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67話 皇帝と三文役者

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 アーダルとの対面から数日後。

 俺は父である皇帝と彼の執務室で向かい合っていた。当然カインたちの件についてである。

 問題の人物であるアーダル。

 彼は第一皇子である俺の熱病の報せを受け、教え子であるカインに「兄が死ねば貴方が次期皇帝だ」と嬉しそうに告げた。

 結果兄思いの弟は激怒し自らの教師に制裁を加えた。

 これを事実とするならカインの罪は許されるだろう。だがアーダルは更に罪に問われる。

 そしてアーダルを最初に雇い入れたマルドゥク家伯爵家も巻き込みかねない。

 だから俺は真実を歪めることに決めた。

  
「今回の件、アーダルという教師は第一皇子である俺の死を望む発言を行い、結果弟であるカインに制裁を受けております」


 しかしそれは言い回しによる誤解の結果なのです。

 俺は書斎机の向こうの皇帝にそう告げた。


「誤解だと?どこに誤解が生まれる余地がある」

「焦らずに陛下。今から説明致します」


 正直死にそうな位に緊張はしているが、わざと勿体ぶった話し方をする。必要なことだからだ。

 苛立って机を叩かれたり出て行けと命じられないかはらはらしながら俺は言葉を続けた。

 今から話すのは俺の話を聞いたリヒトが書き上げたシナリオ。俺は役者となり覚えた台詞を紡ぐだけ。

 そう己に言い聞かせながら長台詞を口にする。見てきたような嘘を、涼しい顔で語るのだ。


「アーダル・ラシュトはこの国の出身ではありません。このことが誤解を生みました」


 褐色の肌を持つ彼は外見からこの国の生まれでないと主張しやすい。実際幼いころはフラヴ国に居たと聞いた。

 そして移住後、言葉の取得に苦労し虐められていた過去も持っている。そのことを利用する。


「今回の件は、彼が不適切な言い回しをしたことが原因です。しかしそれには理由があったのです」


 俺が死んだらカインが次の皇帝になれるという発言。

 これは実は「兄が弟を残して死ぬ筈がない」と励ますつもりだったのだ。

 そういうことに俺はする。


「第一皇子殿下が亡くなればカイン様は次期皇帝です。しかし兄上がカイン様を望まぬ地位に就かせるでしょうか、そんな筈が無い」

「……ふん」

「つまり、ここまでが異国出身の教師が言いたかったことなのです」


 この勿体ぶった反語表現はフラヴ国特有のもので、演劇や舞踏が盛んな国の為こういった言い回しが多くなるという。

 しかしカインには当然理解されず、途中で逆上されペンで貫かれたという訳だ。

 カインが激怒するのも当然だがアーダルも第一皇子の死を喜んでいた訳ではなかった。 

 そういった主張を俺は必死に口に乗せ、父は冷めた目でその光景を見つめる。俺の肌着は冷や汗で散々に湿っている。

 なぜならこれは全部リヒトの出任せである。フラヴ国の言葉なんて俺は知らない。一言も話せない。

 言い回しの特徴なんて知る筈もない。


『こんな身内沙汰、その場で納得させれば後から調べたりしないでしょ。ひたすら押し切れ。親父相手にもカイン相手にもだ』

『カインは読書が趣味だから文化関係の嘘はいずれ気づきそうだが?』

『そういう説を聞いたことがあるで逃げるんだよ、俺はそうやって生きてきた』

『リヒト、お前……』

『は?人生において必要な技術ですけど?何その呆れた目、これは生きてく強さですけど?』


 数日前の賢者とのやり取りと、その後の猛特訓を思い出す。必死に頭に叩き込み暗記した結果今のところ説明は順調に出来ている。その筈だ。

 この主張に父が納得するかは別だが。

 一通り話し終えた俺は不安を必死に隠しながら皇帝の沙汰を待った。
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