【BL】白豚皇帝と呼ばれた俺が革命で死に戻ったら、俺を殺した弟が滅茶苦茶慕ってくるようになって可愛いけど怖い

砂礫レキ

文字の大きさ
上 下
33 / 90

33話 夢の終わりと新しい扉

しおりを挟む
不思議な空間で本来会う筈のない人間と出会い、そして別れを経験した。

 大人の姿のディスト。鮮血皇帝と呼ばれる別世界の俺と運命を共にした隻眼のネクロマンサー。

 彼が消えた後、その場には一冊の本が残された。何かの皮で作られているらしい表紙からは題名も内容も分からない。

 手に取ろうとした瞬間後ろから首根っこを掴まれる。振り返らなくてもわかる、リヒトだった。


「そんな怪しい物に気軽に触ろうとしない。子豚ちゃんが触るのはこっち」


 そう彼に示されたのはドアノブだった。

 扉は無く、しかし見えない扉があるならその位置にあるだろうなという具合で真鍮製らしき取っ手が空中に浮かんでいた。

 どちらかというと、本よりもこれの方が明らかに怪しい。


「それを掴んで、自分の部屋に戻りたいと強く願って。そうすれば戻れる」

「わかった。あ、ディストから預かったお前の目だけれど今返した方がいいか?」


 俺の問いかけに盲目の賢者は難しい表情をした。口元に不満と迷いが見え隠れする。

 彼は先程の本を左手に持っていた。そう、消えた筈の彼の手はいつのまにか当たり前のように元の位置に収まっている。

 蜘蛛になったり単独行動をしていた時点で常人の体と違うことはわかっているが、やはり不思議なことは不思議だ。

 しかしこんなに簡単に付け外しが出来るなら、ディストから返して貰った瞳も簡単に元の位置に戻るのではないだろうか。

 隻眼の賢者の姿を想像していると、本人から信じられない回答が返される。


「……正直あんまり要らないんだよね。何されたかわからないし。ここに捨てていこう」

「駄目だぞ、折角持ってきてくれたのに。そんな事言うなら返さないぞ」

「えぇ……、じゃあいいよそれで」

「えっ」


 あっさりと首肯されて逆に驚く。こう言えば渋々といった様子でリヒトは瞳を受け取ると思ったのに。

 なんだか普通に譲られてしまった。拾った石とかではなく生きている人間の眼球を。


「子豚ちゃん、体弱いんだっけ?じゃあそれ飲み込むといいよ。多分生命力強くなるから。……というか死ににくくなる?」

「譲って貰って申し訳ないが絶対嫌だ」


 獣の目さえ食べたくないのに、リヒトの眼球なんて口にできる筈がない。

 というか二つしかない瞳の内、やっと戻ってきた一つを他人に食わせようとするな。


「リヒト、お前はもっと自分の体を大事にしろ!」

「えっ、それ、そっちが言う?」

「俺も大事にするからお前もそうしてくれ」


 これは返すけど絶対捨てるな。そう告げて預かっていた黒色の瞳を賢者の空いた手に押し付ける。

 リヒトは物凄く嫌そうな顔をしたが放り投げたりせずそれを懐に閉まった。


「……本当に、要らないんだけどなあ」

「いつか必要になる時が来るかもしれないだろ。……それとも、カインに渡すか?」

「は?何で?」

「わからないけれど、何となくだ」

「何それ……普通に嫌だよ」


 普通にトラウマ再現じゃん、そうへらりと笑ってリヒトは俺の頭に手を置いた。

 押さえ付けられているせいで俺は彼を見上げることが出来ない。皇帝陛下、そう彼はぽつりと呟いた。

 俺を呼んだのか、別の誰かを想ったか判断が出来なかった。


「俺がやってる事って、本当は凄い虚しいことなんだよね。知ってたけど。だって違う世界の同一人物は結局別人じゃん」

「リヒト……?」

「それでも、二番目の世界のカインは、俺が初めて出会ったあいつとよく似ていて、だから色々、ちょっとショックだったかもしれない」


 俺の存在も意見もカインにとってはどうでもいいものなんだって。そう淡々と語る姿が逆に痛々しかった。


「いやわかっていたよ、二回目だもの。あいつがやばいブラコンで、兄貴しか考えてないみたいなのはわかっていたよ?」

「それでも、その世界のカインは……お前を親友だと思っていた筈だ」

「うん。ディストが渡してきた記憶、俺に会う前のカインが俺に対して遺した言葉、俺を親友だって呼んでいて感謝までして……酷くない?」


 俺と会えて良かったとか、死んだ後に言ってくるとか酷くない?

 そう震えた声でいう賢者の手を俺は両手で掴んだ。


「カインとか、あのネクロマンサーとか、頭おかしいぐらい一途なんだよ。それは知っていたんだ……だから割り切ったつもりなのに」


 一番目大切な存在が別格過ぎるだけで、当たり前に俺の事も考えていてくれたなんて、今更気づくの最低過ぎるでしょ。

 俺はリヒトの冷たい掌を自らの両手で包み込んだ。そうしなければいけない気がした。


「きっとこの世界のカインとディストとも、お前は仲良くなれるよ。……繰り返しじゃなく、新しい出会いとして」


 だから俺と一緒にいてくれ。この世界の俺たちが幸せになれるように助けてくれ。

 そう盲目の賢者の腕を掴んで自らの額に押し付ける。

 仕方ないな、という言葉が聞こえてきたのは暫くしてからの事だった。

 その言葉に安堵し俺は見えない扉を開く。目が眩むほどの光が場を白一色に染め上げた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

処理中です...