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53話 内に眠る獣
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まあ、そこまで予想から大きく外れてはいなかった。
カインが自分付きの教師を傷つけた原因は矢張り俺絡みで。
正直、この理由なら彼を庇えると思った。
第一皇子の死を喜ぶような発言を王宮内でするなんて正気ではない。
たとえ俺がどれだけ無能で人望が無くてもだ。
俺はあの皇帝の息子なのだから。
この事実が公になれば、アーダルという教師への罰は掌に穴が空く程度では済まないだろう。
だが、だからといって弟の行動を肯定する訳にはいかない。
「カイン、そういう理由で人を傷つけては駄目だ」
「わかっています、でも、我慢できなかったんです、我慢できなくて、僕は……僕はきっと獣なんです」
「獣?」
今まで従順な態度しか取らなかったカインが俺の呼びかけを否定する。
けれどそれよりも俺は弟が自らを獣と称したことが気になった。
俺の戸惑いを察したのかカインは顔を伏せたまま言葉を続けた。
「……昔、四歳の頃に飼っていた小鳥を猫が襲っている場所を見ました。僕は猫を床に叩きつけ大怪我をさせてしまいました」
「それは……」
「襲われていたけれど籠の中の小鳥はまだ無傷で、僕はそれを知っていて、でも僕の鳥を傷つけようとした猫が許せなかった」
正直、どう答えたらいいのか迷う。
俺は猫は好きだが可愛がっている小鳥が襲われているところを見たら怒鳴って追い出そうとするだろう。
大怪我をさせるつもりはないが、小鳥から遠ざけようと必死になった結果猫を傷つけてしまう可能性はある。
だが、カインは小鳥を守りたいという気持ちだけでなく、制裁の感情で猫を床に叩きつけたと話している。
それは確かに恐ろしい事ではあるのだが、悪事なのかと問われれば迷ってしまう。
だって猫は小鳥を食い殺すつもりだったのだから。たまたまカインが手遅れになる前に間に合っただけで。
一番冷静な行動は猫を追い出して、以降鳥籠は猫の手の届かない場所に設置しなおすことだろうか。
あるいは絶対に猫が部屋に入れないようにする対策を講じるとか。
いや違う。思考がずれてしまった。カインはそういう話はしていない。
今考えるべきは小鳥が猫に襲われないようにする方法ではない。
「傷つけた猫は御婆様の飼い猫でした。それまで僕を可愛がってくれていた御婆様はその日から僕を怖がって避けるようになりました」
「いやそれは大人として駄目だろう」
確かにカインは恐ろしいけれど、別に理不尽に暴力的な訳ではない。過剰ではあるけれど。
そしてその過剰な制裁衝動に対し、身内で大人なら逃げず向き合う必要があると思うのだが。
それも上から目線の偉そうな綺麗ごとか。俺は内心で自分に呆れる。
恐怖という感情は本能的なものだ。
カインが自分を獣だと言った通り、彼の祖母には孫が恐ろしい獣に見えるようになったのだろう。
もしかしたら獣という言葉は祖母から彼に向けられたことがあるのかもしれない。
「そしてその出来事から少しして、僕はお祖父様から狩りに連れ出されるようになりました」
「は、四歳で?」
「そうです、自身で獣を狩ったりは余りなかったですけれど。ただ解体の手伝いとかはしました」
余りなかったというが四歳で獣を狩るということがおかしいだろう。しかも解体の手伝いまでさせるとか意味が分からない。
想像しただけで気分が悪くなった来た。これは俺が軟弱すぎるのか。
「お祖父様は生きている獣が死ぬ様を僕に見せたかったのだと思います。どこを傷つければ死ぬのかということを。簡単に生き物は死んでしまうということを」
「……成程」
恐怖から祖母は逃げたが祖父は彼なりの考えで孫を教育したという訳か。衝動を抑える方法ではなく、命の儚さを教えるというやり方で。
もしそれがなければ教師は掌ではなく喉笛をペンで貫かれていたのかもしれない。そう考えてぞっとした。
しかしそんな凄絶な暮らしをしてきて、王宮内ではひたすら大人しくか弱い子供を演じていたのか。
父はこのことを知っているのだろうか。そしてリヒトは。ちらりと見た黒猫は我関さずと言う顔で惰眠を貪っていた。
