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81話 さらば偽りの侍女

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 ディストの襲撃から一週間経った。あの日以降トピアの体を使ってディストが現れることはなかった。

 しかし以前宣言した内容はちゃんと履行してくれていたようで、アーダルが国を発ったことを昨日トピアが持参した手紙で知らされた。見守りを続けてくれていたということだ。

 あの褐色の教師には無事故郷に辿り着いて安らぎと、そして未来を得てほしいと願う。

 トピアの処遇についてだが、色々考えて侍女職を辞して貰うことにした。なので月末には城から去ることになる。

 最初は補充の侍女として迎え入れようと思ったが、そもそも彼は男だ。

 現段階で問題なく女性を演じていても、この後も長くそれを続けるのは難しいのではと俺は考えた。

 若者なのだからもっと背が伸びるかもしれないし体格が逞しくなるかもしれない。髭が濃くなる可能性もある。

 何より気を抜いた素のトピアは全く女性には見えなかった。どちらかというと男らしい口調だった。

 男性の姿や言動でいる方が楽なら、そちらの方がいいだろう。

 ディストの依り代という負担が強い仕事もしているのだから、業務時の負担は少しでも軽くしてやりたい。

 俺の身の回りの世話をするだけなら別に女性である必要はないだろう、多分。

 その考えを相談したところ、貴族や皇族の男子の場合成長していくにあたって着替えなど身の回りの補佐は男性に代わっていくと知った。

 大体十歳辺りで切り替わると知り俺は三十二年分分一気に恥ずかしくなった。そういうことは早めに教えて欲しい。

 白豚皇帝時代も途中からは男のしかも屈強な侍従が俺の着替えを行うようになっていたが単純に俺の体形や体重の問題だと思っていた。

 今回もトピアの件がなければ興味を持たず同じ恥を繰り返していたかもしれない。

 相談相手のディストは「使用人の性別など気にしなくても」と言っていたが、単純に無知なのと知っていて無視するのは違うと思う。 

 簡易文通のような形でディストとトピアの扱いについて協議し、本人の意見も聞いた上で最終的にカイン付き侍女としてのトピアは辞職し俺付きの侍従として再就職することに落ち着いた。

 今度はグランシー公爵家の推薦状付きでだ。あからさまな縁故採用の方が俺も便宜は図りやすいが、侍女だった過去を気づかれた時が不味いのではないか。

 そんな俺の疑問に対しトピアが名前も顔も変えればいいとあっさり答えたので衝撃を受けた。いやそれぐらい出来なければディストの間者は務まらないのかもしれないが。

 しかし俺は余程衝撃を受けた顔をしたらしく、二人きりの時ならトピアと呼びつけて頂いて結構ですよと譲歩されてしまった。

 更に侍女の姿が気に入ったのならいつでもこの姿で奉仕するとまで言われ、そこまで厚意に甘えるわけにはいかないと俺は断った。

 彼が男の使用人として名を変え顔を変え出直すなら俺だって意識を切り替えていくべきなのだ。そもそも俺の言い出した提案なのだし。

 そう説明したところトピアは真顔で少し考え込んでから「男同士でもやれないことはないですしね」と返してきた。

 そうだ、皇子の身の回りの世話を男性が担当しても全く問題はない。寧ろ遅すぎた位だ。俺は力強く頷いた。
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