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34話 目覚めと騒動
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扉を開けた先の眩しさに目を閉じ、光が落ち着いたことを悟って瞼を開く。
見慣れた天蓋の白を懐かしいとは思わなかった。
俺にとってはせいぜい数時間自室を留守にしただけだったのだから。
だが肉体はともかく俺の意識は三日間行方不明だったらしい。
お陰で目が覚めた時は結構な騒ぎになった。
俺が迷い込んで蹲っていた場所は、前王妃の生活棟だった。
病弱な俺の母が暮らしていたそこに、主人亡き後立ち入る理由のあるものは少数だった。
つまり俺はそこに、人のいない場所を探し辿り着いたということだろう。
最低限の清掃はされていても人が寝ることを想定していない廊下で眠りこけた結果、俺は体調を崩し熱を出すことになったのだと思う。
父との対面に緊張し数日間ろくに眠れなかった時点で不調ではあったのかもしれない。
ただそれはあくまで気力とか精神的なもので、実際に病に伏せることになるとは思ってもなかった。
俺が目を覚ました頃には解熱は済んでいて、そういった意味での苦痛はなかったのだが。
「……もう、勘弁して欲しいな」
寝台に寝転がりながら呟く。
時間は深夜。小さな声は薄闇に吸い込まれ途絶えた。
俺は弱音を吐いた結果、独り言に対し返事がないことの有難さを痛感してしまう。
この一週間近く、本当に大変だったのだ。
数日間眠り続けた代償として俺は現在自室に軟禁されている。
寝たきりの病み上がりだからそれは仕方ないだろう。
散々検査もされた。体はまともに動くか。言葉は今まで通り話せるか。知能に問題ないか。
確かに目覚めた当初は自分でも驚く程呂律が回らなかったし、手足が強張っていた。
だがそれは三日間の発声訓練とマッサージと運動である程度改善している。
看護の為という名目で一日中自室に人がいる状況では鏡からリヒトを呼び出すこともできない。
本日、とうとう開き直って我儘な子供の振りをして騒いだ。かなり恥ずかしかった。
白豚皇帝時代の記憶を持ってからの行動はそれなりに大人しかったから、余計奇異な目で見られた気もした。
しかし恥をかいた結果、今後は夕食以降は今まで通り一人になれるようになった。
目覚めてから四日目でようやくだ。
そしてむずむずしながら人が寝静まる時間まで待ち俺は鏡の前に立った。
名を呼ぶと何時も通りの姿で盲目の賢者が浮かび上がる。俺が挨拶を言う前に彼が押し殺した声で告げた。
「子豚ちゃん、カインがやばい。なんか牢屋に入れられてるっぽい」
信じられない内容に俺は思わず夜だということを忘れて叫んだ。
「馬鹿な、カインは皇子だぞ!この国で彼を牢に入れられる者など……!」
いるものか。そう言い切ろうとした直後それが正しくないと気づく。
自国の皇子に対しそんな扱いができるものはほぼ皆無だ。それこそ革命でも起きない限り。
しかし唯一は存在する。
「……父上か?!しかし、何故……」
なぜ出来損ないの俺だけでなく、カインにまでそのような酷な仕打ちが出来る。
俺は気づかぬ内に血が出るくらい唇を噛みしめていた。
見慣れた天蓋の白を懐かしいとは思わなかった。
俺にとってはせいぜい数時間自室を留守にしただけだったのだから。
だが肉体はともかく俺の意識は三日間行方不明だったらしい。
お陰で目が覚めた時は結構な騒ぎになった。
俺が迷い込んで蹲っていた場所は、前王妃の生活棟だった。
病弱な俺の母が暮らしていたそこに、主人亡き後立ち入る理由のあるものは少数だった。
つまり俺はそこに、人のいない場所を探し辿り着いたということだろう。
最低限の清掃はされていても人が寝ることを想定していない廊下で眠りこけた結果、俺は体調を崩し熱を出すことになったのだと思う。
父との対面に緊張し数日間ろくに眠れなかった時点で不調ではあったのかもしれない。
ただそれはあくまで気力とか精神的なもので、実際に病に伏せることになるとは思ってもなかった。
俺が目を覚ました頃には解熱は済んでいて、そういった意味での苦痛はなかったのだが。
「……もう、勘弁して欲しいな」
寝台に寝転がりながら呟く。
時間は深夜。小さな声は薄闇に吸い込まれ途絶えた。
俺は弱音を吐いた結果、独り言に対し返事がないことの有難さを痛感してしまう。
この一週間近く、本当に大変だったのだ。
数日間眠り続けた代償として俺は現在自室に軟禁されている。
寝たきりの病み上がりだからそれは仕方ないだろう。
散々検査もされた。体はまともに動くか。言葉は今まで通り話せるか。知能に問題ないか。
確かに目覚めた当初は自分でも驚く程呂律が回らなかったし、手足が強張っていた。
だがそれは三日間の発声訓練とマッサージと運動である程度改善している。
看護の為という名目で一日中自室に人がいる状況では鏡からリヒトを呼び出すこともできない。
本日、とうとう開き直って我儘な子供の振りをして騒いだ。かなり恥ずかしかった。
白豚皇帝時代の記憶を持ってからの行動はそれなりに大人しかったから、余計奇異な目で見られた気もした。
しかし恥をかいた結果、今後は夕食以降は今まで通り一人になれるようになった。
目覚めてから四日目でようやくだ。
そしてむずむずしながら人が寝静まる時間まで待ち俺は鏡の前に立った。
名を呼ぶと何時も通りの姿で盲目の賢者が浮かび上がる。俺が挨拶を言う前に彼が押し殺した声で告げた。
「子豚ちゃん、カインがやばい。なんか牢屋に入れられてるっぽい」
信じられない内容に俺は思わず夜だということを忘れて叫んだ。
「馬鹿な、カインは皇子だぞ!この国で彼を牢に入れられる者など……!」
いるものか。そう言い切ろうとした直後それが正しくないと気づく。
自国の皇子に対しそんな扱いができるものはほぼ皆無だ。それこそ革命でも起きない限り。
しかし唯一は存在する。
「……父上か?!しかし、何故……」
なぜ出来損ないの俺だけでなく、カインにまでそのような酷な仕打ちが出来る。
俺は気づかぬ内に血が出るくらい唇を噛みしめていた。
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