【BL】白豚皇帝と呼ばれた俺が革命で死に戻ったら、俺を殺した弟が滅茶苦茶慕ってくるようになって可愛いけど怖い

砂礫レキ

文字の大きさ
上 下
33 / 89

33話 夢の終わりと新しい扉

しおりを挟む
不思議な空間で本来会う筈のない人間と出会い、そして別れを経験した。

 大人の姿のディスト。鮮血皇帝と呼ばれる別世界の俺と運命を共にした隻眼のネクロマンサー。

 彼が消えた後、その場には一冊の本が残された。何かの皮で作られているらしい表紙からは題名も内容も分からない。

 手に取ろうとした瞬間後ろから首根っこを掴まれる。振り返らなくてもわかる、リヒトだった。


「そんな怪しい物に気軽に触ろうとしない。子豚ちゃんが触るのはこっち」


 そう彼に示されたのはドアノブだった。

 扉は無く、しかし見えない扉があるならその位置にあるだろうなという具合で真鍮製らしき取っ手が空中に浮かんでいた。

 どちらかというと、本よりもこれの方が明らかに怪しい。


「それを掴んで、自分の部屋に戻りたいと強く願って。そうすれば戻れる」

「わかった。あ、ディストから預かったお前の目だけれど今返した方がいいか?」


 俺の問いかけに盲目の賢者は難しい表情をした。口元に不満と迷いが見え隠れする。

 彼は先程の本を左手に持っていた。そう、消えた筈の彼の手はいつのまにか当たり前のように元の位置に収まっている。

 蜘蛛になったり単独行動をしていた時点で常人の体と違うことはわかっているが、やはり不思議なことは不思議だ。

 しかしこんなに簡単に付け外しが出来るなら、ディストから返して貰った瞳も簡単に元の位置に戻るのではないだろうか。

 隻眼の賢者の姿を想像していると、本人から信じられない回答が返される。


「……正直あんまり要らないんだよね。何されたかわからないし。ここに捨てていこう」

「駄目だぞ、折角持ってきてくれたのに。そんな事言うなら返さないぞ」

「えぇ……、じゃあいいよそれで」

「えっ」


 あっさりと首肯されて逆に驚く。こう言えば渋々といった様子でリヒトは瞳を受け取ると思ったのに。

 なんだか普通に譲られてしまった。拾った石とかではなく生きている人間の眼球を。


「子豚ちゃん、体弱いんだっけ?じゃあそれ飲み込むといいよ。多分生命力強くなるから。……というか死ににくくなる?」

「譲って貰って申し訳ないが絶対嫌だ」


 獣の目さえ食べたくないのに、リヒトの眼球なんて口にできる筈がない。

 というか二つしかない瞳の内、やっと戻ってきた一つを他人に食わせようとするな。


「リヒト、お前はもっと自分の体を大事にしろ!」

「えっ、それ、そっちが言う?」

「俺も大事にするからお前もそうしてくれ」


 これは返すけど絶対捨てるな。そう告げて預かっていた黒色の瞳を賢者の空いた手に押し付ける。

 リヒトは物凄く嫌そうな顔をしたが放り投げたりせずそれを懐に閉まった。


「……本当に、要らないんだけどなあ」

「いつか必要になる時が来るかもしれないだろ。……それとも、カインに渡すか?」

「は?何で?」

「わからないけれど、何となくだ」

「何それ……普通に嫌だよ」


 普通にトラウマ再現じゃん、そうへらりと笑ってリヒトは俺の頭に手を置いた。

 押さえ付けられているせいで俺は彼を見上げることが出来ない。皇帝陛下、そう彼はぽつりと呟いた。

 俺を呼んだのか、別の誰かを想ったか判断が出来なかった。


「俺がやってる事って、本当は凄い虚しいことなんだよね。知ってたけど。だって違う世界の同一人物は結局別人じゃん」

「リヒト……?」

「それでも、二番目の世界のカインは、俺が初めて出会ったあいつとよく似ていて、だから色々、ちょっとショックだったかもしれない」


 俺の存在も意見もカインにとってはどうでもいいものなんだって。そう淡々と語る姿が逆に痛々しかった。


「いやわかっていたよ、二回目だもの。あいつがやばいブラコンで、兄貴しか考えてないみたいなのはわかっていたよ?」

「それでも、その世界のカインは……お前を親友だと思っていた筈だ」

「うん。ディストが渡してきた記憶、俺に会う前のカインが俺に対して遺した言葉、俺を親友だって呼んでいて感謝までして……酷くない?」


 俺と会えて良かったとか、死んだ後に言ってくるとか酷くない?

 そう震えた声でいう賢者の手を俺は両手で掴んだ。


「カインとか、あのネクロマンサーとか、頭おかしいぐらい一途なんだよ。それは知っていたんだ……だから割り切ったつもりなのに」


 一番目大切な存在が別格過ぎるだけで、当たり前に俺の事も考えていてくれたなんて、今更気づくの最低過ぎるでしょ。

 俺はリヒトの冷たい掌を自らの両手で包み込んだ。そうしなければいけない気がした。


「きっとこの世界のカインとディストとも、お前は仲良くなれるよ。……繰り返しじゃなく、新しい出会いとして」


 だから俺と一緒にいてくれ。この世界の俺たちが幸せになれるように助けてくれ。

 そう盲目の賢者の腕を掴んで自らの額に押し付ける。

 仕方ないな、という言葉が聞こえてきたのは暫くしてからの事だった。

 その言葉に安堵し俺は見えない扉を開く。目が眩むほどの光が場を白一色に染め上げた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

元Sランクパーティーのサポーターは引退後に英雄学園の講師に就職した。〜教え子達は見た目は美少女だが、能力は残念な子達だった。〜

アノマロカリス
ファンタジー
主人公のテルパは、Sランク冒険者パーティーの有能なサポーターだった。 だが、そんな彼は…? Sランクパーティーから役立たずとして追い出された…訳ではなく、災害級の魔獣にパーティーが挑み… パーティーの半数に多大なる被害が出て、活動が出来なくなった。 その後パーティーリーダーが解散を言い渡し、メンバー達はそれぞれの道を進む事になった。 テルパは有能なサポーターで、中級までの攻撃魔法や回復魔法に補助魔法が使えていた。 いざという時の為に攻撃する手段も兼ね揃えていた。 そんな有能なテルパなら、他の冒険者から引っ張りだこになるかと思いきや? ギルドマスターからの依頼で、魔王を討伐する為の養成学園の新人講師に選ばれたのだった。 そんなテルパの受け持つ生徒達だが…? サポーターという仕事を馬鹿にして舐め切っていた。 態度やプライドばかり高くて、手に余る5人のアブノーマルな女の子達だった。 テルパは果たして、教え子達と打ち解けてから、立派に育つのだろうか? 【題名通りの女の子達は、第二章から登場します。】 今回もHOTランキングは、最高6位でした。 皆様、有り難う御座います。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...