【BL】白豚皇帝と呼ばれた俺が革命で死に戻ったら、俺を殺した弟が滅茶苦茶慕ってくるようになって可愛いけど怖い

砂礫レキ

文字の大きさ
上 下
51 / 89

51話 涙の理由

しおりを挟む
 弟との再会は図書室でということになった。

 図書室か中庭、それがカインの望んだ場所だったからだ。少しでも気楽にできるようにと、俺が彼に選択権を与えた。

 他人に聞かれたくない会話になることを予想し、カインが提示した二つの中から図書室を選ぶ。

 俺の方が先に入室し、弟の訪れを待った。


「レオン兄様……」


 扉がゆっくり開かれると共にか細い声が俺の名を呼ぶ。俺を兄と呼ぶ人間は一人しかいない。


「カイン」


 久しぶりに会った弟は思ったよりは健康そうだった。しかし子供らしく輝いていた大きな瞳に隠し切れない疲労が宿っていた。

 それは肉体的なものというより精神的なものが強いかもしれない。

 第二皇子らしく上等な衣服を纏い牢に入っていたとは思えない程清潔に身なりを整えられたカイン。

 侍女に連れられ図書室に入ってきた彼は、どこか怯えた目で俺を見ていた。

 まるで、俺が謝罪する為彼を待ち構えていたあの時のようだ。俺に虐められると思って泣き出した小さい子供。

 それはカインの顔立ちが整っていることもあり大層同情心を誘う表情だった。とても加害者だと思えない。

 だとしても彼が教師に大怪我をさせた上に皇帝からの詰問にも黙し牢屋に入っていた人物であることを忘れてはならない。

 カインを連れてきた侍女は俺に一礼をすると去っていった。トピアではなかった。

 ここまであっさりと二人きりにされるということは、恐らくカインはずっと牢の中で大人しくしていたのだろう。

 いや、二人きりではなかった。 


「にゃあ」


 弟の細腕の中には見慣れた黒猫が抱えられていた。気まぐれに鳴いただけで、こちらが呼びかけても完全に無視だ。

 カインに抱かれ暴れもせず媚も売らず何を考えているのかわからない顔をムクロはしている。相変わらずだ。


「今まで預かってくれてありがとう、助かった」


 そう礼を言いながら俺は飼い猫を引き取るように手を伸ばした。しかし黒猫はそれを無視してさっと地面に飛び降りてしまった。

 俺を一顧だにすることなく日当たりのよさそうな場所に移動して寝始める。

 黒猫の自由な行動を呆れながら許容し、笑い話にしようとカインを振り返る。

 その瞳を見た途端、心臓を撫でられるような悪寒が走った。俺はろくに考えもせず口から言葉を放つ。


「猫はこういう生き物だ、俺は全く気にしていない!」
 
「あ……」


 俺の台詞が終わると同時にカインの瞳から物騒な輝きが失せる。そして傷ついた子供の表情に戻った。


「あ、あ……僕……ごめんなさい、兄様の大切な猫なのに……」

「カイン、大丈夫だ。お前は何もしていない、俺は怒っていない」


 震える体を温めるように抱きしめる。抜き身の剣を抱いているようだなと思いながら。

 粗暴なだけの弟なら、逆に楽だったかもしれない。

 俺はやっぱりこのカインでも恐ろしいと思う。それは変わらない。

 けれどだからといって遠ざけることもできない。それはリヒトの命令だからではない。


「俺の為に怒ってくれたんだな、ありがとうカイン」


 でも俺の代わりに誰かを傷つけようとしなくていいんだ。そんなことは望んでいない。

 そう続けて口にすると弟は捨てられたような目をして大粒の涙を零した。俺にはやはりその理由がわからなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...