78 / 89
78 相手の消えた憎まれ口
しおりを挟む
トピアはそれから二十分後ぐらいに再び目を覚ました。
そして俺の膝を自分が枕にしていることに対し仰天し、ディストには言わないでくれと懇願してきた。
先程よりは丁寧な口調だが、それでも彼が慌てているのはわかる。
それにしても少し前の発言や行動は彼の意図しないものだったのか。記憶にさえ残ってなさそうな様子に俺は内心僅かに驚いた。
相手の意識を乗っ取り操るディストの術は恐ろしいと思ったが、やはり欠点はある。それはディスト自身も認識しているようだったが。
しかしトピアがそのような有様だと何故かこちらは冷静になる。そして俺は今を好機だと感じた。
リヒトが以前言っていた「ハッタリ」とやらを試すには絶好の状況ではないか。
ハッタリとは簡単に言えば知らないことを知っていると思わせて相手を都合よく動かす技術だ。
リヒトは「子豚ちゃんは普通に騙される側だよね」という言葉を実践して何度もこちらを翻弄してくれた。
そもそも賢者である彼の知識など俺が把握しきれるわけもないのだから単純に意地悪である。
しかし今回は違う。これは必要なことなのだ。女性と男性の口調が入り混じるトピアに俺は笑いかけた。
■□■□
「それで女装男をよしよしして帰ってきたってマジ?」
「女装は男性にしかできないので男という部分は不要では?」
「は?女が女装する文化がある国も存在するけど?知らないの子豚ちゃん」
「流石にそれには騙されない」
部屋に戻るなり鏡の賢者に出来の悪いハッタリを浴びせられる。いやこれはハッタリではなく、デタラメという奴か。
知りたいことをある程度聞き出しトピアが完全に落ち着きを取り戻した。なので彼と別れて自室に来たのだが。
入室後際、黒い石に変化していた眼球に元の姿に戻っていいとまず俺は伝えた。
途端元の姿に戻った彼は嬉しそうに床を飛び跳ねる。怪我はないか確認したが特に傷ついた様子はなかった。
ディストに握りしめられても大人しくしていたことを褒めると嬉しいのか一際高く跳躍した。
その動きに反応したムクロに今は楽しそうに追い掛け回されている。名前をつけてやらないとなと俺は思った。
それから自分で隠し布を外し鏡の向こうの賢者と対峙した。
俺の話を最初は茶化しつつも真面目に聞いていたリヒトはディストの術の話題になった途端、妙な調子になった。
「あのネクロマンサーがそんな雑魚い術使って、しかも宿主に思念負けして追い出されるとかまじうける!あいつがそんなヘタうつとか!なっさけな、教団の下っ端レベルじゃん!」
物凄く楽しそうに罵倒している。次から次へ放たれる雑言の内容については正直よくわからないが煽っているのは理解できた。
この場に当人がいないことに俺は深く感謝する。
子供のディストも大人のディストも、どちらも怒らせたくない相手だ。
直接危害を加えられていない俺がそうなのに、リヒトは大した度胸だと思う。学習能力がないとは考えたくない。
ディストとトピア双方から話を聞いて体を明け渡すにはお互いの合意が必要だったり色々と手間がかかることは知っていた。
更に精神や肉体に強く負担がかかる場合もあるので気軽には行えないということも。
術が解けた直後は身も心も無防備になってしまうこともトピアからそれとなく聞き出した。
けれどそいうったことを含めても、別人の体を遠くから操って動かせるのは大した技術だと俺は思うのだが。
何よりディストはまだ十二歳だ。幼児ではないが十分子供の枠には入る。そんな少年が城に間者を放っているのだ。
俺には到底真似できない。俺は魔術について素人だが、リヒトがここまでこき下ろすほど稚拙な術だとは思えなかった。
賢者が楽しそうなのはいいことだが、どこが面白いのかは理解しかねるまま俺は発作のようなそれを聞き流し続けた。
よくそこまで違う内容の悪口を言えるものだと辟易しつつ感心もしていたが、唐突にあることに気づく。
「リヒトお前、ネクロマンサー時代のディストに対する評価が高すぎるんじゃないか?」
術者としては彼を深く認めていたんだな。俺は単純に率直な感想を述べただけだった。
しかし盲目の賢者はそれ以後不気味な程に静かになった。
「そうだったかもね。でもどうでもいいことだよ」
張り詰めるような空気の中で鏡の向こうからそう返される。リヒトは真顔にも、少しだけ笑っているようにも見えた。
もしかしたら先程までの彼の行動は、鮮血皇帝の世界での日常を束の間取り戻したものだったのかもしれない。
少し前、鏡の中の世界で束の間再開した彼らの険悪さの中にそれでも絆を感じたことを思い出す。
どうしようもできない罪悪感を抱えながら、俺は落ち着きを取り戻したリヒトに促され今後について話し始めた。
そして俺の膝を自分が枕にしていることに対し仰天し、ディストには言わないでくれと懇願してきた。
先程よりは丁寧な口調だが、それでも彼が慌てているのはわかる。
それにしても少し前の発言や行動は彼の意図しないものだったのか。記憶にさえ残ってなさそうな様子に俺は内心僅かに驚いた。
相手の意識を乗っ取り操るディストの術は恐ろしいと思ったが、やはり欠点はある。それはディスト自身も認識しているようだったが。
しかしトピアがそのような有様だと何故かこちらは冷静になる。そして俺は今を好機だと感じた。
リヒトが以前言っていた「ハッタリ」とやらを試すには絶好の状況ではないか。
