【BL】白豚皇帝と呼ばれた俺が革命で死に戻ったら、俺を殺した弟が滅茶苦茶慕ってくるようになって可愛いけど怖い

砂礫レキ

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61話 知る者と知らぬ者

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「レオンハルト第一皇子殿下、今私の目で見て耳で聞く御身は情を持ちながらも冷静であらせられる」

「……俺が聞きたいのは甘言ではない」

「ただの事実です。しかしそのことを知る者は少ないでしょう。扉を開く前までの私のように」


 それはそうだ。城内でさえ俺と話をする人間は限られている。

 外見の変化さえ知らないままでいる家臣や使用人、そして貴族もかなりの数存在するだろう。

 そのことについてはこの教師に指摘されなくてもわかっている。侍女たちの件で痛感もした。
 
 しかしそれが今関係あるのか。そう言い返したい気持ちを抑える。

 冗長に思えても、恐らく理由があるから口にしているのだ。俺は賢くないのだから短気であってはいけない。


「……話を続けよ」

「けれどカイン様は違います。恐らくこの世の誰よりも御身を高く評価している」

「それは……そうだろうな」


 カインが俺に寄せる信頼の重さは痛感している。

 そう仕向けたのも俺だが、手に負えないのでは感じさせる部分もある。

 しかしそう言った部分も含めて今度こそを弟と諦めず突き放さずに向かい合っていこうと足掻いているのだ。

 そのことを知ってか知らずか異国の肌をした男は右手の手袋を外した。何気なく視線で追いかけ息を飲み込む。

 何度も聞かされていたことだがアーダルの掌には穴が開いていた。

 想像よりは大きくないが、しかし皮膚の間に唐突に存在するその虚(うろ)に俺は内心たじろいだ。


「結果、彼の前で尊い存在を侮辱したものは電光石火で罰を受ける。このようにです」


 もし彼が帯剣をしていたなら私は首を刎ねられていたでしょう。冷静に告げる教師に俺はぞっとした。

 見たことのない光景、俺の妻の首を切り落とす黒鎧の青年、無垢とも言える誇らしげな顔。

 妻だけではない、もっと沢山の屍が、その流す血が赤い絨毯のように俺と彼の立つ場所を染めて……。


「殿下?」


 トピアの不思議そうな声で我に返る。違う。あれは俺の記憶ではない。

 隻眼のディストといた時に聞いた、別世界での出来事を連想しただけだ。

 アーダルは静かな表情で俺を見ている。つまりこの反応は教師の想定内のものだ。俺は答える。


「つまりカインの危険性を、貴方は俺に伝えたかったと? ……自分の身と立場を犠牲にしてまで?」


 そんなこと、申し訳ないが既に知っている。だがその事実を目の前の人物は知らないだろう。だからこんな真似をした。

 当たり前だ。俺が一度白豚皇帝として死んで、盲目の賢者と一緒に少年時代からやりなおしているなんて誰も知らない。やるせない話だった。

 
「そうです。カイン様は獅子の本性を自ら進んで語ることはしないでしょう。少なくとも大奥様の言葉を忘れるまでは」

「……大奥様と言うとカインの……小鳥を襲った猫の、飼い主のことか」

「……あの子はそこまで話されていたのですね、そしてそれでも御身はカイン様を思い私を叱った。有難いことです。……私にも、そういう兄が欲しかった」


 ふっと、一瞬だけ表情を柔らかくした後アーダルは下を向く。終わり方の言葉は小さすぎて俺には聞き取れなかった。

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