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43 鉢植えに咲く花の名は
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その後やたら熱心に自分の有能さをアピールするトピアを半ば追い出すように退出させた。
溺れた人間が藁を掴むような必死ささえ感じたのは気のせいだろうか。
部屋に内側から鍵をかけ鏡の前に立つ。そして鏡面を隠している布を取り払った。
そこには見慣れた賢者が腕組みをして立っていた。
俺は彼に半分もたれかかるようにして溜息を吐く。当然鏡なので実際に触れることはない。
「……凄く、疲れた」
「お疲れ様、子豚ちゃん」
「アーダルという教師も気になるが、あのトピアという娘は……一体何でそこまで俺に仕えたがるんだ?」
短時間で態度が変わり過ぎだろう。
俺のぼやきに対しリヒトは顎に人差し指を当てて考え込むような仕草をした。
「俺はその理由、何となくわかるけど……その前にあいつ女の人じゃないんだよね」
「……は?」
「男なんだよ、二番目の世界だと俺が会った時は去勢済みだったけど」
命令をしくじった罰で薬の材料にしましたとか言ってたけど今回も既にそうなのかね。
そうどうでもよさそうに語る賢者に俺は詰め寄る。
「どういうことだ?つまりディストはわざわざ男を変装させてカインの侍女に?それと薬の材料ってなんだ怖い!」
色々と訳がわからない。
俺の主張に対しあいつのことを理解できる人間なんてこの世にいるものかと賢者が辛辣に返してくる。
「今回の件についてはわからない。独断で動かせる部下があのトピアって奴しかいない可能性もあるし、単純に実験気分かもしれないし」
トピアだっけ? あいつ薬とか魔術とかで女性的な体にされてるかもな。
そう淡々と言われるが、この世界のディストはまだ十二歳の子供だ。俺と違い以前の記憶も知識もないだろう。
しかし、そういった研究をまだしていないのかというと否定できない。
そもそも俺は白豚時代、彼がネクロマンサーと呼ばれていたことすら知らなかったのだ。城に密偵を放っていたこともだ。
「俺の侍女の中にも男がいるのかな……」
「いや性別よりも先に気にすることあるでしょ、それに居ないんじゃない」
あいつの部下が子豚ちゃん付きの侍女だったら廊下で倒れている所を俺らが見つけるまで放置する筈ないし。
何よりあのような傲慢な態度の侍女たちを長く野放しにするというのがありえない。
リヒトが指折りしながら否定材料を挙げていく。
「この世界のディストは子豚ちゃんに対して傍観者を気取ることはしないと思うな、そんな余裕ないでしょ」
「何故だ?」
「そんなの、あんたがカインといちゃいちゃ仲良くしてるからに決まってる……あ」
「どうした」
「そういや、カインはトピアって奴殺したことあったなって。いや敵対したから仕方ないんだけどね?」
それにディストが死体盗んだ時の話だから、当事者たち覚えてないと思うしノーカンで。
そうあっけらかんと告げる賢者の倫理観も相当崩れている気がする。
「それなら、今回の事件を切っ掛けにあそこまでカインを恐れるのもわかる気がする。だが俺に仕えたがるのが解せない」
ディストに屋敷に帰ってくるなと命じられているのかな。
俺が首を傾げるとリヒトはそんなことも分からないのかというように人差し指を振った。
「そんなの簡単でしょ、カインとディストと子豚ちゃん……誰が主人なら一番怖くない?」
「……俺、だな。一番頼りないし、弱い」
「でも一番温厚でしょ、あんたはあいつが複数回ミスったの叱るだけで許した。気分を害していたのに罰も与えずにね」
「そんなの、あれぐらいで罰なんて与える方が」
「おかしい?俺はそう思わないけれど。だってあんたは次期皇帝で第一皇子だ」
「……だからと言って、不必要に傲慢になる必要はない。……ちゃんと怒る時は怒らなければいけないけれど。それは頑張る、けど」
俺がそう、もぞもぞと口にすると盲目の賢者は溜息を大きく吐いた。
「この子、この先が心配過ぎる……」
「やはり、情けないか。もう少ししっかりしないと駄目だな」
「うん、だって見えちゃうもん。カインとディストの外見と地位と性能に集まってきた連中の何割かがそっち行くの」
「そっち?」
「あいつらの苛烈さや冷酷さに疲弊しきった時に、こういう鷹揚な許しを上から浴びせられたら……そりゃ逃げ込みたくもなるよね。しかも頼りないところを隠さないし、隙が多すぎる」
あんたの支援者が増えるのはいいけど、あの二人が更に怖いことになるから距離感は本当に気を付けてよ。
そう今一つ理解が難しい説教をリヒトから受ける。
隙が多い自覚はあるが、カインとディストに惹かれる連中は俺に興味を持たないと思う。俺と彼らは出来が違い過ぎる。
彼らが大輪の薔薇なら、俺はやたら豪華な鉢植えに植えられた雑草だろう。薔薇を植える為に鉢植えを欲しがる人間ならいるかもしれないが。
