上 下
81 / 89

81話 さらば偽りの侍女

しおりを挟む
 ディストの襲撃から一週間経った。あの日以降トピアの体を使ってディストが現れることはなかった。

 しかし以前宣言した内容はちゃんと履行してくれていたようで、アーダルが国を発ったことを昨日トピアが持参した手紙で知らされた。見守りを続けてくれていたということだ。

 あの褐色の教師には無事故郷に辿り着いて安らぎと、そして未来を得てほしいと願う。

 トピアの処遇についてだが、色々考えて侍女職を辞して貰うことにした。なので月末には城から去ることになる。

 最初は補充の侍女として迎え入れようと思ったが、そもそも彼は男だ。

 現段階で問題なく女性を演じていても、この後も長くそれを続けるのは難しいのではと俺は考えた。

 若者なのだからもっと背が伸びるかもしれないし体格が逞しくなるかもしれない。髭が濃くなる可能性もある。

 何より気を抜いた素のトピアは全く女性には見えなかった。どちらかというと男らしい口調だった。

 男性の姿や言動でいる方が楽なら、そちらの方がいいだろう。

 ディストの依り代という負担が強い仕事もしているのだから、業務時の負担は少しでも軽くしてやりたい。

 俺の身の回りの世話をするだけなら別に女性である必要はないだろう、多分。

 その考えを相談したところ、貴族や皇族の男子の場合成長していくにあたって着替えなど身の回りの補佐は男性に代わっていくと知った。

 大体十歳辺りで切り替わると知り俺は三十二年分分一気に恥ずかしくなった。そういうことは早めに教えて欲しい。

 白豚皇帝時代も途中からは男のしかも屈強な侍従が俺の着替えを行うようになっていたが単純に俺の体形や体重の問題だと思っていた。

 今回もトピアの件がなければ興味を持たず同じ恥を繰り返していたかもしれない。

 相談相手のディストは「使用人の性別など気にしなくても」と言っていたが、単純に無知なのと知っていて無視するのは違うと思う。 

 簡易文通のような形でディストとトピアの扱いについて協議し、本人の意見も聞いた上で最終的にカイン付き侍女としてのトピアは辞職し俺付きの侍従として再就職することに落ち着いた。

 今度はグランシー公爵家の推薦状付きでだ。あからさまな縁故採用の方が俺も便宜は図りやすいが、侍女だった過去を気づかれた時が不味いのではないか。

 そんな俺の疑問に対しトピアが名前も顔も変えればいいとあっさり答えたので衝撃を受けた。いやそれぐらい出来なければディストの間者は務まらないのかもしれないが。

 しかし俺は余程衝撃を受けた顔をしたらしく、二人きりの時ならトピアと呼びつけて頂いて結構ですよと譲歩されてしまった。

 更に侍女の姿が気に入ったのならいつでもこの姿で奉仕するとまで言われ、そこまで厚意に甘えるわけにはいかないと俺は断った。

 彼が男の使用人として名を変え顔を変え出直すなら俺だって意識を切り替えていくべきなのだ。そもそも俺の言い出した提案なのだし。

 そう説明したところトピアは真顔で少し考え込んでから「男同士でもやれないことはないですしね」と返してきた。

 そうだ、皇子の身の回りの世話を男性が担当しても全く問題はない。寧ろ遅すぎた位だ。俺は力強く頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

狼騎士は異世界の男巫女(のおまけ)を追跡中!

Kokonuca.
BL
異世界!召喚!ケモ耳!な王道が書きたかったので ある日、はるひは自分の護衛騎士と関係をもってしまう、けれどその護衛騎士ははるひの兄かすがの秘密の恋人で…… 兄と護衛騎士を守りたいはるひは、二人の前から姿を消すことを選択した 完結しましたが、こぼれ話を更新いたします

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

地味顔陰キャな俺。異世界で公爵サマに拾われ、でろでろに甘やかされる

冷凍湖
BL
人生だめだめな陰キャくんがありがちな展開で異世界にトリップしてしまい、公爵サマに拾われてめちゃくちゃ甘やかされるウルトラハッピーエンド アルファポリスさんに登録させてもらって、異世界がめっちゃ流行ってることを知り、びっくりしつつも書きたくなったので、勢いのまま書いてみることにしました。 他の話と違って書き溜めてないので更新頻度が自分でも読めませんが、とにかくハッピーエンドになります。します! 6/3 ふわっふわな話の流れしか考えずに書き始めたので、サイレント修正する場合があります。 公爵サマ要素全然出てこなくて自分でも、んん?って感じです(笑)。でもちゃんと公爵ですので、公爵っぽさが出てくるまでは、「あー、公爵なんだなあー」と広い心で見ていただけると嬉しいです、すみません……!

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

処理中です...