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69話 留まる者と立ち去る者

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 皇帝である父親の許可さえ取れれば後は呆気ないもので、俺は弟を即日牢から出した。

 カインは先日の発言通り、牢暮らしに全くダメージを受けていないようだった。七歳とは思えない。

 第二皇子ということもあり快適に牢内環境を整えたのかもしれないが、寝る部屋が変わるだけでも嫌な俺とは大違いだ。

 そもそもカインは生まれ育った伯爵家を出て城暮らしをしているのだった。

 母親が一緒とはいえ色々大変だろうなと改めて思った。これからは兄である俺のことも頼ってくれたらいい。

 それに彼がアーダルを傷つけた件はうやむやにしたが、完全になかったことにはできない。

 第二皇子付きの侍女たちが、今回の件でカインを恐れたりする可能性もある。

 騒動の渦中で賢明な沈黙を保っていた者たちだが、安心しきらずに状況を見守る必要はあるだろう。

 それについてはトピアに頼ることにする。

 彼女、いや彼はディストの部下だが今更ということで遠慮は捨ててしまっている。

 アーダルに対する俺の発言を父が不審がった場合、カイン付きの侍女として証言してもらう約束さえ取り付けていたのだ。

 とはいえ偽証して貰うつもりはなく、アーダルが自ら語った身の上や、言い間違いの後に激しくうろたえたこと。

 そして、トピアがカインたちを擁護する必要のない存在。寧ろその逆であるグランシー家の縁者だと話してもらうだけだった。

 正体を告げることに関して、ディストの間者であるトピアは当然嫌がったが最終的に俺が絶対に守ること。

 俺の側付き侍女兼護衛に任命すること。主人であるディストにその許可を取ることを条件に承諾した。

 しかし結局皇帝はそこまで深追いしなかった為、この約束は保留中である。

 ディストの息のかかった者をカインの近くに置くのは難があると思っていたが、トピアは情報収集でも仲介でも非常に役に立ってくれた。

 ただその情報は当然彼の雇い主であるディストも把握するということだ。それが唯一にして最大の問題だ。

 だからといって諜報の罪でトピアを追放したり罰したりしてもディストなら又別の人間を城に潜ませるだろう。

 その時は俺にそれを知らせることはきっとしない。そちらの方が厄介だ。

 トピアが罰せられるなら指示をしたディストだって無事では居られない筈だが、彼なら上手くやり過ごすのだろうという予感があった。

 今の俺と同じ十二歳の少年なのだが、どうも底知れ無さを感じてしまう。隻眼のディストの影響だろうか。

 そういった考え以外にも単純にトピアには色々と助けになって貰ったし、間者といえども酷い目には遭わせたくないという気持ちがある。

 リヒトに言ったら鼻で笑われてしまったが、彼ならそういう反応をするだろうと思っていた。皮肉は言われたが反対はされなかった。

 ということで俺がディストと話をするまではトピアには現状維持、カイン付き侍女の立場でいて貰うことにした。

 そして肝心のアーダルだが。

 彼は教師を辞め城から去ることになった。

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