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45話 面倒な大人たち
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人に怪我をさせるというのはいけないことだ。
カインの母親がそういう考えの元息子を庇わないのなら筋が通っている。
単純に皇帝に逆らいたくなくて言いなりになっても理解はできる。
しかし彼女の考えがその二つの内どちらかとは限らない。
いや、それをいうならカインが教師を傷つけた理由だって確かではないのだが。
その内容次第でカインの実家の立場が不味いことになる。
「あーもうね、何もしないなら何も起こらなかったことにしてくれればいのに」
結局内輪の揉め事なんだし。そうリヒトが苛立ったように言う。
確かにそれも一理ある。今回の事件は全てカイン側の陣営で起きた事だ。
被害者の教師もカインの母方と繋がりがあると言うのなら、事故という扱いにすることも可能だった筈だ。
カインの本性に気づき、ついていけなくなった? それとも繋がり自体が元々希薄だった?
単純に罪は裁かれなければいけないという倫理観で何も手を打たなかった?
「……向うの動きはある程度わかっても、考えはよくわからないな」
「もう無視しちゃっていいと思う。ぶっちゃけカインさえいればいいんだし」
皇帝が嫁さんやその実家と不仲になって離婚しても息子は引き取るだろ。
そう暴論を吐く賢者を俺は投げやりになるなと諫めた。
「それはお前の私情だろ、リヒト。カインには母親が必要だ」
「それでもカインはお前の傍にいるなら母親は捨てると思うよ。あいつの中の一番と二番目以下の価値はドン引く位差があるからね」
そう口にするリヒトの声に怒りも憎悪も籠っていなかったが、それでも俺はぞっとした。
鮮血皇帝時代とはいえ、親友であるカインに目を抉られた彼の言葉は否定できない。
だが、だからこそ俺は思う。
「……だからって二番目以下が大切じゃない訳でもないだろう。弟に、そういう風に何かを捨てさせたくはない」
「へえ、子豚ちゃんいっちょ前に兄貴風吹かすじゃん?」
「茶化すな。とりあえずカインの母親とマルドゥク伯爵家のことは今回無視する、向うから言われない限り話し合いもしない」
俺が子供であるが故の単純さと身勝手で弟の為に単独で動いたということにする。宣言する俺に賢者はどうしてと訊いてきた。
そんなの簡単だ。
「今はまだ、大人たちにそこまで頭が回ると思われたくない。俺は実際賢くないから油断しておいて欲しいんだ。それにカインは兎も角、その母親と俺が近づけば伯父上が又癇癪を起しそうだ」
「自分の妹の後釜に居座っただけじゃなく、妹の息子まで取り込むつもりかって?大人なのにめんどくさ」
「義理の母親なのだから、いずれは距離を縮める必要はあるんだが……カイン不在の今は無理だな」
彼女が息子を救いたくて助けを求めて動いていたなら話は別だが。
多分今話し合いの場を設けても「余計なことはしないでください」と邪険にされて終わる気がする。いやそういうことをする女性かもわからないが。
わからないことは今は頭の隅に避けて置こう。とりあえず自分の中で方針は決まった。
やはり人と話すのは良い。俺は机へと向かう。
「とりあえず、父に会う為に手紙を書く」
「弟を牢から出せとか?普通に手紙で断られそう」
「いや、見舞いに来てくれとお願いすることにする」
「それも断られたら?」
「そのことを伯父上に話すって書く」
「……面倒くさい状態を更に面倒くさくするだけじゃん?」
「いいよ、それはそれで。もう、あれだ。父も含め全員面倒くさい思いをして貰おう」
俺は奇妙に清々しい気持ちで言う。
鏡の中の賢者は暫くの沈黙の後「お前又熱上がってるんじゃない?」と神妙な顔で訊いてきた。
カインの母親がそういう考えの元息子を庇わないのなら筋が通っている。
単純に皇帝に逆らいたくなくて言いなりになっても理解はできる。
しかし彼女の考えがその二つの内どちらかとは限らない。
いや、それをいうならカインが教師を傷つけた理由だって確かではないのだが。
その内容次第でカインの実家の立場が不味いことになる。
「あーもうね、何もしないなら何も起こらなかったことにしてくれればいのに」
結局内輪の揉め事なんだし。そうリヒトが苛立ったように言う。
確かにそれも一理ある。今回の事件は全てカイン側の陣営で起きた事だ。
被害者の教師もカインの母方と繋がりがあると言うのなら、事故という扱いにすることも可能だった筈だ。
カインの本性に気づき、ついていけなくなった? それとも繋がり自体が元々希薄だった?
単純に罪は裁かれなければいけないという倫理観で何も手を打たなかった?
「……向うの動きはある程度わかっても、考えはよくわからないな」
「もう無視しちゃっていいと思う。ぶっちゃけカインさえいればいいんだし」
皇帝が嫁さんやその実家と不仲になって離婚しても息子は引き取るだろ。
そう暴論を吐く賢者を俺は投げやりになるなと諫めた。
「それはお前の私情だろ、リヒト。カインには母親が必要だ」
「それでもカインはお前の傍にいるなら母親は捨てると思うよ。あいつの中の一番と二番目以下の価値はドン引く位差があるからね」
そう口にするリヒトの声に怒りも憎悪も籠っていなかったが、それでも俺はぞっとした。
鮮血皇帝時代とはいえ、親友であるカインに目を抉られた彼の言葉は否定できない。
だが、だからこそ俺は思う。
「……だからって二番目以下が大切じゃない訳でもないだろう。弟に、そういう風に何かを捨てさせたくはない」
「へえ、子豚ちゃんいっちょ前に兄貴風吹かすじゃん?」
「茶化すな。とりあえずカインの母親とマルドゥク伯爵家のことは今回無視する、向うから言われない限り話し合いもしない」
俺が子供であるが故の単純さと身勝手で弟の為に単独で動いたということにする。宣言する俺に賢者はどうしてと訊いてきた。
そんなの簡単だ。
「今はまだ、大人たちにそこまで頭が回ると思われたくない。俺は実際賢くないから油断しておいて欲しいんだ。それにカインは兎も角、その母親と俺が近づけば伯父上が又癇癪を起しそうだ」
「自分の妹の後釜に居座っただけじゃなく、妹の息子まで取り込むつもりかって?大人なのにめんどくさ」
「義理の母親なのだから、いずれは距離を縮める必要はあるんだが……カイン不在の今は無理だな」
彼女が息子を救いたくて助けを求めて動いていたなら話は別だが。
多分今話し合いの場を設けても「余計なことはしないでください」と邪険にされて終わる気がする。いやそういうことをする女性かもわからないが。
わからないことは今は頭の隅に避けて置こう。とりあえず自分の中で方針は決まった。
やはり人と話すのは良い。俺は机へと向かう。
「とりあえず、父に会う為に手紙を書く」
「弟を牢から出せとか?普通に手紙で断られそう」
「いや、見舞いに来てくれとお願いすることにする」
「それも断られたら?」
「そのことを伯父上に話すって書く」
「……面倒くさい状態を更に面倒くさくするだけじゃん?」
「いいよ、それはそれで。もう、あれだ。父も含め全員面倒くさい思いをして貰おう」
俺は奇妙に清々しい気持ちで言う。
鏡の中の賢者は暫くの沈黙の後「お前又熱上がってるんじゃない?」と神妙な顔で訊いてきた。
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