白豚皇帝時代、短時間だが俺を殺すことに迷っていたカインのことを思い出す。
もしかしてあれって結構凄い事だったのではないだろうか。そんなことを今更考えた。
カインが自分付きの教師を傷つけた原因は矢張り俺絡みで。
正直、この理由なら彼を庇えると思った。
第一皇子の死を喜ぶような発言を王宮内でするなんて正気ではない。
たとえ俺がどれだけ無能で人望が無くてもだ。
俺はあの皇帝の息子なのだから。
この事実が公になれば、アーダルという教師への罰は掌に穴が空く程度では済まないだろう。
だが、だからといって弟の行動を肯定する訳にはいかない。
「カイン、そういう理由で人を傷つけては駄目だ」
「わかっています、でも、我慢できなかったんです、我慢できなくて、僕は……僕はきっと獣なんです」
「獣?」
今まで従順な態度しか取らなかったカインが俺の呼びかけを否定する。
けれどそれよりも俺は弟が自らを獣と称したことが気になった。
俺の戸惑いを察したのかカインは顔を伏せたまま言葉を続けた。
「……昔、四歳の頃に飼っていた小鳥を猫が襲っている場所を見ました。僕は猫を床に叩きつけ大怪我をさせてしまいました」
「それは……」
「襲われていたけれど籠の中の小鳥はまだ無傷で、僕はそれを知っていて、でも僕の鳥を傷つけようとした猫が許せなかった」
正直、どう答えたらいいのか迷う。
俺は猫は好きだが可愛がっている小鳥が襲われているところを見たら怒鳴って追い出そうとするだろう。
大怪我をさせるつもりはないが、小鳥から遠ざけようと必死になった結果猫を傷つけてしまう可能性はある。
だが、カインは小鳥を守りたいという気持ちだけでなく、制裁の感情で猫を床に叩きつけたと話している。
それは確かに恐ろしい事ではあるのだが、悪事なのかと問われれば迷ってしまう。
だって猫は小鳥を食い殺すつもりだったのだから。たまたまカインが手遅れになる前に間に合っただけで。
一番冷静な行動は猫を追い出して、以降鳥籠は猫の手の届かない場所に設置しなおすことだろうか。
あるいは絶対に猫が部屋に入れないようにする対策を講じるとか。
いや違う。思考がずれてしまった。カインはそういう話はしていない。
今考えるべきは小鳥が猫に襲われないようにする方法ではない。
「傷つけた猫は御婆様の飼い猫でした。それまで僕を可愛がってくれていた御婆様はその日から僕を怖がって避けるようになりました」
「いやそれは大人として駄目だろう」
確かにカインは恐ろしいけれど、別に理不尽に暴力的な訳ではない。過剰ではあるけれど。
そしてその過剰な制裁衝動に対し、身内で大人なら逃げず向き合う必要があると思うのだが。
それも上から目線の偉そうな綺麗ごとか。俺は内心で自分に呆れる。
恐怖という感情は本能的なものだ。
カインが自分を獣だと言った通り、彼の祖母には孫が恐ろしい獣に見えるようになったのだろう。
もしかしたら獣という言葉は祖母から彼に向けられたことがあるのかもしれない。
「そしてその出来事から少しして、僕はお祖父様から狩りに連れ出されるようになりました」
「は、四歳で?」
「そうです、自身で獣を狩ったりは余りなかったですけれど。ただ解体の手伝いとかはしました」
余りなかったというが四歳で獣を狩るということがおかしいだろう。しかも解体の手伝いまでさせるとか意味が分からない。
想像しただけで気分が悪くなった来た。これは俺が軟弱すぎるのか。
「お祖父様は生きている獣が死ぬ様を僕に見せたかったのだと思います。どこを傷つければ死ぬのかということを。簡単に生き物は死んでしまうということを」
「……成程」
恐怖から祖母は逃げたが祖父は彼なりの考えで孫を教育したという訳か。衝動を抑える方法ではなく、命の儚さを教えるというやり方で。
もしそれがなければ教師は掌ではなく喉笛をペンで貫かれていたのかもしれない。そう考えてぞっとした。
しかしそんな凄絶な暮らしをしてきて、王宮内ではひたすら大人しくか弱い子供を演じていたのか。
父はこのことを知っているのだろうか。そしてリヒトは。ちらりと見た黒猫は我関さずと言う顔で惰眠を貪っていた。
白豚皇帝時代、短時間だが俺を殺すことに迷っていたカインのことを思い出す。
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