俺がそう告げたら、そういうところが油断してるんだよと更に叱られた。
溺れた人間が藁を掴むような必死ささえ感じたのは気のせいだろうか。
部屋に内側から鍵をかけ鏡の前に立つ。そして鏡面を隠している布を取り払った。
そこには見慣れた賢者が腕組みをして立っていた。
俺は彼に半分もたれかかるようにして溜息を吐く。当然鏡なので実際に触れることはない。
「……凄く、疲れた」
「お疲れ様、子豚ちゃん」
「アーダルという教師も気になるが、あのトピアという娘は……一体何でそこまで俺に仕えたがるんだ?」
短時間で態度が変わり過ぎだろう。
俺のぼやきに対しリヒトは顎に人差し指を当てて考え込むような仕草をした。
「俺はその理由、何となくわかるけど……その前にあいつ女の人じゃないんだよね」
「……は?」
「男なんだよ、二番目の世界だと俺が会った時は去勢済みだったけど」
命令をしくじった罰で薬の材料にしましたとか言ってたけど今回も既にそうなのかね。
そうどうでもよさそうに語る賢者に俺は詰め寄る。
「どういうことだ?つまりディストはわざわざ男を変装させてカインの侍女に?それと薬の材料ってなんだ怖い!」
色々と訳がわからない。
俺の主張に対しあいつのことを理解できる人間なんてこの世にいるものかと賢者が辛辣に返してくる。
「今回の件についてはわからない。独断で動かせる部下があのトピアって奴しかいない可能性もあるし、単純に実験気分かもしれないし」
トピアだっけ? あいつ薬とか魔術とかで女性的な体にされてるかもな。
そう淡々と言われるが、この世界のディストはまだ十二歳の子供だ。俺と違い以前の記憶も知識もないだろう。
しかし、そういった研究をまだしていないのかというと否定できない。
そもそも俺は白豚時代、彼がネクロマンサーと呼ばれていたことすら知らなかったのだ。城に密偵を放っていたこともだ。
「俺の侍女の中にも男がいるのかな……」
「いや性別よりも先に気にすることあるでしょ、それに居ないんじゃない」
あいつの部下が子豚ちゃん付きの侍女だったら廊下で倒れている所を俺らが見つけるまで放置する筈ないし。
何よりあのような傲慢な態度の侍女たちを長く野放しにするというのがありえない。
リヒトが指折りしながら否定材料を挙げていく。
「この世界のディストは子豚ちゃんに対して傍観者を気取ることはしないと思うな、そんな余裕ないでしょ」
「何故だ?」
「そんなの、あんたがカインといちゃいちゃ仲良くしてるからに決まってる……あ」
「どうした」
「そういや、カインはトピアって奴殺したことあったなって。いや敵対したから仕方ないんだけどね?」
それにディストが死体盗んだ時の話だから、当事者たち覚えてないと思うしノーカンで。
そうあっけらかんと告げる賢者の倫理観も相当崩れている気がする。
「それなら、今回の事件を切っ掛けにあそこまでカインを恐れるのもわかる気がする。だが俺に仕えたがるのが解せない」
ディストに屋敷に帰ってくるなと命じられているのかな。
俺が首を傾げるとリヒトはそんなことも分からないのかというように人差し指を振った。
「そんなの簡単でしょ、カインとディストと子豚ちゃん……誰が主人なら一番怖くない?」
「……俺、だな。一番頼りないし、弱い」
「でも一番温厚でしょ、あんたはあいつが複数回ミスったの叱るだけで許した。気分を害していたのに罰も与えずにね」
「そんなの、あれぐらいで罰なんて与える方が」
「おかしい?俺はそう思わないけれど。だってあんたは次期皇帝で第一皇子だ」
「……だからと言って、不必要に傲慢になる必要はない。……ちゃんと怒る時は怒らなければいけないけれど。それは頑張る、けど」
俺がそう、もぞもぞと口にすると盲目の賢者は溜息を大きく吐いた。
「この子、この先が心配過ぎる……」
「やはり、情けないか。もう少ししっかりしないと駄目だな」
「うん、だって見えちゃうもん。カインとディストの外見と地位と性能に集まってきた連中の何割かがそっち行くの」
「そっち?」
「あいつらの苛烈さや冷酷さに疲弊しきった時に、こういう鷹揚な許しを上から浴びせられたら……そりゃ逃げ込みたくもなるよね。しかも頼りないところを隠さないし、隙が多すぎる」
あんたの支援者が増えるのはいいけど、あの二人が更に怖いことになるから距離感は本当に気を付けてよ。
そう今一つ理解が難しい説教をリヒトから受ける。
隙が多い自覚はあるが、カインとディストに惹かれる連中は俺に興味を持たないと思う。俺と彼らは出来が違い過ぎる。
彼らが大輪の薔薇なら、俺はやたら豪華な鉢植えに植えられた雑草だろう。薔薇を植える為に鉢植えを欲しがる人間ならいるかもしれないが。
俺がそう告げたら、そういうところが油断してるんだよと更に叱られた。
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