃあ今まで通り子豚と呼べばいい」
俺の言葉にリヒトは、それが一番楽だねと納得したようだった。
「……でも数年もしたら子豚って呼べなくなるんだろうなあ」
「だったらそれまでに新しい呼び名を考えておいてくれ」
リヒトが呼んでくれるなら俺はどんな名前でもいい。
そう告げると彼は口をぽかんと開けた後、誰にでもそういうこと言うんでしょと叫んで姿を消した。
流石に今の発言で怒られた理由は理解できない。
足元のデメに本体の気持ちを問いかけてみたが、彼は無言で黒猫の元に飛び跳ねて行った。
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