【BL】白豚皇帝と呼ばれた俺が革命で死に戻ったら、俺を殺した弟が滅茶苦茶慕ってくるようになって可愛いけど怖い

砂礫レキ

文字の大きさ
上 下
54 / 90

54話 無色の岐路

しおりを挟む
 飼っていた鳥を食い殺そうとした猫を床に叩きつけた。

 兄が瀕死であることを喜んだ人間の手にペンを突き刺した。

 この二つの事実だけでカインを悪だと責めることはできない。

 一番近い感想は「やりすぎだ」というもので、ただ本当に過剰攻撃なのかと問われれば口ごもってしまうだろう。

 けれど、だからといって弟のその衝動を肯定してしまったなら、きっとその先は。

 彼が死ぬまで赤い道が続くのだという確信があった。

 俺は息を深く吸う。知らないうちに汗が首の下を伝っていた。

 俺に、俺に言えることは。


「その感情を俺に吐き出してくれ、カイン」


 許せないと感じたなら、傷つけたいと思ったなら。

 振り上げた手を止めて、俺にそれを訴えてくれ。

 殺さなくてもいいのなら、傷つけずに止められるなら。

 そう言葉を紡ぎながら弟の体を抱きしめた。


「お前はまだ、誰も殺していない。お前は強い。そしてもっと強くなる。……だからこそ躊躇いを知ってくれ」

「レオン兄様……」

「我儘が我慢できないなら俺が受け入れる。話を聞く、だからその場で発散しなくていい」

「嫌です、いやです、レオン兄さまが汚れてしまいます。僕のけだものみたいな感情で兄様を汚してしまう」


 その言葉に内心苦笑いする。俺は汚してはいけないような綺麗な人間ではない。

 母親違いとは言え実の弟を憎み立場を利用して追放した。野の獣よりも愚かな白豚だ。最後は惨めに殺されて果てた。

 いや俺の愚行を考えればあれでも綺麗な死に方だったと思える。
 
 しかしカインは俺を美化しすぎている。そう仕向けたのも俺だが。


「馬鹿だな、俺はお前よりずっと年上なんだぞ。子供の我儘で汚れるものか」

「でも兄様、僕だって大人になります。大人になった僕がまだ我儘だったら……」


 兄様は僕を捨てますか。その台詞に心臓を刃で貫かれたような冷やかさを感じた。

 なんだろう。こういう怪談を前に聞いたことがあるような気がする。いやこのカインに以前の記憶はないのだろうけれど。

 とりあえず返す言葉は一つだけだ。ほかに選択肢はない。


「捨てないよ、お前は俺の弟だ。俺たちはずっと一緒だ」


 だからそう居続けられる為の努力をしよう。

 俺の言葉にカインは鼻が詰まったような声で「はい」と返事をした。

 その了承に膝から崩れ落ちそうなくらい安堵する。自分で思っていたよりずっと緊張していたようだ。

 自分の対応は間違っていなかったと信じたい。肯定は駄目で否定だけでもいけない。

 俺はこの獣性を宿した弟を受け入れることを選んだ。

 きっとこれからも彼に対し心臓を掴まれるような選択を迫られるだろう。そういう気がするのだ。

 それでも、今だけは後悔などしないと胸を張りたい。

 同じ道も血塗られた道も歩まないし歩ませないのだと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

処理中です...