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77 命の価値
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長く待つこともなく、トピアは目を覚ました。紫ではなく灰青の瞳が俺を見て、なぜか安心したように笑った。
しかし覚醒こそ早かったものの彼の顔色は優れない。頭を打った訳ではないが痛そうに額に手を当てていた。
「大丈夫か?」
「あー……大丈夫、っす」
ぼんやりと憂鬱そうに返される。
侍女に相応しい口調ではないが、これが本来の彼なのだろうなと思った。
そしてそれが出てきてしまう位今のトピアは周囲に気を使えないのだろう。
先程のディストの発言を考えると体を借りるというのは互いに気軽な行為ではなさそうだし。
上半身は起こしたものの気だるげな様子のトピアに医師を呼ぶべきかと迷う。
だが本人の口から大丈夫という言葉が出ている為迷い、結局様子を見るという消極的な選択になった。
青白い顔は整っているが、今は女性には見えない。化粧や表情というものの重要性を知った。
それにしても、かなり辛そうな様子なのにどうして彼はディストに体を貸すのだろう。
ディストは貴族でトピアは使用人。主人が命じたことには全て従わなければいけない。
それで納得もできた筈だが、なんとなく他にも理由があるような気がして俺は口を開いた。
「どうしてそんなに辛そうなのにディストに体を貸すんだ?」
「……金っすね、あの坊ちゃん何ヤッても金はきっちり払うから、っいてて」
金が貰えるなら死ぬ以外なんでもやります。そうぞんざいな口調でトピアは言う。
俺はそのことに自分でも信じられないぐらい衝撃を受けた。
金の為に死ぬ以外のことはやるなんて選択肢は俺には存在しない。
俺は死んだことはあるけれど、それは金を得る為ではない。
金をやるから指を切ってくれと言われても断る。髪を売ってくれと言われても断るだろう。
それは俺が生まれた時から一度も金に困ったことがなくて、そもそも金のことなんて考える必要がなかったからだ。
でも金って、こんなにも人を動かすし大切なものなのだ。辛い思いをしてでも欲しがるものなのだ。
危ないところだった。俺はもしかしたらこれを知らないまま又大人になるところだった。
暗愚皇帝に、なるところだったかもしれないのだ。
「そうか、金は大切なんだな」
「大切です、ないと死にますよ」
俺たちみたいなのは。そう暗く笑ってトピアは目を瞑った。
本当に辛そうだったので医者を呼ぶか尋ねる。首を振られた。
「疑われたくないし、どうせ治らないので。時間が経てば楽になるし」
でも横になってもいいですか。そう質問されて俺は快諾した。すると彼はその場で仰向けになった。
絨毯の上だ。まるで張り付くように倒れたトピアは移動する様子がない。
しかしまだ具合が悪そうだ。俺は以前リヒトに言われたことを思い出した。
頭痛の時は血の巡りをよくする為、頭を高い場所に置いたほうがいい。
それから首と頭の位置がどうとか、枕の硬さがどうとか長々と話していた気がする。
そうだ、首の骨の関係で枕なしで寝ると頭痛になりやすいと。
珍しく熱弁する彼に、リヒトは寝るのが好きなんだなと当時の俺は思った。
「枕だ、枕をしたほうがいいぞトピア」
俺は聞こえやすいよう彼の頭の近くに座りそう説明する。
すると彼は何故か億劫そうに俺の膝に頭を乗せた。
「……何故だ?」
俺は理由がわからず呟く。しかしトピアは目を閉じて動く気配がない。
だが頭の位置を高くするという目的は果たしている気がする。
ならばいいか、俺は暫く彼の枕代わりを務めることにした。
しかし覚醒こそ早かったものの彼の顔色は優れない。頭を打った訳ではないが痛そうに額に手を当てていた。
「大丈夫か?」
「あー……大丈夫、っす」
ぼんやりと憂鬱そうに返される。
侍女に相応しい口調ではないが、これが本来の彼なのだろうなと思った。
そしてそれが出てきてしまう位今のトピアは周囲に気を使えないのだろう。
先程のディストの発言を考えると体を借りるというのは互いに気軽な行為ではなさそうだし。
上半身は起こしたものの気だるげな様子のトピアに医師を呼ぶべきかと迷う。
だが本人の口から大丈夫という言葉が出ている為迷い、結局様子を見るという消極的な選択になった。
青白い顔は整っているが、今は女性には見えない。化粧や表情というものの重要性を知った。
それにしても、かなり辛そうな様子なのにどうして彼はディストに体を貸すのだろう。
ディストは貴族でトピアは使用人。主人が命じたことには全て従わなければいけない。
それで納得もできた筈だが、なんとなく他にも理由があるような気がして俺は口を開いた。
「どうしてそんなに辛そうなのにディストに体を貸すんだ?」
「……金っすね、あの坊ちゃん何ヤッても金はきっちり払うから、っいてて」
金が貰えるなら死ぬ以外なんでもやります。そうぞんざいな口調でトピアは言う。
俺はそのことに自分でも信じられないぐらい衝撃を受けた。
金の為に死ぬ以外のことはやるなんて選択肢は俺には存在しない。
俺は死んだことはあるけれど、それは金を得る為ではない。
金をやるから指を切ってくれと言われても断る。髪を売ってくれと言われても断るだろう。
それは俺が生まれた時から一度も金に困ったことがなくて、そもそも金のことなんて考える必要がなかったからだ。
でも金って、こんなにも人を動かすし大切なものなのだ。辛い思いをしてでも欲しがるものなのだ。
危ないところだった。俺はもしかしたらこれを知らないまま又大人になるところだった。
暗愚皇帝に、なるところだったかもしれないのだ。
「そうか、金は大切なんだな」
「大切です、ないと死にますよ」
俺たちみたいなのは。そう暗く笑ってトピアは目を瞑った。
本当に辛そうだったので医者を呼ぶか尋ねる。首を振られた。
「疑われたくないし、どうせ治らないので。時間が経てば楽になるし」
でも横になってもいいですか。そう質問されて俺は快諾した。すると彼はその場で仰向けになった。
絨毯の上だ。まるで張り付くように倒れたトピアは移動する様子がない。
しかしまだ具合が悪そうだ。俺は以前リヒトに言われたことを思い出した。
頭痛の時は血の巡りをよくする為、頭を高い場所に置いたほうがいい。
それから首と頭の位置がどうとか、枕の硬さがどうとか長々と話していた気がする。
そうだ、首の骨の関係で枕なしで寝ると頭痛になりやすいと。
珍しく熱弁する彼に、リヒトは寝るのが好きなんだなと当時の俺は思った。
「枕だ、枕をしたほうがいいぞトピア」
俺は聞こえやすいよう彼の頭の近くに座りそう説明する。
すると彼は何故か億劫そうに俺の膝に頭を乗せた。
「……何故だ?」
俺は理由がわからず呟く。しかしトピアは目を閉じて動く気配がない。
だが頭の位置を高くするという目的は果たしている気がする。
ならばいいか、俺は暫く彼の枕代わりを務めることにした。
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