【BL】白豚皇帝と呼ばれた俺が革命で死に戻ったら、俺を殺した弟が滅茶苦茶慕ってくるようになって可愛いけど怖い

砂礫レキ

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78 相手の消えた憎まれ口

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 トピアはそれから二十分後ぐらいに再び目を覚ました。

 そして俺の膝を自分が枕にしていることに対し仰天し、ディストには言わないでくれと懇願してきた。

 先程よりは丁寧な口調だが、それでも彼が慌てているのはわかる。

 それにしても少し前の発言や行動は彼の意図しないものだったのか。記憶にさえ残ってなさそうな様子に俺は内心僅かに驚いた。

 相手の意識を乗っ取り操るディストの術は恐ろしいと思ったが、やはり欠点はある。それはディスト自身も認識しているようだったが。

 しかしトピアがそのような有様だと何故かこちらは冷静になる。そして俺は今を好機だと感じた。

 リヒトが以前言っていた「ハッタリ」とやらを試すには絶好の状況ではないか。

 ハッタリとは簡単に言えば知らないことを知っていると思わせて相手を都合よく動かす技術だ。

 リヒトは「子豚ちゃんは普通に騙される側だよね」という言葉を実践して何度もこちらを翻弄してくれた。

 そもそも賢者である彼の知識など俺が把握しきれるわけもないのだから単純に意地悪である。

 しかし今回は違う。これは必要なことなのだ。女性と男性の口調が入り混じるトピアに俺は笑いかけた。


   ■□■□


「それで女装男をよしよしして帰ってきたってマジ?」

「女装は男性にしかできないので男という部分は不要では?」

「は?女が女装する文化がある国も存在するけど?知らないの子豚ちゃん」

「流石にそれには騙されない」


 部屋に戻るなり鏡の賢者に出来の悪いハッタリを浴びせられる。いやこれはハッタリではなく、デタラメという奴か。

 知りたいことをある程度聞き出しトピアが完全に落ち着きを取り戻した。なので彼と別れて自室に来たのだが。

 入室後際、黒い石に変化していた眼球に元の姿に戻っていいとまず俺は伝えた。

 途端元の姿に戻った彼は嬉しそうに床を飛び跳ねる。怪我はないか確認したが特に傷ついた様子はなかった。

 ディストに握りしめられても大人しくしていたことを褒めると嬉しいのか一際高く跳躍した。

 その動きに反応したムクロに今は楽しそうに追い掛け回されている。名前をつけてやらないとなと俺は思った。

 それから自分で隠し布を外し鏡の向こうの賢者と対峙した。

 俺の話を最初は茶化しつつも真面目に聞いていたリヒトはディストの術の話題になった途端、妙な調子になった。


「あのネクロマンサーがそんな雑魚い術使って、しかも宿主に思念負けして追い出されるとかまじうける!あいつがそんなヘタうつとか!なっさけな、教団の下っ端レベルじゃん!」


 物凄く楽しそうに罵倒している。次から次へ放たれる雑言の内容については正直よくわからないが煽っているのは理解できた。

 この場に当人がいないことに俺は深く感謝する。

 子供のディストも大人のディストも、どちらも怒らせたくない相手だ。

 直接危害を加えられていない俺がそうなのに、リヒトは大した度胸だと思う。学習能力がないとは考えたくない。

 ディストとトピア双方から話を聞いて体を明け渡すにはお互いの合意が必要だったり色々と手間がかかることは知っていた。

 更に精神や肉体に強く負担がかかる場合もあるので気軽には行えないということも。

 術が解けた直後は身も心も無防備になってしまうこともトピアからそれとなく聞き出した。

 けれどそいうったことを含めても、別人の体を遠くから操って動かせるのは大した技術だと俺は思うのだが。

 何よりディストはまだ十二歳だ。幼児ではないが十分子供の枠には入る。そんな少年が城に間者を放っているのだ。

 俺には到底真似できない。俺は魔術について素人だが、リヒトがここまでこき下ろすほど稚拙な術だとは思えなかった。

 賢者が楽しそうなのはいいことだが、どこが面白いのかは理解しかねるまま俺は発作のようなそれを聞き流し続けた。

 よくそこまで違う内容の悪口を言えるものだと辟易しつつ感心もしていたが、唐突にあることに気づく。


「リヒトお前、ネクロマンサー時代のディストに対する評価が高すぎるんじゃないか?」


 術者としては彼を深く認めていたんだな。俺は単純に率直な感想を述べただけだった。

 しかし盲目の賢者はそれ以後不気味な程に静かになった。


「そうだったかもね。でもどうでもいいことだよ」


 張り詰めるような空気の中で鏡の向こうからそう返される。リヒトは真顔にも、少しだけ笑っているようにも見えた。

 もしかしたら先程までの彼の行動は、鮮血皇帝の世界での日常を束の間取り戻したものだったのかもしれない。

 少し前、鏡の中の世界で束の間再開した彼らの険悪さの中にそれでも絆を感じたことを思い出す。

 どうしようもできない罪悪感を抱えながら、俺は落ち着きを取り戻したリヒトに促され今後について話し始めた。
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