ハッタリとは簡単に言えば知らないことを知っていると思わせて相手を都合よく動かす技術だ。
リヒトは「子豚ちゃんは普通に騙される側だよね」という言葉を実践して何度もこちらを翻弄してくれた。
そもそも賢者である彼の知識など俺が把握しきれるわけもないのだから単純に意地悪である。
しかし今回は違う。これは必要なことなのだ。女性と男性の口調が入り混じるトピアに俺は笑いかけた。
■□■□
「それで女装男をよしよしして帰ってきたってマジ?」
「女装は男性にしかできないので男という部分は不要では?」
「は?女が女装する文化がある国も存在するけど?知らないの子豚ちゃん」
「流石にそれには騙されない」
部屋に戻るなり鏡の賢者に出来の悪いハッタリを浴びせられる。いやこれはハッタリではなく、デタラメという奴か。
知りたいことをある程度聞き出しトピアが完全に落ち着きを取り戻した。なので彼と別れて自室に来たのだが。
入室後際、黒い石に変化していた眼球に元の姿に戻っていいとまず俺は伝えた。
途端元の姿に戻った彼は嬉しそうに床を飛び跳ねる。怪我はないか確認したが特に傷ついた様子はなかった。
ディストに握りしめられても大人しくしていたことを褒めると嬉しいのか一際高く跳躍した。
その動きに反応したムクロに今は楽しそうに追い掛け回されている。名前をつけてやらないとなと俺は思った。
それから自分で隠し布を外し鏡の向こうの賢者と対峙した。
俺の話を最初は茶化しつつも真面目に聞いていたリヒトはディストの術の話題になった途端、妙な調子になった。
「あのネクロマンサーがそんな雑魚い術使って、しかも宿主に思念負けして追い出されるとかまじうける!あいつがそんなヘタうつとか!なっさけな、教団の下っ端レベルじゃん!」
物凄く楽しそうに罵倒している。次から次へ放たれる雑言の内容については正直よくわからないが煽っているのは理解できた。
この場に当人がいないことに俺は深く感謝する。
子供のディストも大人のディストも、どちらも怒らせたくない相手だ。
直接危害を加えられていない俺がそうなのに、リヒトは大した度胸だと思う。学習能力がないとは考えたくない。
ディストとトピア双方から話を聞いて体を明け渡すにはお互いの合意が必要だったり色々と手間がかかることは知っていた。
更に精神や肉体に強く負担がかかる場合もあるので気軽には行えないということも。
術が解けた直後は身も心も無防備になってしまうこともトピアからそれとなく聞き出した。
けれどそいうったことを含めても、別人の体を遠くから操って動かせるのは大した技術だと俺は思うのだが。
何よりディストはまだ十二歳だ。幼児ではないが十分子供の枠には入る。そんな少年が城に間者を放っているのだ。
俺には到底真似できない。俺は魔術について素人だが、リヒトがここまでこき下ろすほど稚拙な術だとは思えなかった。
賢者が楽しそうなのはいいことだが、どこが面白いのかは理解しかねるまま俺は発作のようなそれを聞き流し続けた。
よくそこまで違う内容の悪口を言えるものだと辟易しつつ感心もしていたが、唐突にあることに気づく。
「リヒトお前、ネクロマンサー時代のディストに対する評価が高すぎるんじゃないか?」
術者としては彼を深く認めていたんだな。俺は単純に率直な感想を述べただけだった。
しかし盲目の賢者はそれ以後不気味な程に静かになった。
「そうだったかもね。でもどうでもいいことだよ」
張り詰めるような空気の中で鏡の向こうからそう返される。リヒトは真顔にも、少しだけ笑っているようにも見えた。
もしかしたら先程までの彼の行動は、鮮血皇帝の世界での日常を束の間取り戻したものだったのかもしれない。
少し前、鏡の中の世界で束の間再開した彼らの険悪さの中にそれでも絆を感じたことを思い出す。
どうしようもできない罪悪感を抱えながら、俺は落ち着きを取り戻したリヒトに促され今後について話し始めた。
70
お気に入りに追加
3,995
あなたにおすすめの小説
いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
ゲーム世界の貴族A(=俺)
猫宮乾
BL
妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
地味顔陰キャな俺。異世界で公爵サマに拾われ、でろでろに甘やかされる
冷凍湖
BL
人生だめだめな陰キャくんがありがちな展開で異世界にトリップしてしまい、公爵サマに拾われてめちゃくちゃ甘やかされるウルトラハッピーエンド
アルファポリスさんに登録させてもらって、異世界がめっちゃ流行ってることを知り、びっくりしつつも書きたくなったので、勢いのまま書いてみることにしました。
他の話と違って書き溜めてないので更新頻度が自分でも読めませんが、とにかくハッピーエンドになります。します!
6/3
ふわっふわな話の流れしか考えずに書き始めたので、サイレント修正する場合があります。
公爵サマ要素全然出てこなくて自分でも、んん?って感じです(笑)。でもちゃんと公爵ですので、公爵っぽさが出てくるまでは、「あー、公爵なんだなあー」と広い心で見ていただけると嬉しいです、すみません……!
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる