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71 忠告と危機
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アーダルが部屋を出ていき、入れ替わりにトピアが室内へ足を踏み入れる。
俺は出来るだけ険しい表情を浮かべながら口を開いた。
「誰が誰の腹心だって?」
「おや、ばれちゃいましたか」
全く悪びれる様子もなく返してくる相手に溜息を吐く。
まるで昔からの知り合いのような馴れ馴れしささえ感じる。
俺付きの侍女たちに感じた遠慮のなさとは又違うそれに俺は首を傾げながら言葉を続けた。
「アーダルから預かった手紙をこちらに渡してくれ」
「手紙?恋文の事ですか」
「違う」
「弟様だけでなくその教師まで篭絡するなんてレオン様ったら罪作りなんだから」
「そろそろ怒るぞ」
俺の通告に侍女服姿の青年は手紙の束を渡してくる。予想以上の量だった。
これがアーダルに腹違いの兄が送り続けていたものか。
「中身は読んだのか」
「殿下はお読みにならない方が宜しいですよ」
目に汚物が入りますから。そうトピアは冷めた紫の瞳で言い放つ。
アーダル自身から語られた兄弟仲を考えても、確かに楽しい読み物ではないだろう。
それに人の手紙を盗み読むということにためらいがあるのはたしかだった。
「問題になる内容は?俺の暗殺計画とかは書かれていたか」
「そこまで大それたことは。ただ弟様を手懐けて傀儡にしろを下品に表現した箇所は多々ありましたけど。恐らく執筆した側は軽口のつもりでしょう」
「そうか」
「あの教師も環境的に追い詰められていたのかもしれませんね」
「おいそれと口外できる内容ではないからな」
マルドゥク家の人間にも話すことは難しい内容ではと思う。
カインに心酔し彼を皇帝にしたいと願う盲信ならまだしも、アーダルの兄はカインを利用して自分たちの名誉を上げることを目論んでいた。
ただ実際計画に移す訳ではなく、ひたすら異母弟を手紙でせっつくだけ。人の事は決して言えないが、小者という単語が頭に浮かんだ。
それでも彼はアーダルの兄だ。その存在は今までずっと異母弟を支配し圧迫していたのだろう。
しかし今回の件でアーダルは子爵家を捨てることを選んだ。俺たち兄弟の姿を見て決めたことらしいが、正直気まずさはある。
俺だって決して褒められた兄ではない、いや弾劾される程駄目な兄だったのだから。
無言でいた俺に青年は距離を更に詰めて問う。
「ラシュト家に圧力かけます?」
「この手紙を理由に?子爵家にアーダルが責められる可能性があるな」
出来るなら無事に逃がしてやりたい。
俺の要望に、だからこそですよと紫眼の青年は言う。
「文面からの推測ですがこの兄は弟を逃がさない。失敗した時に罰で放逐するのではなく地下に監禁し鞭打つ類の人種だと思います」
教師の国外脱出を成功させたいなら、子爵家を別の方角から突いて慌てさせる必要がある。
そう知的な笑みを浮かべ語る青年に俺は考え込む。
「だが方法は?このことで父が動いてくれるとは思わない」
「下級貴族への圧力は上級貴族に任せればいいのですよ、レオン様」
公爵家などおすすめです。なんなら皇帝の耳に入らないように調整も出来ますよ。
そう訳知り顔で説明する侍女服の青年に俺は尋ねた。
「……つまりグランシー家が取り計らってくれるということか、ディスト」
「はい、そうですよレオン……、様」
「いやお前、ディストだろ。いいよ隠さなくて」
実は少し前から、トピアの瞳の色が変わる時があるとは思っていたのだ。
なんとなくディストかなとは予想していて、いつ指摘しようか考えてもいた。
ただ、今の会話で気づいたことがある。これは早々に教えてやらないといけない。
「ディスト、お前俺との距離が近すぎる。今だって顔が目と鼻の先じゃないか」
侍女の姿で第一皇子にそんな接し方をしたら目撃した者があれこれ騒ぎ立てるぞ。
そう親切に忠告したところ「成程」と俺は襲われた。
俺は出来るだけ険しい表情を浮かべながら口を開いた。
「誰が誰の腹心だって?」
「おや、ばれちゃいましたか」
全く悪びれる様子もなく返してくる相手に溜息を吐く。
まるで昔からの知り合いのような馴れ馴れしささえ感じる。
俺付きの侍女たちに感じた遠慮のなさとは又違うそれに俺は首を傾げながら言葉を続けた。
「アーダルから預かった手紙をこちらに渡してくれ」
「手紙?恋文の事ですか」
「違う」
「弟様だけでなくその教師まで篭絡するなんてレオン様ったら罪作りなんだから」
「そろそろ怒るぞ」
俺の通告に侍女服姿の青年は手紙の束を渡してくる。予想以上の量だった。
これがアーダルに腹違いの兄が送り続けていたものか。
「中身は読んだのか」
「殿下はお読みにならない方が宜しいですよ」
目に汚物が入りますから。そうトピアは冷めた紫の瞳で言い放つ。
アーダル自身から語られた兄弟仲を考えても、確かに楽しい読み物ではないだろう。
それに人の手紙を盗み読むということにためらいがあるのはたしかだった。
「問題になる内容は?俺の暗殺計画とかは書かれていたか」
「そこまで大それたことは。ただ弟様を手懐けて傀儡にしろを下品に表現した箇所は多々ありましたけど。恐らく執筆した側は軽口のつもりでしょう」
「そうか」
「あの教師も環境的に追い詰められていたのかもしれませんね」
「おいそれと口外できる内容ではないからな」
マルドゥク家の人間にも話すことは難しい内容ではと思う。
カインに心酔し彼を皇帝にしたいと願う盲信ならまだしも、アーダルの兄はカインを利用して自分たちの名誉を上げることを目論んでいた。
ただ実際計画に移す訳ではなく、ひたすら異母弟を手紙でせっつくだけ。人の事は決して言えないが、小者という単語が頭に浮かんだ。
それでも彼はアーダルの兄だ。その存在は今までずっと異母弟を支配し圧迫していたのだろう。
しかし今回の件でアーダルは子爵家を捨てることを選んだ。俺たち兄弟の姿を見て決めたことらしいが、正直気まずさはある。
俺だって決して褒められた兄ではない、いや弾劾される程駄目な兄だったのだから。
無言でいた俺に青年は距離を更に詰めて問う。
「ラシュト家に圧力かけます?」
「この手紙を理由に?子爵家にアーダルが責められる可能性があるな」
出来るなら無事に逃がしてやりたい。
俺の要望に、だからこそですよと紫眼の青年は言う。
「文面からの推測ですがこの兄は弟を逃がさない。失敗した時に罰で放逐するのではなく地下に監禁し鞭打つ類の人種だと思います」
教師の国外脱出を成功させたいなら、子爵家を別の方角から突いて慌てさせる必要がある。
そう知的な笑みを浮かべ語る青年に俺は考え込む。
「だが方法は?このことで父が動いてくれるとは思わない」
「下級貴族への圧力は上級貴族に任せればいいのですよ、レオン様」
公爵家などおすすめです。なんなら皇帝の耳に入らないように調整も出来ますよ。
そう訳知り顔で説明する侍女服の青年に俺は尋ねた。
「……つまりグランシー家が取り計らってくれるということか、ディスト」
「はい、そうですよレオン……、様」
「いやお前、ディストだろ。いいよ隠さなくて」
実は少し前から、トピアの瞳の色が変わる時があるとは思っていたのだ。
なんとなくディストかなとは予想していて、いつ指摘しようか考えてもいた。
ただ、今の会話で気づいたことがある。これは早々に教えてやらないといけない。
「ディスト、お前俺との距離が近すぎる。今だって顔が目と鼻の先じゃないか」
侍女の姿で第一皇子にそんな接し方をしたら目撃した者があれこれ騒ぎ立てるぞ。
そう親切に忠告したところ「成程」と俺は襲われた。
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